バレンタイン

素直になれないシリウス


「たまたま売れ残りが目に入った。たまたま安くなってたから買った。お前にはお似合いだろ」

シリウスは目を合わせず言った。

彼は今外出禁止令をダンブルドアによって施行されている。よって家から出てはいけないことになっている。彼はちょいちょいそれを破っているようだがナマエはあまり口に出さなかった。

売れ残りにしては結構量がある赤いバラの花束をつき出され、ナマエは戸惑いがちにそれを受け取る。するとシリウスは素早くその場から立ち去り、クリーチャーに風呂の準備をしろと怒鳴りに行った。

今日はバレンタイン。そんな日に赤いバラが売れ残るなんてその花屋は潰れないだろうか。もしかしてバレンタインにバラを贈るのはもう古いのかと思いながら、ナマエは花瓶をいくつか用意してバラをさした。なかなか綺麗だ。

「わたしたちは売れ残りなんですって。お似合いね」

くすりと笑いながらバラの花弁を指でつつく。彼なりの愛情表現なのか、それとも本当に皮肉なのか。ナマエは笑って誤魔化した。

それからすぐリーマスがやって来た。キッチンにいるナマエと赤いバラを見て、ただいま、と言った。

「おかえり。見てこれ。たまたま売れ残っててたまたま安くなってて買ってきたんですって」
「へぇ。偶然にしては歩きすぎたんじゃないか?なぁシリウス」

ダイニングルームにいるシリウスにも聞こえるようにリーマスが言うと、うるさいリーマス!とシリウスの声が聞こえた。
リーマスはそれに笑いながら、実はね、と小さな声でナマエに耳打ちした。

「どこ行っても売り切れでね。やっと見つけた頃にはもうこんな時間。急いで帰ってきたんだよ」
「まぁ」
「あいつは素直じゃないから、今日くらい感謝の気持ちを伝えろと言ったんだけど…あの調子じゃまだみたいだね。何か手伝おうか?」
「いい、俺がやる」

いつのまにかシリウスがリーマスの隣にいた。そしてリーマスを睨み付け、余計なことを言うな、と言えばリーマスは肩をすくめて笑い、退室した。

「バラ、ありがとう、シリウス」
「たまたまだ」
「でも嬉しいわ」

そう言ってまた嬉しそうに笑うナマエに、シリウスは顔を手で隠しながら壁に寄りかかった。相当応えたらしい。

「ちょっと、どうしたのシリウス」
「うるさい」
「たまたまお店の人とシリウスの筆跡が同じだったのね、たまたまだけどカードもあったわ」
「都合がいいな」
「いつもありがとうだって。感謝の気持ちはいつも貰ってるのに。今日くらい都合よく、愛のメッセージでも貰いたかったわ」

ナマエがそう言うと、シリウスは観念したように顔を上げた。

「裏だ、裏」
「え?」
「カードの、裏」

シリウスがナマエの手からカードを奪い、裏向きにしてからそれをさっきみたいに無理やりナマエの手に押し付けた。
何か言いたげにナマエを見たが、結局何も言わず去っていった。
風呂はまだかとクリーチャーを怒鳴る声が廊下に響く。

ナマエがおずおずと、カードに書かれた文字を目で追った。
読み終わると同時に、彼女はまた嬉しそうに笑うのだった。


私はあなたを永遠に愛している
だからあなたも私を愛してくれ、永遠に


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