ちとせせんぱいはこうもんちかくのみちにうずくまっていた。

こうもんへのみちををすすむうち、なきだしそうなかおをしたしらいしぶちょうと、そのしらいしぶちょうをささえるようによりそったおさむちゃんとすれちがった。



おさむちゃんとしらいしぶちょうはきずついたちとせせんぱいをこのばしょにおいていった。

どうしてそんなことできるんだろう?
おれなら、せんぱいからはなれたりしないのに。
せんぱいをかなしませたりしないのに。

うつむいたせんぱいはないてるみたいだった。
むひょうじょうのまま。
ただなみだだけが、まぼろしみたいにこぼれつづけるだけだった。
 
「…千歳先輩」

せんぱいはゆっくりかおをあげる。
なみだがおちたかたいどうろは、なみだをしみこませることもなくぬれていた。

おれにしょうてんをあわせたせんぱいのめがゆがむようにわらった。

「財前」
「先輩」

ちとせせんぱいのよこにおれもすわりこむ。
せんぱいはうでをおれのかたにまわした。
やさしいしぐさ。
せんぱいはほんとうは、やさしいんだ。

ただ、それをしらいしぶちょうがこわしただけ。
ただちょっとしらいしぶちょうがわるいひとなだけ。

かわいそうなちとせせんぱい。
おれがいるのに。

「財前。…二人に会うた?」
「…や、見てないッスわ」

せんぱいのうでにちからがはいる。
されるがままにおれはせんぱいのかたにあたまをのせた。

いま、ちとせせんぱいはやさしい。

さいきんではすっかりこんなやさしさみせてくれなくなった。
だからいまのこのじかんは、にじみたいにちょっとのあいだだけ。
それでもやさしいせんぱいがいるからおれはなにされてもせんぱいをゆるしてまうんや。

「財前、今日うち来なっせ」
「はい。行きます」
「財前、ごはん作ってくれんね?」
「ん…美味いかわからんですけど」
「オムライスがよか」
「はい。材料買ってきます」



「財前、俺達って付き合うとると?」



「―――――」



「財前、白石にそげんこと言ったと?」
「ちが…」
「誰と誰が付き合うとると?」
「言ってな…」

ぐっ、ておれのかたにあったせんぱいのてがかたにくいこんだ。そのままてはおれのくびにまわった。
つよいちからでかおをひきよせられる。

「財前がそげんこと言わなければ、俺が白石に怒られることなかったばい」
「ち、がぅ…」
「財前のせいやけん」
「ちが…」
「…責任取って死んでくれんね」
「………や…」

どうしよう。
こわいせんぱいになってもうた。
 
「やじゃなか。お前のせいやけん、何もかも」
「ちが…おれ、………ッ!」



じめんにつよくあたまをうちつけられた。
もうとまらない。

こうなるとせんぱいのきがすむまでおれはいためつけられる。

どうしよう。
さっきまでやさしかったのに。だいすきなおれのせんぱいだったのに。

「お前のせいで…お前のせいで!お前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいで!!!」

なんどもこうとうぶをたたきつけられていしきがとびそうになる。

「せ…ぱ、…」

つよくつかまれたくびを、さんそがとおっていかない。
くるしくてなみだがでてきた。
せんぱいがこわくてなみだがでてきた。



せんぱいが


せんぱいがかわいそうで。



ぽろ、ってなみだがこぼれた。
そしたらあっさりてをはなしてくれた。

「――ゴホッ…はぁっ…は…ゴホ、ゴホッ」
「………財前、ごめん…」

かすむめでせんぱいをとらえるとせんぱいはまたないてた。

「先輩…俺、大丈夫ッス」
「ごめん…財前、ごめん、ごめん……ごめんね…」

なんども『ごめんね』ってくりかえしながら、せんぱいはおれをだきしめてくれた。

やさしいちとせせんぱい。
やっぱりだいすき。

わるいのはしらいしぶちょう。

わるいのはしらいしぶちょう。

おさむちゃんもきらい。
しらいしぶちょうもきらい。
こんなにやさしいせんぱいをきずつけるあのふたりなんて



だいっきらいや



しんでまえばええのに。



「財前…ごめんね」
「大丈夫ッス。…今日、夕飯作りに行きますから、ね」
「うん…うん…」

ちとせせんぱいはこどもみたいになきじゃくりながらおれのむねにかおをうずめてないてた。
かわいそうなせんぱい。

おれがいやしてあげるから―――

 




いえをでるまえに、せんめんじょのかがみをみた。

くびにくっきりついた、せんぱいのゆびのあと。

かわいそうなちとせせんぱいはおれにしかこうやってあまえることができないんだ。
だからおれはそんなせんぱいをぜんぶうけいれてあげなきゃいけない。

だっておれは

ちとせせんぱいがすきだから。






せんぱいのりょうのへやのインターフォンをならす。
なかからだるそうなあしおとがきこえて、ドアがひらいた。
ラフなかっこうのせんぱいが、いつもどおりむかえてくれる。

「………何で財前がおると?」
「ごはん作りに来たんスよ」
「………そんなん頼んだっけ?」
「………や、俺が勝手に来ただけッス」
「ふぅん………入ればよか」

さきをたってせんぱいはおれにみむきもしないでテレビのまえにすわった。

「台所、借りますね」

そういってからキッチンにはいってざいりょうをとりだす。



せんぱいがこわれてしまってから、おれがまなんだこと。

おれはいつでもいつもどおりでいなきゃいけない。
おれはいつでもちとせせんぱいのいうとおりにしないといけない。
おれはいつでもちとせせんぱいをかばってあげないといけない。

せんぱいがわすれたというなら、それはぜったい。
おぼえてないというなら、そのじじつはなかったこと。

おれはえらばれたんだ。

ちとせせんぱいのそばにいることができる、しらいしぶちょうのつぎのひと。

それがおれ。

「………その首、何ね」

いつのまにかちかくにきていたちとせせんぱいがふきげんにつぶやいた。

「これ?あー…わからへんけど気付いたら痣んなっとったんスわ」

いつもどおり。

「ふーん…変なの」
「でしょ」

あくまでも、いつもどおり。

「夕飯オムライスでもええですか?」
「やだ。いらん」
「…ッスか。…ほな何がええッスか?」
「メシなんかいらん。頼んどらんし」
「…そッスか…」

かってきたざいりょうは、とりあえずぜんぶれいぞうこにいれた。

「…それなら俺、帰ります」

さびしいけど、でもせんぱいがいらないっていうんだから、いらない。
おれはキッチンをでて、げんかんにむかった。



うしろからうでをつかまれる。
ごういんにひっぱられて、うでがいたかった。

「ちと…」

キス。

セットされたおれのかみのけのなかにてをいれられてふかくふかいキス。

「……ふ…」

したでくちのなかをかきまわされる。
ぬきとられてしまうんじゃないか ってくらいにつよくすいあげられる。
いたくて、でもちとせせんぱいにキスされるのがうれしい。



せんぱい


すき



「…頭、どげんしたと、コレ」
「え…?」

じぶんのこうとうぶにふれた。
そこはこぶになって、はれあがっていた。
たぶんそれは、ひるま、せんぱいにじめんにたたきつけられたときにできたこぶ。

「…わかんないッスわ。寝てる時にぶつけたかも」
「……………」
「俺、割とよう転ぶんで。生傷絶えなくって」
「俺………ばいね…」
「違うっ!」

あわててひていする。
だけどもうおそかったみたいや。

せんぱいはそのままかべにもたれかかって、ずるずるゆかにすわりこんだ。

「ごめん…俺が昼間…あげんことしたから…」
「先輩っ、違うって…」
「違くなか!!」どん!っておおきいおとがして、ちとせせんぱいがかべにこぶしをくらわせた。

「ごめん、財前、俺…ごめん」
「平気ッス、千歳先輩。これは先輩のせいじゃないッスわ」

なだめるようにやさしくいっても、ちとせせんぱいはわかってくれない。
せんぱいのとなりに、ひるまとおなじようにしゃがみこんでせんぱいのあたまをそっとなでた。

きやすめにしかすぎなくてもこうすることいがいおれはできない。
ちとせせんぱいのこころのおくはおれにはすくえない。
しらいしぶちょうしかすくえない。
それがかなしくて、すこしでもおれにできることがあるってことがうれしかった。
 
「財前…抱かせて」
「………はい」

ちとせせんぱいのいうことは、ぜったい。



ベッドはせんぱいがねおきしたまま、シーツはよれたままだった。
せんぱいのにおいがしみついたベッドに、やさしくおしたおされる。
ことさらやさしく。
おれのすきなちとせせんぱいで。

「財前…今夜は優しくするけん」
「…おおきに」

せんぱいのキスが、からだじゅうにふってくる。
ここちよかった。

「…!……っ…ん、っ」

おもいもよらなかったやさしいあいぶ。
ちとせせんぱいじゃないみたいな

おれが

『財前光』

じゃないみたいな

まるでしらいしぶちょうになったみたいな、はねをあつかうようなせんぱいのゆびさき。

「!!…はぁ…、…っ」

こえはこらえないといけない。
なにがせんぱいのげきりんにふれるかわからない。

「財前…?俺、いかん…?」
「…っううん…きもちえ、ぇ…」
「何で声出してくれんと…?気持ちよくなか…?」
「気持ち、ぇ…です…」

ちとせせんぱいのゆびさきが、きのうもらんぼうにだかれたそのぶぶんにふれた。
まだいえていないきず。

「財前…痛か…?」

だまってくびをよこにふる。
じっさい、そのもどかしいくらいのやさしさはいたみなんてみじんもかんじさせない。

そのままゆびはおれのなかにはいってきた。

「―!ぅ……っ…」

さすがにすこしいたい。
なかにはいってきたゆびはすこしづつおくをめざしはじめた。
きもちいいぶぶんをゆびさきがこするたびに、こえをあげそうになる。
ふるえるからだをおさえつけるようにして、こらえた。

「財前の、おっきくなっとる…」
「…ぁ…や……っ」
「……いや…?」
「ぃゃじゃ、な…っ……ふ…」
「…感じとる?」
「………っ」

ひっしにうなずく。
なのにせんぱいのひょうじょうはすこしもはれない。

「何で声出してくれんとや…?」

それはちとせせんぱいが

「感じんと…?」

それはせんぱいがいつもいうから。
『声出すな』
おれはせんぱいにきらわれたくないから。
 
「気持ちよく、なかと…?」

そうやあらへん、

そうやないっていいたいけどでもふかくしんにゅうしたゆびが、てきかくにきもちいいところをつくから。こえにならなくて。



「―――俺が聞いとうとが」

びくん、

こわいろがかわった。

「いい身分っちゃね。感じなかって?」

きゅうにゆびさきのうごきがらんぼうになった。

「おい…答えんね!」
「ひゃ…ぁ…っ」

ゆびがぬけでて、かんぱついれずにせんぱいがはいってきた。

「あ―――――!!っ」

おもわずおおきくこえがもれてしもうてあわててくちをおさえる。

いたい。
いたい。

ちとせせんぱいのおっきいのが、いたい。

「好いとうとやろ?俺のこと…なら俺ん言うことば聞かんね」
「あっ…あ…ぅ…せ…」

まともにことばがつげない。

「何で感じなかと?俺を拒否すっとや?何とか言わんね」
「や、ぁ―っ!ちとせ、せん…っああっん!…ッ」

らんぼうなうごきでつきあげられる。
らんぼうなことばでつきさされる。

「あっ、あっ…ぁ…っんぅ…せんぱっ…っ好きっ好きぃ…っ」
「せからしか」

つめたくあしらわれて、のばしたうでははらわれた。
ゆきばをなくしたうでは、しわくちゃのシーツをにぎった。

「ぁ…ぅ…っ……、!ん…」

くちびるがしろくなるほどつよくかみしめる。
そうしないとこえがもれてしまう。
そしたらせんぱいはまたおこるだろう。

「…っ!っ、は、…っぅ…」
「っ…イキなっせ、淫乱」

つめたいちとせせんぱいのといきがくびにふれた。
くっきりついたあざのうえからかみつかれて、おれはイッた。

せんぱいはおれからひきずるようにぬきだしてすうかいこすっておれのかおにかけた。

「………舐めろ」
「ふぅ…っ」

めのまえにさしだされた、せんぱいじしん。
おれのなかにはいっていたせいで、おれのたいえきとせんぱいじしんのせいえきにいやらしくぬめっている。

「ん、ん…ぅ…ぴちゃ…」

せんぱいがまんぞくするまでしっかりなめて。
ちとせせんぱいはそれをくちからひきぬいた。
 


「帰れ」



―――――



つめたくせなかをむけられても、だからっておれになにができるわけでもない。
ちからのはいらないからだにむちうつように、おれはふくをきた。

「せんぱい…っ、じゃあ、また明日…」

ちとせせんぱいはむごん。
そんなことわかってる。

それでもせんぱいにわかってほしくて。

おれはせんぱいがいるかぎりせんぱいをみすてたりせえへんよ。って。
せんぱいがわかってくれたかわからない。
でもおれはそのままちとせせんぱいのへやをでた。



おれのすきなちとせせんぱいはまぼろしみたいに、ほんのちょっとあらわれてはすぐにきえてしまう。
それでもおれはもとめてしまう。
『ちとせせんぱい』がいるかぎり、ちとせせんぱいをもとめてしまう。






じぶんのいえについたとたん、けいたいがなった。
ひょうじには『千歳先輩』のなまえとでんわばんごう。

「…もしもし?」
『…財前?』
「はい。どないしたんですか?」
『腹減ったからメシば作りに来てくれんね』
「…はい、わかりました」

もどってきたばかりのへやのでんきをもういちどけす。
かぎをにぎりしめていえをでた。



まぼろしみたいに、ほんのちょっとあらわれてはすぐにきえてしまう。


ゆがんだオーロラ。


うそのえがおにゆがんだおれもまた、オーロラ。





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