三馬鹿がホグワーツで働いていたら
毎年恒例のバレンタインになった。今年はどれだけの貢ぎ物があるだろう、ナマエに。きっと学年寮問わずマセガキがやって来るだろう、ナマエに。わざわざ授業でわからないところがあるという名目で、ナマエに。
あいつはいろんな人間からモテすぎていた。
「今年もやって来たなバーティ」
「ああ、あのウィーズリー家の長男がどう出るか見物だな」
バーティはそう言ってケタケタ笑った。ウィーズリー家長男のビル・ウィーズリーは生徒でありながらそのルックスと長身を武器に幾度となくナマエに好意をぶつけている。
一緒にいる俺たち二人には見向きもしないところからハナから相手にされていないらしい。しかしやはりバーティとナマエの仲には気付いているようで警戒はあるみたいだ。ガチじゃないか。
「余裕だな。知らないぞ俺は」
「あいつが生徒に落とされるタマか?」
「その生徒も今年卒業だぞ」
「…大丈夫だろ」
一瞬やばい、と感じたのを俺は見逃さなかった。それなりに危機感は抱いているらしい。そりゃそうだ。俺でも抱く。しかしナマエがそうそうにウィーズリーの手に落ちるとは思えないというか落ちるなんてあり得ないと思っている。
そんな会話をしたのが今朝だ。
「先生、これどうぞ」
「生憎だけど、生徒からのプレゼントは貰わないことにしているの」
授業終わり。机を挟んでウィーズリーとナマエは対峙している。もちろん俺とバーティもいる。その様子を二人で遠目で見ているわけだが、彼らには見えていないらしい。
「それは、気を持たせるのが悪いからですか?」
「それもあるわ」
「俺は気にしませんよ」
「もうひとつ、余分なものを貰ってもかさばるからよ」
ナマエの切り返し方も大したものだがウィーズリーも立派なものだ。まるで気にしていないようだ。まぁ気にしていないからこう何年も好きでいるんだろう。
バーティを見てみると、腕組みしていて目が少し真剣だった。珍しい。
「あなたに似合うと思ったんだけどな」
「あら嬉しい」
「安物だけど、指輪」
指輪。
指輪ときたか。
なんだなんだ、何年後かに今度は本物だよ、とか言って結婚指輪渡すつもりなのかあの男。計算高い上にやることがガキの域を越えている。
バーティは怖い顔をして舌舐めずりしていた。こんな彼を見たのは初めてな気がする。
「つけてみてよ、一回だけ」
「魔法でもかかっているんでしょう?嵌めたら絶対に外せない魔法が。それでわたしを縛れると思っているの?」
「縛れるとは思ってないよ。ただこれを見ればあなたは必ず俺を思い出す。これを持っている限り俺を忘れないでしょう?言うなれば鎖みたいなものですよ、先生」
にこりと笑ったのが俺たちからも見えた。その顔はナマエに向けられているが本当は俺たち二人に見せつけているようだった。俺にはよくわからないがバーティには思うところがあるんじゃないだろうか。
「俺は本気であなたが好きだから」
「そこまでだ」
バーティが言った。
ナマエもウィーズリーも、言った本人を見た。俺も見た。バーティは機嫌が悪いのかそれともマジになっているのかわからないが、じっと二人を見ていた。
「キリがないからストップだ。ナマエ、受け取ってやれ」
「? バーティ」
「いいから。それでそいつが満足するならそれでいいだろ」
ナマエを遮りバーティは言った。ウィーズリーはにこりと笑う。
「さすがクラウチ先生。やることがずるいな。まさに大人の余裕ってやつだ」
「子供の残忍さに比べたらマシだよ。ああナマエ、つけるなよ。貰うだけだ」
「なに。いてもたってもいられなくなった?」
「あーそうだね。見ていて吐き気がする」
俺にはお前が捕って喰おうとする蛇のように見えたがな。言おうとしたが言わなかった。
ウィーズリーは笑いながら、はい先生、とナマエに指輪を渡した。バーティがゆっくり二人に近づき、ナマエの手元を確認する。その間ずっとウィーズリーはバーティを見ていた。睨んでいたというほうが正しいのか。
「間違えても嵌めるなよ」
「あら。理由を聞かせてもらえるかしら」
「いや、違うか。嵌めてもいいけど、俺がやったやつもつけろよ。去年やったやつ。左手の、ここに。ウィーズリーから貰ったやつは右手の薬指にでもつけとけ。左右対称で丁度いいんじゃねーの」
「…へぇ」
ウィーズリーが笑った。それを見て多分バーティも笑ったんだろう。それからまたこっちへ戻って来た。
「レギュラス、準備しよう」
「…ああ」
そんな彼の後ろ姿を、ウィーズリーは挑戦的な目付きで、ナマエは少し嬉しそうな目で見ているのが、俺からは見えた。
そしてバーティは満足げな顔で、舌舐めずりしていた。
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