▼ 酒涙雨の夜に
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七夕の夜に降る雨を「催涙雨(さいるいう)」もしくは「酒涙雨」と言うのだそうだ。

年に一度会える筈の織り姫と彦星は、天の河の増水により、河を渡ることが出来ず、悲しみの涙を流すそうだ。

七夕という日に僕は27倍の倍率を誇る試験に見事落選した。チャットの知り合いと上手く行かなくなったばかりか、それが引き金となり、大事だと思っていた人が僕から遠ざかった。挙げ句、赫とも大喧嘩した。何もかも無くなった。

気が付いたのは病院のベッドの上だった。「チクッとしますよ」と看護師は僕の腕に針を刺したが、感覚が麻痺して痛みを感じなかった。

何一つ覚えていない。前後2日間は。

今も全く落ち着きを取り戻してはいない。大事な人との距離は戻って来ない。希死概念に囚われ、いつも自暴自棄に走り、きっと大事な人は「そんな君は見たくない」と言うかもしれないが、それ程に君の存在は大きかった。

七夕の願いは、君に会って一緒に翡翠を探しに行く事だった。でも、めちゃくちゃになってしまった。僕のせいで。

僕はオアシスを探しながら砂に足を取られながら砂漠を彷徨う旅人のようで、僕の心に気付いて欲しいのに、でも、気付いて欲しくない。

美しい君に触れるには僕は汚れ過ぎて居る。

ボロボロの七夕。

願いは叶う事なく、流れたのは雨ではなく血だった。

2010.07.17 01:34



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