バレンタイン

レギュラスはイケメン


「バラだ」
「バラだね」
「…どうぞ」
「赤より白がいい」
「ペンキでも塗ってろ」

それ逆だよ、と言おうとしたが、彼がアリスの物語を知っている可能性は低いのでやめた。

「受け取ってくれないのか、白じゃないと」
「いや、赤も素敵。ありがとうレギュラス」

と、一本の赤いバラをナマエは受け取り、香りを楽しんだ。
あまり詳しくないが、彼のことだから結構いいバラなんだろう、と勝手に査定した。
レギュラスはつまらなそうにその様子を見ていた。

「…あ、ごめん。白がいいとか言って」
「いや別に。花なんかでよかったのかと思って」

レギュラスはそう言って、気まずそうに視線を逸らした。ナマエが花を所望したわけではなく、すべてはレギュラスがこの日のために自分なりに試行錯誤したのだ。散々悩んだが、赤いバラに決まったというわけである。
しかし今思えば花は散るわ枯れるわで幸先が良くないように思われた。

「…なんかパッとしないな」
「わたしすごく嬉しいよ?恥ずかしいから顔に出さないだけで」
「そこは出してもいい。…でも、喜んでもらえてよかった」

レギュラスは緊張がとけたのか、滅多に見せない笑顔を見せた。ナマエはそれに少しのときめきを覚え、気を紛らわせようとバラの匂いを嗅いだ。

「…そんなにいい匂いなのか?」
「えっ、いや、あの、バラの匂いなんて滅多に嗅がないから」
「それもそうだな。俺にも嗅がせて」
「えっ」

ナマエが振り切る前に、レギュラスはわざわざナマエのバラを持つ手に自分の手を添え、自分の方へ持ってきた。そして花弁に鼻を近付け、スンスン、と香りを堪能する。

「うん…結構好きな匂いだ」

そう言って目線をナマエに戻したらレギュラスは、固まった。驚いた後、固まった。それから名残惜しそうにゆっくりと顔を離したが、手だけは離さなかった。

「はー…なるほど」
「なっ、なにが」
「いや、多少強引に出れば、ナマエも顔に出るんだなと思った」
「そういう自分だって顔赤いですよ」
「慣れてないんだから仕方ないだろ。俺だって初めてだこんなの」

否定しないレギュラスに、ナマエはまたときめいた。着実に、この短い時間で着実に自分は彼に魅了されている。そう思うと恥ずかしくて仕方なかった。

「この無自覚たらし。腹黒」
「うるさいつっけんどん」
「顔に出してほしけりゃそれ相応のことをしなさい」
「言ったな」

え、と声を漏らす前に自分はレギュラスの腕の中にいた。
呆気にとられながら上を見ると、顔が赤いレギュラスが見えた。

「…レギュラス?」
「これで無反応とか嫌だからな」

そう言って彼は、優しくナマエに口づけた。


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