―2年C組、昼休み―

「ん〜…」

母ちゃんが作っためちゃくちゃ美味いお弁当を広げながら、俺は頭を悩ませていた。
クラスメイトで仲良しのブン太君が、購買で買ってきたらしいパンを持って俺の席までやってくる。

「ジローが寝てないなんて珍しいじゃん。どうしたんだよぃ?」

俺の前の席の椅子を足で引きずって向きを変えてブン太君は座った。

「あれ?ブン太君、今日お弁当は?」
「ああとっくに早弁したからもうない」

俺の机の上にはブン太君が買ってきたらしいパンとおにぎりとお菓子が山積みにされた。

「どうかしたのかよ?何か元気ねーじゃん」
「うん…」

俺は朝からずっと頭を支配していた悩みをブン太君に相談することにした。



「実はさ…明日弟の誕生日なんだ」
「へー。お前弟3人いるんだっけ?」
「うん、小学6年の弟なんだけど」

そう、明日は長太郎の誕生日。
我が家では誕生日は全員盛大に祝われる。そして家族は皆絶対にプレゼントを用意しておかないといけないのだ。

「お前んち金持ちだから誕生日とかすげそーだな!」
「昔はそうだったんだけどね」

元々は社交界のなんちゃらみたいなどうやらすげー偉いらC人達呼んで高級ホテルの大ホールを貸しきってのパーティだったんだけど、
ある年俺が友達(庶民)のおうちで開かれる誕生日パーティの規模の小ささに驚いて家でその話をしたら、
父ちゃんが異様に食いついてそれ以来誕生日パーティの規模はそれまでの半分以下になった。
父ちゃんはセレブリティな生活しか知らないから、庶民的な生活に異様に憧れているフシがある。
その話をしたらブン太君は忌々しそうに「けっ」と言った。

「で?弟の誕生日がどうしたんだよぃ」
「それが…プレゼント、まだ用意できてないんだよね〜…」

去年の誕生日の時は考えてるうちに眠くなっちゃって結局新作ポッキーしかあげられなかった。
(ていうか毎年大体そんな感じ)だから、今年はきちんと用意しなきゃって思って!

思って…

「思って、たんだけど…」
「…思いつかないんだ?」

俺ははぁ〜っと息をついてうなだれた。

たまにはおにいちゃんらしいところ見せ付けて、長太郎に喜んでもらいたいんだけどなぁ…



「ねぇ!ブン太君なら何貰ったら嬉しい!?」
「俺が貰って嬉しいものなんて言ったって弟が喜ぶかわかんねぃだろぃ」
「参考までに聞かせて」
「そうだなぁ…俺ならバイキングのケーキ全種類!とか駄菓子屋のお菓子全種類!とか…」

ケーキ全種類…お菓子…

「…そんなの絶対長太郎喜ばないよ…」

「弟の好きなものって何だよ?プレゼントって相手が好きなもんをやるもんだろぃ」
「長太郎の好きなもの…喜ぶもの…」



………あ。



「ブン太君!お昼先に食べてていーよ!俺1年の教室行ってくる!」

俺は広げた弁当箱をまた包みなおして、弁当箱を掴んで席を立った。
ブン太君は俺が言わなくても既にパンとおにぎりを同時に食べていた。



大急ぎで1年B組に行く。
教室のドアを開けたら皆が一斉にこっちを見た。
いきなり2年が入ってきたから驚いてるみたい。

目的の亮ちゃんは窓際の席でお弁当を食べてる最中だった。

「亮ちゃん!」
「ジロー?何でお前がいるんだよ?」

友達と一緒にいた亮ちゃんは俺を見てびっくりした顔してる。
一緒にいる子はうちにも遊びに来たことのある子だ。確か英二君って言ったっけ?

「亮のお兄ちゃんだ!何でこんな所にいるんにゃ?」
「亮ちゃんと一緒にお弁当食べにきたんにゃ」

あ、ついつられちゃった…亮ちゃんが気持ち悪そうな目でこっちを見てる。

「どーゆー風の吹き回しだよ?」

ひとつ椅子を借りて亮ちゃんの机の傍に座ると、亮ちゃんは訝しげに聞いてきた。

「うん、ちょっと聞きたいことがあって」
「…何だよ」
「亮ちゃん、長太郎の誕生日プレゼント買った?」
「ああ、先週買いに行ったぜ」

さっすが亮ちゃん。我が家の一番の常識人!

俺は母ちゃんの作ったタコさんウインナーをつつきながら、どうやって切り出そうか考えていた。

「まさかお前、まだ買ってねーの?」
「うーん…」
「もう誕生日明日だぞ!?どうすんだよ」

亮ちゃん呆れてるみたい。

「さっきブン太君にさ、長太郎の好きなものをプレゼントしたらどうかって言われてさ」

で、考えてみたんだよね。長太郎の好きなもの。
俺そんなに長太郎と仲良しってわけじゃないから詳しくはないけど。
先月くらいに一度欲しいものを聞いたら「世界平和」って言われた。
さすがにそれはプレゼントには無理だC。

長太郎の好きなものは確かししゃもとピアノ。



それと亮ちゃん。



「ってわけで、考えてみました」

この教室に来るまでの道のりを走りながら書いた紙を亮ちゃんに渡す。

「………」

その紙を見た途端亮ちゃんはそれをぐしゃっと握りつぶした。

「ああっ!何すんだC!」
「うっせぇ馬鹿!こんなんナシだナシ!」
「えっ、何何、何て書いてあったの!?」

英二君も興味深そうに亮ちゃんが握りつぶした紙を見ようとしたけど、亮ちゃんが紙を持つ手を高く掲げて避けた。

「おいジロー、こんなんやったらお前マジで激ダサだぜ?」
「何でだよぅ、長太郎の好きなものっつったらコレだC!」
「馬鹿なことばっか言ってないで放課後買いに行けばいいだろ?」
「え〜…でもこれが一番いいと思うよ?」
「こんなん長太郎が喜ぶわけねーだろが!」

英二君が奪おうとする紙を器用に逃がせながらも亮ちゃんは俺に悪態をつく。

まったく、亮ちゃんは分かってないなぁ。

「これが一番喜ばれる自信が俺はある!」
「…その自信はどっから来るんだよ…」

俺は亮ちゃんの耳元に口を寄せた。

「考えてもみなよ、亮ちゃん。コレを貰って喜ぶ長太郎の姿を…」

亮ちゃんは眉を寄せて嫌そうにしながらも俺の話を聞いてくれた。
結構単純なところのある亮ちゃんを言いくるめるくらい俺には軽いもんだ。

「きっとすっごく感謝するだろうなぁ…俺と、もちろん亮ちゃんにも」
「……………」
「こんなプレゼント誰もきっと考えつかないよ?きっと驚くC!」
「………激ダサ…」



それから昼休みめいっぱい使って俺は亮ちゃんを説得した。
いつもは昼寝に使ってる時間を使ったなんて俺、マジマジ弟思いだC。

でもその甲斐あって亮ちゃんの教室を後にした俺の心は晴れやかだった。

今年の長太郎の誕生日は大成功間違いない。
いや、むしろ毎年この手でいくのもいいかもしれない。
金もかからないし喜んでもらえるし最高だ。



廊下を歩いてるとブン太君に会った。
また購買に行ってきたのか、手にはお菓子がたくさん握られてる。
いつも思うけどブン太君っておこづかいいくら貰ってるんだろ?
毎日あんなにお菓子買って破産しないのかな?不思議。

ブン太君と一緒に教室に向かいながら、機嫌のいい俺にブン太君は不思議そうに尋ねた。

「弟のプレゼント、決めたのか?」

俺は満面の笑みで答えた。

「うん!今年は最高のプレゼント用意できたC!」



明日の誕生日パーティが楽しみだ。

俺は大満足して午後の授業は気分良く眠れた。



「跡部ぇ〜…頼むから授業中は寝ないでくれよ…幸村!授業中に菓子食うな!」



担任の赤澤先生の呆れ返った声なんて、もちろん夢の中の俺には届かない。






「で、結局さっきの紙には何て書いてあったの?」
「……………激ダサなこと」
「にゃんだよそれ!わかんにゃいって!」

明日のことを思うと憂鬱になる亮。
でも大好きな弟の誕生日に浮き足立つ気持ちも抑えきれないのであった。



「…あいつ、金使いたくなかっただけじゃねーか…?」



 

prev next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -