此処が聖地だ!






週末は、電車を乗り継ぎ都内に出る。
慣れ親しんだこの街は、電車を降りた瞬間に特有の空気で某を迎えてくれる。
それが堪らない安心感をもたらしてくれた。

電気街口を出て、ドンキを目指す。
その場所だけで繋がる、某の真の友人がそこにはいるはずだ。



ドンキの前のガードレールに腰掛けてたこ焼きを食べているそいつは、人混みの中でも目立つ。
上下ケミカルウォッシュにヘアバンド。背中にしょったナップザック(小学校の家庭科で作ったと言っていた)の膨らみ具合から見て、今日はもうメイトで戦利品を漁った後なのだろう。

「幸村氏」
「おー、蓮二殿。今日は遅かったね」
「昨夜仕事が遅くまでかかってな」

たこ焼きを一つ戴いて、隣に腰掛ける。
そういえば幸村氏が何の仕事をしているのか、それともしていないのかさえ某は知らない。
だが詮ないことだ。
某達を繋ぐのは、そんな生きるための手段ではない。もっと情熱的なものだから。

「最近A○Bはどうよ」
「売れすぎだ。過度なメディア露出に慣れて初期の初々しさが失われた。優良メンバーのアキバ離れは由々しき事態だ。やはりアイドルは売れる前に限る」
「ふうん」

聞いてきた癖に、人の話は聞かない。いつものことだ。

「俺はさぁ、今まさかのま○マギ。絶対王道にはハマんないと思ってたのに悔しい限りだよ」
「先週まではけい○んがどうとか言っていたな」
「いやぁ勿論憂の可愛さに死角はないんだけどね〜。憂は生涯俺の嫁」

幸村氏は、二次元にしか興味がない。
数年前初めて会った頃は「液晶邪魔だどけ!」とか言っていたが、最近では(脳内で)液晶内に入ることに成功したらしい。
日々、魂のステージが上がっている幸村氏には敬服するばかりだ。

俺は持参してきた一眼レフのピントを合わせた。

「最近蓮二殿のカメコっぷり見てないなぁ」
「撮れるアイドルを追い掛けていないからな…だが最近いい対象を見付けた」
「マジか。だれ?」
「ネットアイドルだ」

某はポケットアルバムを出した。
中には最近お気に入りのネットアイドルの写真がみっしり入っている。

「あ、ほんと可愛い………って男じゃん!」
「さすが幸村氏、分かるか」

そう、某が今ハマっているのはこの少年だ。カメラに媚びない視線が美しい。

「某でさえ最初見た時は一瞬幼女かと思ったぞ」
「俺の目は誤魔化せないよ」
「今度撮影会があるんだ。幸村氏も一緒にどうだ」
「………三次元だし遠慮しとく」

残念だ。幸村氏にも生身の少年がポーズをとる姿をカメラにおさめる楽しみを知って欲しかったのに。

「ねぇ、さっき貰ったチラシ」
「新しいメイドカフェか。行こう」

幸村氏に渡されたチラシを見て即決。ここは当たりな気がする。



ゴミ箱にたこ焼きのパックを捨てて、某達は車道に出た。

歩行者天国。ああ、ここは実に天国だ。

真夏の日差しを物ともせずチラシを配るメイド達を目でセクハラしつつ歩くこの場所の何と美しいことか。

広い道路の両側に聳え立つ高い建物を道路の真ん中で見上げれば、世界は全て某のものな気がする。

「蓮二殿、早く行こう。ソフマップの前は寒い」

幸村氏に促されて、某はチラシを頼りに新しいメイドカフェの場所を探すことに専念した。



 




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