カフェにて 吹き付ける風が随分冷たさを増してきた。 俺もマフラー巻いてコート着て、ポケットに両手突っ込んで、完全に冬の姿だ。 立海の異形の者達はこの寒さにも関わらず服装は出会った夏の頃と変わらない。 相手は異形の者だし、それも当然か。 夏場は涼しげな顔をした彼らに腹を立てたりもしたけど、まぁ暑いよりは寒い方がマシだ。 着込めば凌げるんだから。 まぁそういうわけで、俺の毎日は穏やかだ。 背中を丸めて放課後の繁華街を歩く。 すっかり冬の顔に変わった街並み。 そこかしこにあるカフェのオープンテラスもわざわざこの寒い中使う人はいない。 いない ……………と、思ったんだけど。 少し離れたところにある評判のいいカフェのテラス席に座る人影が見えた。 この寒いのに物好きがいたもんだ。 足を止めないまま目は何となくそのテラスを見つめていた。 そして店に近付くにつれ、気付いてしまった。 真っ黒なジャケットに真っ黒なシャツ、真っ黒なネクタイ、真っ黒なスラックス。 それに反してやたらカラフルな髪色… 顔を改めて見る必要もない、あれは浮遊魂特別認定課。死神だ。 俺は咄嗟にテラスのすぐ近くの木の影に身を隠した。 …いや、別に隠れなくてもいいんだけど。 何となく苦手なんだよね、あの連中。 俺は自分よりカッコイイ男って基本的に嫌いだから。 気付いてない顔してさっさと通り過ぎちゃえば良かったのに、俺は不本意ながら彼らの会話を盗み聞きすることになってしまった。この寒いのに。 「…なぁ、白石…何でテラスなん?中も席あったやろ。寒いわ」 金髪の…確か謙也だっけ、が、青い顔して震えてる。 あ、そうか。特別認定課は実体があるんだっけ。 「何言うてん、謙也。店内がガラガラやから俺らがテラスに座らなアカンのやろ」 「は?」 「イケメンは客寄せになるからな。よぉ見えるとこに座らんと。店の売上気にして席選ぶ客なんて俺くらいやで。エクスタシーや!」 「……………さむい…」 謙也はペンギンのように震えながら隣の財前に身を寄せた。 財前も寒いのか真っ黒いマフラーを口まで引き上げて小刻みに震えながらされるがままにしている。 …イケメンが身を寄せ合って震える姿って何か可愛い。 「心頭滅却すれば火もまた涼し。逆もまた然りや」 「銀さん、お茶溢れとる」 不動峰の石田の兄貴、銀が震えながら持ったカップの中の紅茶がテーブルを濡らすのを、ガチホモにピッタリ張り付かれたオカマが拭いた。 心頭滅却しようが寒いものは寒いのだ。それが自然のあるべき姿だ。 この空間の中で平気な顔をしてるのは、豹柄のタンクトップの上に薄手の黒いパーカーを着ただけの寒さを感じないらしいアホと、逆に真っ黒い毛皮と帽子で完全防寒した千歳と、顔がいいだけの白石だけだ。 「千歳…帽子だけでええから貸して」 「嫌たい」 「財前…マフラー一緒に巻こ」 「何が悲しくて男と少女漫画再現せなあかんのですか」 謙也の頼みはことごとく一蹴されている。 「謙也は『走るのに防寒具なんか邪魔や』言うてコート着んからアカンのやで?あらゆるシチュエーションを想定せんからこういうことになんねん」 「うっさいわ…何で白石はそない薄着で平気やねん!」 「俺は服の下にみっしりカイロ貼っとるからな!」 …低温火傷になるぞ。 死神はヒトよりも肌が丈夫なんだろうか。 まぁツラの皮はヒトより厚そうだ。 「ええなぁ〜…いっこちょうだい」 「アカン、乳首から風邪ひいてまう」 「何で乳首のカイロ一択やねん」 というか乳首にカイロって…なにそれこわい。どこ発想? 「寒かとやったら職場からマント借りたらよかよ」 「ああ、死神必須アイテムやから常備しとるしな。せやけどあれダサいやん」 「謙也…防寒具に洒落っ気を求めたらアカンで。せやから俺みたいにカイロをやな、」 へぇ…やっぱり死神ってマントあるんだ。 連中が着用してるとこは見たことないけど。 「うちの課の備品ってロクなモンあらへんよなぁ」 「せやなぁ、回収課みたいに武器の類ないし」 「ま、うちの課は実戦ないからしゃーないッスわ」 結局以前千歳が持っていた錆びた鎌は回収課に返したんだろうか。 あの鎌のせいで危うく死にかけたことを思い出して俺は千歳の毛皮をむしってX'masのご馳走にしてやりたい衝動に駆られた。 「俺らも武器あったらええのに〜」 白石の言葉に全員が頷く。 死神として生まれたからには鎌を扱いたい気持ちは分からないでもない。 「最近俺ブ○ーチ読んでんねん」 「謙也さんもスか。俺もスわ」 「日本刀が武器とかかっこええよなぁ〜」 ○護がカッコイイのは認める。だが浮遊魂特別認定課がどのタイミングで日本刀を振り回すというんだ。 「俺、実は家で卍○の練習しとるとよ…」 「千歳も!?俺もやねん!」 「白石はどんな刀がよかと?」 「やっぱ俺は○夜兄さんみたいなんが似合うと思わん?何や美しく幽玄〜みたいな」 「俺は恋○がええなぁ」 「「「「「「「あー謙也はそんな感じ」」」」」」 「甘いスわ。皆もっと桃ちゃんとル○アを評価すべき」 「「「「「「財前はそうやろなぁ」」」」」」 …………… なんだこいつら… 何でこんなクソ寒いカフェテラスで中学生男子みたいな会話に興じてんの…? いつの間にかみんな寒さも忘れたかのように頬を上気させてキャッキャしてる。 俺は冷えきった体を震わせて曇天を仰いだ。 ブ○ーチは面白いけども。 ちなみに俺は剣○派だけども。 卍○無しでのしあがる心積もりだけども。 だけども。 平日の昼間(午後3時)は仕事しろ! |