此処の天使=俺
別にアニメが好きなわけじゃない。
特に自己主張が激しいわけでもない。
だけど、アニメのコスプレをした俺に価値を見出だして、チヤホヤしてくる人達は嫌いじゃない。
コスプレイヤーとしては結構駄目な部類、らしい。
よく知らないアニメのコスプレをするレイヤーを良く思わない人も多い。
でもいくら愛があっても可愛くない不完全なコスプレより、そのアニメを知らなくても可愛いレイヤーの方がいいという人種もいる。
需要があるから、俺は儲かる。
かわいいは正義。
「リョーマ、今度はこっちだ」
「うぃーす」
撮影会はいつも大盛況だ。
もう3部だから少し疲れた。
今日のコスプレは俺のブログのコメントでリクエストの多かった、ナントカっていう萌え系アニメの美少女キャラだ。
地毛で出来るキャラだったから楽なのはいいけど、ミニスカートの裾が短すぎる。
「あと40度右足を曲げて、左手は17センチ離して床につけて、首は15度左に傾けて、カメラに目線をくれ」
「…いっぺんに言われても分かんないんだけど」
小難しい注文をつけてくるこの人はここ1ヶ月の俺の撮影会皆勤賞の柳さん。
俺の公式FCとかいうのに入ってる乾さんの友達らしい。
乾さんよりは気持ち悪くない。言ってることは乾さんと大体変わらないけど。
「…リョーマ、もう少し笑ってくれ」
「ヤダ」
ファインダー越しに俺を見て柳さんは眉を寄せた。
俺はキャラのことなんて知らないから、笑いたくない時は笑わない。
「よく笑う奴がいいなら遠山の撮影会行けば?」
「ああ、遠山な。あの子も可愛いな。この間の撮影会は行ったぞ」
最近人気が出てきたレイヤーの名前を挙げれば、意外にも柳さんは嬉しそうに笑った。
…それはそれで面白くない。
俺は負けず嫌いなのだ。
「某のサイトにもUPされてるから良かったら見るといい」
「ヤダ」
柳さんの撮る写真は凄く綺麗だから、言われなくても実はサイトチェックは欠かさない。
つい最近知り合った友人が管理しているとかの、スタイリッシュなサイトだ。
「てゆーか俺と遠山を並べないでくんない?」
「何だ、もう見てくれたのか。可愛かっただろう」
確かに可愛かった。俺が。
隣に並べられた遠山の満面の笑顔がなければ大満足だっただろう。
あんな笑顔は俺には出来ない。
「…その表情、可愛いな」
どんな表情をしてたのか知らないが柳さんのツボに入ったらしく、バシャバシャとシャッターが切られるのを瞬きしないように必死に耐えた。
その後も色んなポーズをとらされてシャッターを切られて、そうこうしてるうちに時間が過ぎた。
「柳、そろそろ時間だ。カメラを片付けろ」
「ふふ、手塚。今日はなかなかいい写真が撮れたぞ」
「…後でデータを送ってくれ」
FCの会長である手塚さんの指示で、撮影会は終了した。
他にもいた撮影会に来ていた人達から差し入れやら前回撮った写真やらを貰ってると、背後から肩を叩かれる。
振り返ると乾さんだった。
「越前、前回撮った写真をあげよう」
「いらないッス…」
乾さんの写真はロクなのがない。
ミニスカートなのにめちゃくちゃ煽りで撮ってたり、耳のアップだったり、鎖骨のみだったり、着眼点がマニアック過ぎる。
「リョーマ、今度遠山と合同撮影会をやらないか」
「ヤダ」
帰り際、柳さんに出された提案に即答する。何で俺が遠山と。
「そう言う確率は100%だった。…まぁ考えておいてくれ」
渡された封筒の中を見ると、前回撮られた写真の束が入っていた。
その中の一枚に、珍しく笑顔の写真があった。
この時一体何があったんだろう。
しばらくその写真を見つめてみたが思い出せない。
ただ分かったのは、やっぱり俺が一番可愛い。