※ハレグゥパロ
白石小春とユウジには見習うべき点もあるように思う。
「小春ぅ〜!今日も可憐な蝶のようや…!嗚呼…!俺はその翅を休め蜜を捧げる花になりたい…!」
「あらん、ユウくんたらっ!嬉しいこと言ってくれるやない☆」
この二人は(主に小春の機嫌がいいほんの一時に限るが)本当に仲がいい。
その仲の良さは、転校してきて以来休み時間のたびにユウジが小春に会いに来る毎日に、クラス中が慣らされてしまうほどだ。
今では上記のようなやり取りを笑うものも引くものもいない。
ただ生温い視線が彼らを包むだけだ(小春はそれが些か不満そうだ。都会者は笑いが分かってない、らしい)
「小春には小さくて愛らしくて純潔で真っ白なマーガレットがホンマに似合うなぁ」
「そうかしら、おおきに」
「俺、生まれ変わったらマーガレットになるわ!そして小春の髪を飾るんや」
「うふふ、嬉しい!」
「小春っ!」
「ユウくんっ!」
隣の席で繰り広げられる熱烈な抱擁に、俺は思う。
非っっっっっ常ーーーーーに、羨ましい!!!!!
…俺と蓮二は、一見付き合ってるとは思えない程にドライだ。
まぁ勿論男同士という間柄である以上そうおおっぴらに出来ないのは仕方ない。
だが蓮二は、二人っきりの時でさえクールだ。
俺がそれとなくスキンシップを図ろうとしてもさらりとそれを受け流す。
せめて小春の、1/10でいい。甘い顔を見せて欲しい。
せめてユウジの、1/10でいい。甘い言葉で囁いて欲しい。
考えてもみてくれ、上記のユウジのような台詞を言った俺に頬を染める蓮二を。
「貞治…嬉しい…俺もお前という鳥が翼を休める小枝になりたい…」などと言う蓮二を。
最高じゃないか!可愛いじゃないか!
小春とは比べ物にならない愛らしさであることここに際まれり!
「…と、いうわけだ」
放課後、俺は早速蓮二に俺の思うところを伝えてみた。
蓮二は俺の話を聞くなり眉をひそめ、目線を図書館の本に戻す。
「…蓮二、聞いてる?」
「馬鹿馬鹿しい話は耳に入れないようにしているんだ」
いつも通り蓮二はクールだ。
馬鹿馬鹿しいの一言で一蹴されるとさすがの俺も悲しい。
「…大体、そういう台詞を言うような奴が好みならそういう奴を選べばいいだろう。それこそ小春とか」
「蓮二じゃなきゃ意味がないのなんて分かるだろ?」
何が悲しくて小春と愛を囁き合わなければならないんだ。
蓮二は小さく溜め息をついて、本を閉じた。
どうやら俺の今の台詞は地味に蓮二の琴線に触れたらしい。
「………、やるとは言ってない」
願いが叶えられる希望を見出だした俺の顔を見て、蓮二は嫌そうに顔をしかめた。
「だが、参考程度にはなるだろう。バカップルなるもののデータを取ったことはないしな」
「うん!一度見てみるといい!蓮二も愛を囁き合う素晴らしさがきっと分かるよ!」
嬉々として笑顔を浮かべる俺に、蓮二は「馬鹿に付き合うのは大変だ」と今度は大袈裟に溜め息をついた。
翌日、昼休みに蓮二は俺のクラスに来た。
前日話した通り、小春とユウジのラブラブっぷりを観察するためだ。
今日一日の様子を見る限り今日も相当甘いトークが聞けそうだ。
小春とユウジが仲良く食事をする横で、俺と蓮二も弁当を広げる。
やたらと肉の多い弁当をつつきながらも蓮二は二人の会話に耳をすます。
俺も蓮二に倣って隣の二人に意識を傾けた。
「んね〜ぇ、ユウくん?」
「何やぁ、小春?」
「今日はまだしてもろてへんのやけどぉ?」
「え?」
「チューウ!」
「ははは、かわええネズミさんがおるなぁ」
ちょん、と小春のすぼめられた唇をつつくユウジ。
蓮二の箸から肉が落ちた。
「もぉ〜〜〜、ユウくんのいじわるぅ〜!」
「アハハハハ」
「もぉー、バカバカ!もー、」
「ハハハ、今度はかわええ牛さんが来たでぇ?」
ぷんぷんと怒る小春を意に介さず楽しげに笑うユウジを横目に、蓮二は箸を落とした。
「んもーーー!」
「おねだりばっかりしとると可愛い罪で逮捕してまうで!」
「いやんっ」
蓮二の目が開いた。怖い。
「罪状はそれだけやないでぇ?俺の心を盗んだ窃盗罪に、俺の心に入り込んだ不法侵入罪もや!」
「そないにぎょうさん?懲役何年になってまうのかしら」
「…もちろん終身刑や…!」
「ユウくん…!」
………!
理想だ…!
眼鏡の奥の目を輝かせる俺の前で蓮二の開かれた目が死んでいる。
小春とユウジはイチャイチャと腕を絡ませ合いながら教室を出ていった。
その後ろ姿を見送り、蓮二は小さく呟く。
「………貞治には悪いが俺はあんな愉快な生き物になれる自信はない………」
………ですよねー。
俺の理想はあっさり壊れた。
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