上に着ていたジャージを脱いで傍らに置き、落ち着こうと大きく息を吐く。
そうしたところで何も変わらないけれど。
今も心臓はばくばくと鳴り、くらくらしている。
俺の存在に気付き、行為をやめた二人にはそれぞれ身支度を整えるように言った。もう一人の俺(――と言っていいのかは分からないが)は今、換気の為か窓を開け、シャワー浴びてくると呟いて消えた。
「嘘みたいやな」
テーブルを挟んで座る人間が口を開いた。俺が、自分の知る限りの事を話し終えた後での事だった。
もう事態を飲み込んだみたいに、白石部長は俺を見つめる。得体の知れない俺に対して怖気づくなんてことは微塵もなく。
まあ、しかしそれは俺の知る白石部長も同じような反応をしただろうと予想出来る事だった。面白がるかもしれないし、小説のネタになると喜ぶかもしれない。
「単純に考えて財前が二人居るいうんはおもろいし、嬉しいんやけど…そんな悠長な事では済ませられへんよな」
「そらそうっすわ。…部長とアレ、俺は付き合うとるんすか?」
「せやで。ついでに、自分の恋人の謙也はどうやと思う?」
ぴく、と自分の顔の筋肉が微かに動いたのを感じる。
そんな事考えてもいなかった俺は問いに少しの冗談も返せなかった。
この白石部長の恋人が俺ならば、この世界の謙也さんは俺の恋人であるはずはないし、そうなればあまり聞きたくない。
俺の好きな謙也さんじゃないから、どうしていようが俺に関係のない事だけど、それでも姿形が一緒ならと区別して考えられる程、あの人に関して冷静ではいられないのだ。
そんな事を考えていると、白石部長は小さく笑った。
なんとなく馬鹿にされた気がして舌打ちをしそうになるが、ぐっと耐える。
「そないな顔せんでも、冗談や。謙也は誰とも何ともないで」
「は…、なんや、そっすか」
「あからさまにホッとして。どこの財前もかわええなぁ」
伸びてきた手が頭に到達する前に払った。しかしそれでも白石部長は嫌な顔をせず、それすら面白いと言いたげに口元に笑みを乗せる。
それから会話もなく(俺が一方的に途絶えさせて)少し経ち――
「謙也さんに言ってみたらええんちゃいます?」
部屋に戻ってくるや否や、俺と同じ顔の人間が白石部長にそう提案した。
「うーん。せやなぁ。でも謙也は現実で起こり得ない事に対して並みの人間以上に反応しそうやろ…混乱さすのも可哀想やし」
「お前はどう思うん」
「え、」
『自分』に話を振られ、思わず身構えた。
ダブル3
2012/08/25