ビルが歳下に積極的
「君に愛を込めて」
ウィンク付きでビルは言った。
目の前にある赤いバラに目眩を覚えながら、ナマエは苦笑いした。苦笑いというか引き笑いだ。否、それ以外の反応が見当たらなかった。
しかしビルは涼しい顔で笑っている。
きっと自分の反応が面白いのだと思った。タチが悪い。歳下をからかうのがそんなに面白いのか。ナマエの心中は穏やかでない。それもそのはず。ナマエはジニーと同い年の14歳である。対するビルは立派な成人男性だ。確かにナマエは同世代の女の子たちより背が高く、大人っぽく、それでいて儚げな印象を受ける。しかしそれでも、まだ彼女は子供なのだ。
しかしビルはめげることなく、こうして今年も彼女に花を渡すのだった。
「バラは一番好きだと聞いたから」
「…誰から?」
「ジニー」
確かに彼は妹の名を口にした。
まさかジニーが加担しているなんて思わなかった。あの子はビルを一番気に入っているのに。むしろ自分は嫌われていてもいいはずなのに、こんな形で手を貸していたなんて。
ナマエはバラの花束を見て、へぇ、と呟くしかなかった。
「まだ駄目かな?俺の気持ちは伝わらない?」
そんな風に言われれば人間誰だって良心が痛む。案の定ナマエの良心も痛んだ。ビルはずるい。何と言えというのか。
「嬉しいよ、ありがとう…。でもね、その…」
「わかってるよ。ナマエは優しくて頭のいい子だから。歳の差とか、いろいろ葛藤があると思う。でも俺は本気。マジなんだ。じゃなきゃ、わざわざエジプトからここまで来たりしない」
「うん…。そうだね、毎年プレゼントしてくれないよ」
「そういう事」
そのハンサムな顔がふわりと笑顔になり、ナマエも思わず顔が赤くなる。
ビルはバラの花束から、赤いバラを一本だけ引き抜いた。
何をするのかと思っていると、ニッと笑い、花束を宙に放った。そして杖を構え、花束に向けて光を放つ。すると小さな爆発音がして、バラの花びらが、まるで雪のように二人の頭上へ舞い散ってきた。
「わ…!」
「練習したんだ」
驚くナマエに向かってビルが笑った。
「すごい、すごいよビル」
「こんなの、君の周りの男の子はできないだろう。…さ、受け取って。赤いバラ。俺の気持ち」
ビルは一本だけのバラの花弁にキスを落とし、いたずらっぽく笑ってから、キスしたところをナマエの唇にも当てた。
一気に顔が赤くなったナマエに、ビルは足りないとばかりに額にキスを落とした。
「!ビルッ…!?」
「これくらいいいだろう?もう結構、我慢したほうなんだから」
余裕無いよ、と笑うビルに、わたしは毒されていると、ナマエは実感した。
ホグズミードの一角にある木の下で好きな人にバラを渡せば、二人はカップルになるという噂がジニーの口によって広まるのは、そう長くない。
back