憐れな仔羊の迷える瞳を踏みつける神を白銀の剣で貫き新世界の神となるのが俺






全ての他人は俺の関心を引くほどの存在ではない。
俺は生まれながらに孤独だ。
今更それを嘆きはしない、孤独は俺の友であり今ではなくてはならない恋人でもある。
だが…こんな俺だからこそ…本当は誰より愛を求めている………
しかし求めるわけにはいかない。
俺のこの眼はいつか、愛する人もろとも闇に葬り去るだろうから。
俺に近付くな。俺の眼が目覚めれば脆弱で悪意に満ちた人間共などひとたまりもない。
…だが今はその時ではない…
その時が来るまで俺を包む孤独が俺を癒やす日は来ないだろう………



………という自分がカッコイイと思ってそういうスタンスを貫いていたら、気付けば俺はひきこもりだった。

よって上記の記述は黒歴史だ。

そして今隣にいるのは俺を包んでいるはずの孤独…ではない、ただの人間。

「…でね、あ、お二人とはアニメイトで知り合ったんですけど、全然タイプの違うお二人で面白いんですよ」

さっきからグダグダと女のように喋り続けるコイツは、分厚い眼鏡を光らせてさも楽しそうに笑った。
PC画面に向かったまま振り返りも相槌を打ちもしない俺を全く気にしない。
俺が今地蔵か何かと入れ替わってもコイツは気にせず喋り続けるんじゃないだろうか。

「…やーぎゅ」
「何ですか、仁王君」
「お前さんさっきから何の話しとるんじゃ」
「ですから、先日秋葉原で出来た新しい友人の話です」

オンライン状態だったゲームを一旦落として、柳生の前に座る。
目の前のテーブルには柳生が買ってきたコンビニ弁当とジュースがある。

俺と柳生の付き合いは長い。
俺がニートになって数ヶ月、あの頃はまだ時折外に出ていた。
あの日もふらりと秋葉原を散策し自作PCのパーツを見繕っていた俺の横で、粗悪なパーツを買いそうになっていた奴が柳生だった。
明らかに初心者丸出しなソイツが憐れになり、それは買うなと忠告してやって以来、何故かなつかれている。

今では俺は完全なるひきこもりへと変化し、外にはほとんど出ない。
二週間に一度、食料の買い出しに行くのが唯一の外出だ。
柳生は週一くらいで俺の住むアパートの部屋に差し入れつきで遊びに来る。
そして聞いてもいないのに近況を延々語る。

「とても楽しい方々なので仁王君も気に入ると思いますよ」
「興味ないぜよ」

というスタイルは崩さない。

「どうです、一度お会いしてみては」
「嫌じゃ」

だってどうせ「ネトゲ廃人キメェwww」とか「働けよクズ」とか言われるに決まってる。
そんなこと言われたら心が折れる。

「他人と関わるなんて煩わしいんじゃ。俺は一人が好きじゃき、ほっときんしゃい」

だがあくまでこのスタイルは崩さない。

「柳君はSEをやってらっしゃるそうなので仁王君とは話も合うかと思ったんですが…」
「…やなぎ…?」
「カメラがご趣味だそうですよ」

何かが俺の中で引っかかった。
カメラがご趣味の柳。
脳内でGo○gle検索をかける。

最近どこかでその名前を見た気がする。
同一人物かは分からないが、カメラと聞いてピンときた。

俺はPCの前に戻ってブックマークの一番下に登録されたサイトを開いた。



やなぎ教授のアイドルおっかけダイアリー、…これだ。



「…やーぎゅ」
「何でしょう」
「やなぎってアイドルの追っかけカメコやっとる?」
「ええ。手垢のついてないアイドルがお好きで撮影会等に出向いてらっしゃるとか」

このブログは最近の俺のお気に入りだ。とにかく写真がいい。
柳生のいう「柳」と、この「やなぎ」が同一人物だと思うには早計だ。
だが同一人物であるならば、是非とも会いたい。
このただのブログで晒しているだけの写真達を、俺が作ったサイトでより美しく掲載したい。

第六感が叫んだ。

「…柳生、今度ソイツら連れてきんしゃい」
「おや、珍しい。ではご都合を伺っておきますね」

柳生は嬉しそうに携帯メールを打ち始めた。

「…第三の眼が疼くぜよ…」



黒歴史は現在進行形だ。



 




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