今年の俺達の修学旅行は沖縄だ。

本当は俺は蓮二と一緒に海外にでも行きたい気分だったんだけど…
蓮二は長時間飛行機に乗るのが苦手だからな。
沖縄でも少し遠いくらいだ、なんて零していた。

せっかく二人で初めての旅行なんだ。
いくらオマケの人間が腐るほどいるとは言ってもやっぱり嬉しい。
クラスは違うがどうにか自由時間は蓮二と一緒に過ごしたい。
俺がそう言うと蓮二は照れたように「…俺もだ」と言ってくれた。



そして今、行きの飛行機の中―――



席は自由でいいとのことだったので当然隣には蓮二が座る。
だがその顔色はあまり良くない。

「蓮二、大丈夫?具合でも悪い?」
「…いや…」
「でも青いよ、顔。もしかして酔った?」
「いや…窓も小さいし、天井は低いし、隣には貞治。圧迫感がありすぎる」

そりゃあ俺は確かに平均より高い背を持ってるけど、それは蓮二だって同じだぞ?

せっかく隣同士なのにそんなことを言われてはたまらない。
さすがにちょっと傷ついていると、隣の蓮二が大きく溜め息をついた。

「…早く着くといいな」
「あと1時間24分くらいだよ」
「早く外の風を感じたい」

本当にうんざりしてるのか、蓮二は寝る体制に入った。
(目はいつも通りだけど寝る時と普段の違いくらいは俺なら分かる)

「眠れる?」
「いや…だが目を瞑っていれば少しはこの狭苦しさから気が紛れるかと思ってな」
「……………」

…言わないぞ!蓮二!
普段から目瞑ってるんだから普通にしてたら紛れるだろとか俺は言わないぞ!
それとも突っ込み待ちだろうか?

いや、蓮二に限ってそれはあるまい…

「…貞治がロクでもないことを考えている確率100%…」
「…俺は言わないぞ、蓮二」
「何がだ」

面倒臭そうな蓮二のことはもうそっとしておくことにする。
こういう時にしつこく構ってはこっちに被害が来るのは経験上分かりきっている。

…本当は行きの飛行機の中で

『これから初めての旅行だな…』
『蓮二…』
『まるで…新婚旅行だな…』
『楽しみだよ、蓮二…二人で色んな所に行こうな』

…みたいなこれからの旅行に向けての華やかな会話なんかを期待してたんだが…

「貞治、思考がうるさい」
「!?」

俺の思考を読んだのか!?
蓮二にもとうとうお義父さんの能力が受け継がれたのか…!

「…くだらないことを考えているだろう。お前は全部顔に出ている」

……………

「ああ…なるほど…」



周りはこれからの旅行に浮き足立って騒ぎ立てている。
教師達の制止の言葉など届くはずもない。

そんな中、俺と貞治の座る席だけは静けさを保っていた―――



そんなこんなで沖縄に到着。

飛行機の中から見えた青すぎる海にはさすがの蓮二も嬉しそうな顔をしていた。

「綺麗だな、貞治」
「ああ。本当に…綺麗だ。こんなに色が違うとはな」

飛行機に乗ってから初めて見せた蓮二の笑顔の方が相当綺麗だ。
そう思ったけど、言うのは止めた。
真っ赤になる蓮二の顔が見たい気持ちはあったけど、ここではまだ早いだろう。

この日のために俺は絶景ポイントを押さえておいた。

蓮二の嬉しそうな、照れた表情はその場所まで取っておきたい。
ああ、俺は何て出来た彼氏なんだろう。

飛行機から降りてしまえば後はクラスごとの行動だ。
しばらくは蓮二と離れてしまうが仕方ない。
俺は蓮二の分の荷物もきちんと拾って手渡して、自分のクラスに戻った。



この修学旅行の拠点は那覇だ。
なので沖縄とは言っても割と栄えている。
俺達と同じような修学旅行生の姿も数多く見える。
その中の何組かはカップルなのか手を繋いでいたり。

…そうやって公にいちゃいちゃしながら街を歩ける彼らが羨ましくないわけじゃない。
けれど俺達は男同士。
仕方ないことだと割り切って観光に集中することにした。

大きな荷物はバスに預けて、首里城やら観光地を回る。
正直言って修学旅行で訪れる観光地なんてものはつまらない以外の何者でもない。

こういう場所は個人的に訪れるから楽しいしゆっくり見れるのであって、修学旅行で流れ作業的に見るものじゃない。

途中で蓮二のクラスの方を伺うと、やっぱり蓮二はつまらなそうに首里城を眺めていた。



初日は移動の疲れもあるだおるという配慮からか、早々にホテルに向かった。

俺のチェックしたところここのホテルは結構いいホテルらしい。
(腐っても私立だ。高い積立金取ってるだけはある)
そしてここのホテルの裏は海になっていて、絶好の穴場スポットがあるという。
インターネットで調べた小さなサイトの言うことだから、本当に人は少ないんだと思う。

ホテルに着いてからは夕飯までは自由時間。
俺はその時その場所に蓮二を誘うつもりだった。

自分の部屋に荷物を置いて、メールで聞いておいた蓮二の部屋に向かう。
(悲しいかな、さすがに部屋はクラスで決まっている)



蓮二は部屋で自分の荷物を片付けているところだった。
さすが几帳面な蓮二だ。
すぐに使うであろう荷物をバッグの上の方に持ってきていた。
俺にはとても出来ない。蓮二はいいお嫁さんになるだろう。

「…どうしたんだ、貞治。そんなところに突っ立って」
「いや…蓮二、少し出れるかい?」
「構わないが少し待ってくれ。まだ荷物が片付いてない」

蓮二が荷物を片付けている間、俺は蓮二と同じ部屋の連中に軽く睨みをきかせておいた。



「終わったぞ…貞治?何してるんだ?」
「…ああ、いや。さあ行こう」

睨みをきかせている最中に蓮二が俺の元にやってきた。
蓮二の腕を引いて部屋を出る。

「貞治?どこに行くんだ?」
「いいところさ。きっと蓮二も喜ぶよ」
「そうか…」

腕を引いたままホテルを出る。

「貞治、ホテルの外に出るのは駄目だって先生が言ってたぞ」
「だからいいんだよ」

つまりその穴場スポットで俺達以外の生徒に会う確立は低いということだ。
どうしたって学校の連中に見られたくないからな。
蓮二は俺の言いたいことが分かったのか、とりあえずは納得したみたいで大人しく着いてきた。



「…ほら、ここだよ」
「………!」

しばらく歩いて着いた場所は、見つけてきた俺でも驚くほどの絶景だった。

白い砂浜、青い海。夕焼けが映って海もオレンジ色に染まっている。
観光案内のパンフレットのような景色がまさに目の前に広がっていた。

「…貞治…すごいよ…!綺麗だ…」
「ああ、本当だな…これは予想外だ…」

蓮二は嬉しそうに景色を眺めている。
うっすらと開いた瞳も海と夕焼けを映して淡い琥珀色に輝いている。

「貞治がこんな綺麗な場所を知っていたなんてな」
「蓮二のために探したんだ。本当に綺麗だな…」
「貞治…ありがとう。俺のために…」

そのまましばらく俺達は砂浜に座って海を眺めた。
蓮二は珍しく目を伏せない。
普段外で目を開けてるのは目にゴミが入るとかで嫌がるのに。
よほどこの景色が気に入ったんだろう。見入っているようだ。



「…っ、痛…」

風が吹いた途端、蓮二が目元を押さえて俯いた。

「蓮二?どうした?」
「今の風で何か目に入ったらしい…砂かな」
「見せて」

蓮二の頬を俺の両手で挟んで顔を上げさせる。
砂が入ったせいで瞳が潤んでいた。

「………取れた。まだ痛いか?」
「いや…もう大丈夫だ。ありがとう」

砂は取れても、俺はその手を離す気にはなれなかった。

だってこんな綺麗な景色の前でこんなシチュエーション、手を放すなんて勿体無いこと男なら出来るわけないだろう?

「…蓮二…」
「貞治…」

そっと唇が触れ合う。
ちゅ、と音を立てて離れると、蓮二が物足りなさげに唇を尖らせた。
普段大人っぽい蓮二の見せる幼い仕草が可愛くて。

「―――……」

俺はまた唇を合わせた。

「…ん、ぁ…」

キスは次第に深くなる。
舌を絡ませて蓮二の頭をぐっと押すと、蓮二も積極的に舌を絡めてきた。

いつもより激しい舌使いに、蓮二も雰囲気に酔っているんだろうことが知れる。

俺はそこが外だということも忘れて蓮二をその場に押し倒した。
ざしゃ、と砂が動く音がする。
俺はそのまま蓮二の上に覆いかぶさりキスを続けた。



「…っ、さ、だはる…んッ…」
「蓮二…愛してるよ…」
「ん…俺、も…」

キスの合間にそう囁けば、蓮二の頬が赤く染まった。
夕焼けに照らされたせいばかりじゃないだろう。

指先を首元から滑らせて、蓮二のシャツのボタンに手をかける。

「あ…さだ、はる…ここで…?」
「駄目かい?蓮二が可愛すぎて抑えられない…」
「んっ…あ…だめ、砂が入る…」

そんな可愛いことを言う蓮二の唇を更に塞いで、俺は蓮二の感じるように手を滑らせた…



―――――



……………



「…というのが俺の予想する今回の修学旅行なのだがどうだろう」

「どうでもいい描写が多すぎるな。そして感情移入がしづらい。うちの修学旅行はまだまだ先だ。ていうか、死ね」



貞治と蓮二のメモリーズ(妄想日記)〜修学旅行編〜は蓮二の手により破かれた。



 

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