青春学園にて






「言ってなかったか?」
「全然」
「そうか。…妖怪はいるぞ」

鎌鼬兄弟に会った翌日、学校で蓮二を問い詰めると、彼はあっさり妖怪の存在を認めた。

「…ていうか、霊も九十九神も死神も退魔師もいるんだぜぃ?そりゃ妖怪もいるだろ」

場所は家庭科室。

退魔師の一件で俺に無料奉仕することになったブン太は、毎日俺の為に昼食を作っている。
彼は今、あの退魔師のように霊でも食べれる食事を作るため修行に励んでいる。
家庭科室いっぱいに漂う動物霊が見えるには見えるが、敢えて文句は言うまい。



「ていうか、蓮二は仲良い妖怪がいるんだろ?」
「いるぞ。しょっちゅう立海に来てるが…気付かなかったか?」
「え、嘘」
「四角い眼鏡で剛毛の、背の高い河童」
「…河童なのに剛毛?」

しかし蓮二のいうそれを思い返そうとしてみれば、確かに該当する人物が一人いた。
大抵は中庭か図書室で蓮二と話しているだけなので、生徒かと思っていたが。

「…もしかしてあの、四角い眼鏡で剛毛の、背の高い?」
「そうだ」
「え…え〜?アイツ河童だったの?皿ないじゃん」
「幸村の身長じゃてっぺんは見えないだろうな」

ということはてっぺんを見れば皿があるのか。

「まぁアイツも普通の生徒として学生生活を送る身だ。うまくカムフラージュしてるだろうが」
「青春学園って妖怪の宝庫だろぃ?面白そうだよなぁ。行ってみたい」

…俺からすれば動物霊を絞めて捌くブン太も充分面白い。

「不二に待ってるよって言われたんだけど」
「「行けば?」」



……………



というわけで、その日の放課後、俺は青春学園に出向くことになった。

本当は誰かが「不安だろうから俺も一緒に」と言ってくれるのを期待したが、そんなに甘い奴はいなかった。
学校霊は基本的に学校から出れないし、九十九神は目立つし、唯一赤也は着いて来たがったけど、面倒みるのがやだから断った。



…青春学園。

立海に負けず劣らず、近代的な綺麗な校舎だ。
だがどこに向かえばいいんだろう。
不二はどこにいる、といったようなことは言わなかった。

校門の前で違う学校の生徒が立ち竦んでいるのは目立つ。
ちらちら投げ掛けられる視線が居たたまれない。

「…ねぇ、君」
「は、はい?」

俺はちょうど傍を通りかかった女子に声をかけた。
小柄な体に不釣り合いなほど長いみつあみの少女。一年生だろうか。
声をかけたはいいが、何て聞いたものか悩む。

「…この学校の変わったものがいるところ、教えて」
「…へ…は?」

不二によると青学も異形の者にオープンな学校みたいだから、そう聞いた。

「え、と…変わったもの、ですか…?」
「変わった人とか、怪しいものとか、何でもいいんだけど」
「………、あの、変わってるかどうかは…分からないですけど、凄い人なら…」
「じゃあとりあえずそれでいいや」
「はい、あの、うちのクラスのリョーマ君っていう子で…この時間ならたぶん、グラウンドに…」
「グラウンドどこ?」

みつあみは校舎の西の方を指した。

「ありがとう、行ってみる」

お礼を言ってみつあみに背を向けると、背後から声が聞こえた。

「…ハズレ。グラウンドは、あっち」

振り返ると、みつあみとさほど大きさの変わらない小さな少年が、校舎の北を指差している。 
 
「リョ、リョーマくん、」
「竜崎、未だにグラウンドの場所も覚えてないの?」

「リョーマ」と呼ばれた少年は馬鹿にしたようにみつあみを笑った。
この小生意気な少年がみつあみのいう「凄い人」?
とても凄いようには見えない、気の強そうな普通の少年…に見える。

「…アンタ、グラウンドに何か用?」

だが俺に向けられた視線がかち合った時、普通じゃないことが分かった。
…何かが違う。人とは違う違和感。

「…君を探してた」

…口説いているような台詞を吐いてしまった。






「ふぅん、立海の柳さんの友達なんだ」
「うん。で、昨日不二兄弟に会ったからちょっと来てみようかと」

グラウンドに向かって一緒に歩きながら、彼は自己紹介をした。
越前リョーマ、座敷童子。人を幸せにする妖怪。
…とてもそうは見えない。

「…見えないって思ってるでしょ」
「うん」
「…アンタ、正直だね」

越前はちょっと笑った。なかなか可愛らしい。
もっと笑えばいいのに。もったいない。

「今の時間なら部長もいると思うから」
「何部?」
「現存妖怪研究保護部。略してテニス部。部員は全員妖怪」
「…突っ込みが追い付かない」

妖怪が妖怪を研究する必要が分からない上、テニス部一文字も掠ってない。

「…たまにテニスやるけど」
「わぁ、さわやか」

青学では妖怪も青春してるわけだ。






グラウンドには数人の男子生徒が適当にたむろしていた。

「…越前、遅いぞ」

眼鏡に仏頂面。こいつが絶対部長だ。

「スイマセン、部長」

やっぱり。

「この人、立海の柳さんの友達らしいッス。迷ってたから、連れて来た」
「蓮二の?」

部長の横から見覚えのある四角い眼鏡がぬっと現れた。こいつが河童か…

「ああ、君何度か立海で見かけたね。えーと…」
「乾だ。よろしく」

握手を求められて手を出せば、その手には不自然なほどの水掻きがついていた。成る程、河童だ…

「とりあえず全員自己紹介が必要だよ、手塚」
「ああ…そうだな」

部長の一声でバラバラに散らばっていた生徒達が横一列に並ぶ。
これが全員人間じゃないなんて、壮観だ。



「…俺は部長の手塚。…ぬらりひょんだ」
「ぬらりひょんって何なの?孫の話は聞いたことあるけど」
「神だ」
「……………」

たすけて、この人こわい。
そんな目で他のメンバーを見ると、助け船を出してくれたのは不二だった。

「僕の自己紹介は要らないよね。手塚、そんな言い方じゃ誤解されるよ」
「…ぬらりひょんって何なの?」

不二の説明によると神というのは間違いではなく、元々は神棚に宿る客人神で、人の家に上がり込んでその家の主人のように振る舞う妖怪、らしい。
図々しくてめんどくさい。

「図々しくてめんどくさいね」

思った通りの感想を述べると手塚は黙り込んだ。

「ハハハッ!手塚部長にそんな口利ける人、久しぶりに見たぜ!」

明るく笑う少年は、桃城と名乗った。

「俺は妖怪雨降らし!雨、降らせてみましょうか!」
「濡れたくないから、いい」

お断りすると桃城はちょっと残念そうな顔をした。
水不足の時以外はあまり歓迎されない妖怪なんだろうな…

「君は?」
「俺は身代わり地蔵の大石。副部長もやらせてもらってるよ」
「あ、知ってる。痛みとかを代わってくれるんでしょ」
「よく知ってるね!その通りだよ」

いい存在を知った。今度から体調悪くなったらここに来よう。

「俺は化け猫の菊丸!」
「化け猫って何が出来るの?」
「猫が喋るだけでも充分怖いだろ!?あと油も舐めるよ!」

…揚げ物をした翌日余った油を処理するにはエコでいいかもしれない。

「…地球に優しい妖怪」
「にゃんだよそれ!?」

で、そっちでニコニコしてるのは…

「俗に言う子泣き爺の河村だよ。よろしくね」

…ニコニコしてるのに?

「タカさんは背負うと人格変わるよ」
「こえーなぁ、こえーよ」

化け猫と雨降らしが耳元で囁いた。
背中を向けたくない。

「…海堂薫ッス」
「君はなに?」

海堂はフシューっと息を吐いた。瞬間、首が蛇のように伸びた。

「お化け屋敷!」
「…ろくろ首です」

レトロな妖怪揃い踏みだ。
お化け屋敷やったら儲かるだろうに。

「…で、座敷童子の越前リョーマ」
「これで全員?」
「うちの学校に在籍してるのはこれだけ」



とりあえず、思った。



「…あんまり意味のある妖怪、いないねぇ」



俺の言葉はいたく彼らを傷付けたらしく、何も喋らなくなったので、俺はそのまま帰宅した。
項垂れた時、河童の皿がちょっと見えた。



新たな異形の者と接して、実は楽しい気分になったことは、内緒だ。



 


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