「吸血、鬼……?」

 声が震えた。
 それは、日常では決して使わない言葉。それは、幼い頃読んだ童話によく出てきた、暗い世界の住人を指し示す単語。
 牙。外套。十字架。太陽。蝙蝠。
 その言葉は、そんな様々な物を連想させる。
 だけど、その言葉はこの場に酷くそぐわない、と、動揺している頭で葵はそう思った。
 例え、今この現状が不可思議なことばかりでも。
 少なくとも、そんな非現実的な言葉は、葵と仁王の間に存在するものでは、存在していいものでは、決してない。

「信じられん、ちゅう顔しちょる」

 手を伸ばしてもぎりぎり届かないであろう、そんな位置に立つ男が、はあ、と、小さくため息をついた。
 その言葉に、ぐちゃぐちゃと何の整理もつけられずにいた頭が、いったんぴたりと考える事を放棄した。代わりに、一本化された感情がぐんと怒りに傾く。
 信じるもなにも、だ。
 そもそも、今の今まで何を尋ねてもはぐらかしてきた男の、こんな奇妙な場所へと自分たちを引きずりこんだ男の、いったい何を信じろというのだ。
 だけど、怒鳴りつけさえしそうになる激情とは裏腹に、冷静になれと必死に訴えてくる理性も、葵の中には確かに残っていた。
 このわけがわからない場所で、現状で、何かを聞き出せるとすれば、目の前のこの男しかいないでしょう?
 私が今すべきは、怒鳴ることじゃない。
 今、私の背後にいる仁王とふたりで、この場所から無事に逃げ出すこと。
 落ち着かなきゃ。冷静に、ならなきゃ。
 こんな状況だからこそ、どんなに信じがたい戯言でも、この男から話を聞き出すということに、大きな意味があるはずだから。
 そう自分に言い聞かせ、一度唇をぐっと噛みしめ、気持ちを落ち着かせた。
 後ろに仁王がいる、と、自分に言い聞かせ続けながら、おそるおそる男のつぶやきに言葉を返した。

「……だって、ようやく会話が成立したと思ったら、また突拍子もない言葉が出てきたから…」
「突拍子がない、ちゅわれても」
「少なくとも、私は自称吸血鬼に会うのははじめてだし、」

 どう対応すればいいかわからない、と、つぶやくように付け足すと、あー…と、なんとも言い難い表情で男が声をもらす。
 今までの支離滅裂さはどこへ行ったのか、なんとも普通なその様子が、葵のよく知っている仁王と本当によく似ていて、正直一瞬だけどきりとした。
 容貌は確かにうりふたつだけれど、今まで目の前のこの男と、仁王を似ていると感じたことは、なかったのに。
 吸血鬼、だなんて、ある意味出会ってから今までで一番突拍子もなく非現実的な発言をされたばかりなのに、何で。
 そんな妙な焦りを拭うように、言葉をたたみかけた。

「それに、仁王と貴方が同じって…」

 がしがしと頭をかいて、うーん、と、うなるその様子も、葵がよく知る仁王を彷彿とさせ、思わず顔を背けた。
 ほだされたら、最後だ。
 自分は仁王雅治だ、と、繰り返す目の前の男に仁王を重ねてしまったら、もう後がない。
 その自覚をなくしたら、きっと仁王を助けることもできず、このまま捕らわれてしまう。
 目の前の男の目的も何もわからないけれど、それだけは、きっと間違いないという根拠のない自信が、葵の胸の内には確かに存在する。
 目の前の男は、おそらく最近の仁王を悩ませ苦しませていた元凶で。そして、自分と仁王を攫った張本人なのだ。そのことを、絶対に忘れてはいけない。
 後ろに本当の仁王がいる、と、こぶしを握り直し、ぐっと口を一文字に結び目の前の男を見据えると、仕方ない、といった風に、男が口を開いた。

「…ほんっと長い間生きてきたんじゃ、俺」

 不本意ながら、と、また大きくため息をつく男の言葉を、一言一句聞き漏らさないように、息を殺す。耳を、澄ます。
 ただ、その声は確かに若々しいのに、男の語る『長年』を感じさせるのに十分な厚みを帯びていて、でもその激しい違和感に何か言及できることもなく、ただなんとも言い難い感情が胸の中に停滞した。
 だが、

「あちこち行き来して『ここ』に来るんにも、相当な力を使わんと来れんくて」
「え?」
「時々力を使い果たして、眠るんじゃ。否応無しに」

 ここ、が何を指すのかも、力だとか、回復だとか、続けられた言葉の意味がまったくわからず、思わず声をもらしてしまった。殺していた息も、堅く結んでいた口元もあっという間に崩れ去る。
 が、葵の戸惑いに気をかけるでもなく、男はそのままとんでも話を続けてきた。

「俺が眠っとる間、体を守るために自然発生するんが、なーんも吸血鬼のこと覚えとらん挙げ句、自分が普通の人間と思い込んでる仁王雅治。俺はこの『人間としての仁王雅治の人格』を『思念体』って呼んどる。それがおまえさんの知っとる仁王雅治じゃよ」
「……………は…」

 簡単に説明すんなら、二重人格みたいなもんだと思えばええ、と、まるで試験範囲を説明しているかのような口調ですらすら述べていく男に、その発言に、返す言葉が見つからない。
 人格、思念体?
 何を、言っているんだ。
 一体、何を、そんな、馬鹿げたことを、
 この男は、何を。

「ただ二重人格と違うのは、人格と人格が交代するんじゃなく、主人格である俺が表に出てきたから、あいつはこの体から追い出された。元々ちゃんとした人格なんかじゃない、俺が無意識に創った思念体でしかないからのう」

 いつもだったら、主人格である俺に溶け込むんじゃけど。
 つらつらと並べられていく言葉に、頭がまったく追いつかない。最初は一文字に結んでいたはずの口も、気づけばぽかんと開いてしまっている。
 口が開いたのに、言葉がでない。何も音を成さなかった口は閉じ、そしてまた開く。言葉が、成せない。
 吸血鬼。人間。思念体。二重人格。主人格。創った。無意識。
 何を、言っているんだ。
 この男は、何を。
 一体、なにを、そんな、おかしい、違う、馬鹿げてる、からかわれている、何が、
 開いた口が塞がらない、という言葉が今以上に当てはまる時はない、と、現実逃避を始めた頭でそう思った。
 だってこの現状は、これまでの出来事は、あまりた自分の知る常識から大きく逸脱している。
 ここに連れてこられた時の、ミラーハウスでの出来事。
 あのおかしな遊園地。
 奇妙なこの屋敷。
 仁王のこれまでの異常と、この男の存在と。
 そして、極めつけにはこの絵空事のような馬鹿げた話。
 笑い飛ばしてやりたいのに、あまりに浮き世離れした出来事がたて続けに起きたせいか、何の反応もすることができなかった。
 そんな容量がいっぱいになってしまった頭に、男から与えられる情報が、次々と金属バットで殴られているかのような衝撃を伴い叩きつけられていく。

「んな狭間なんかに流されたんも、体がなく魂だけみたいな状態だからナリ」

 狭間。魂。またとんでもない単語が飛び出てきた。もう、泣きたくなってきた。
 そんな男の視線の先は、確かに葵の後ろにある、今日一緒に出かけていた時とまったく同じ格好をした仁王が映っている大鏡だ。葵も、つられて振り返る。
 『んな狭間なんかに流されたのも』と、ついさっき男はそう言った。
 どうやらそれはこの仁王のことを指しているらしい。ならば狭間、というのは、この鏡の中のことを指しているのだろうか。
 鏡の中の世界の定義が葵にはわからないが、そんな物言いをするということは、今仁王はこの男に鏡の中に意図的に閉じこめられている、というわけではないのだろうか?
 あまりに抽象的な単語、現実離れした展開ばかりで、もうまともな推測をたてることすら難しい。
 鏡の中の仁王を見上げるも、仁王は目を閉じたまま微動だにしない。鏡越しだからかもしれないが、顔色も普段以上に優れないように見えた。
 早く、ここから出してあげないと、もしかしたら命に関わるかもしれない。そんな不安が、掻き立てられる。

「……………とりあえず、じゃけど」
「………………」
「俺のオルゴールと写真、おまえさん持っとるじゃろ?」
「……………持って、る」

 オルゴールと、写真。
 この短い探索時間で見つけた、数少ない手がかりらしいもの。 だけども、勝手に持ち出した物だ。てっきり怒られるかと思って少し身構えたが、男はひとつ小さな溜め息をこぼすだけで、責めてくる様子はまったく見受けられなかった。

「その写真とか、何でおまえさんを知っとったかとか、そこら辺はさっきん部屋戻って追い追い説明するけえ、あの応接室に戻りたいんじゃけど」
「…………嫌」
「なんで」
「…何でって………」

 少しの間考えて、答えた。

「仁王が、ここにいるし…それに、私………」

 あなたのこと全く信用できない、と、その言葉はさすがに飲み込んだ。
 でも、ここから離れることは、できれば避けたい。
 男を信用していない。
 ここには仁王がいる。鏡の中ではあるけれども。
 仁王を助ける術が今全く葵にはなかったとしても、ここを離れてこの不審極まりない男についていくなんて。そう思うと、足は床に張り付いたままびくとも動かなかった。

「んー………」
「……………」

 唸る男に対し、唇を噛みしめ足元に視線を落とすことしか、できない。背後の鏡は何の変化もなく、きっと仁王が目覚める様子も、ないだろう。
 できることが、何もないのだ。
 葵にできることが今、何ひとつない。
 悔しい。
 情けない。
 つらい。
 こんなにも、こんなにも。自分は無力だ。
 自分が男で、テニス部で、もっというならば頼りがいのある人間ならば、きっと、と、近頃いつも寝ている仁王の背中を見つめながら、何度も思っていた。
 本当に、ずっと、ずっと、
 思ってた。願ってた。仁王の力になりたい、と。
 早く、元気になってほしいと、いつも通りふざけたような言葉を重ね、ニヒルに笑ってみせてほしかった。
 そのためならば、どんな努力も厭わないと、ずっと思っていた。
 その元凶が、目の前にいるのに。

「(何も…………できない……)」

 仁王を助けることも、助けを呼ぶことすら。
 鼻の奥がつんとしたが、泣くことなんて許されないと思ったし、自分だって許せない。
 そんな葵の様子に、いかにも困っています、という空気を醸し出していた男は、さんざん唸って、唸って、どうやら結論を出したようだ。

「…………キツいこと、言うようじゃが…」

 歯切れの悪い言葉と共に、ずるずる、と、黒い外套が床をひきずる音が近づいてくる。少し、身構える。が、

「今ここにおっても、出来ることはなんもないぜよ。お前さんにも、それに俺にも、じゃ」

 続いた言葉が的確に、心を射抜いていった。
 男の出来ることなんて知りやしない。でも、自分が何も出来ないことは、嫌というほど実感している。

「ここまできて、もう隠し事はせんよ。煙に巻いたりもせん、ちゃんと話す。じゃから、一旦落ち着いて話ができる場所に移動したいんじゃよ…それにおまえさんも、腹減っとるじゃろ?」

 状況を示し、メリットを示し、希望を述べ、最後に少し相手への心配や感情を織り交ぜる。
 まるで仁王のようだ、と、少しでもそう感じてしまったその思いを否定したいのに、目線を下げている今、聞こえてくる声はまがいもない仁王のもののようにしか聞こえないのだ。
 それが腹立たしいのか、やるせないのか、自分でも胸の中に渦巻くこのぐちゃぐちゃとした思いは理解できなかった。
 ほら、と、伏せた視界の中に、てのひらが差し伸べられる。
 冬場は冷えがつらい、と、唇をとがらせていた仁王とよく似た、色素が薄いてのひら。
 その色に相反するように、筋肉のしっかりとついた手首。

 でも、仁王じゃない。


「(………………どう、しよう)」

 今この状況下で、男を完全に敵に回してしまってはデメリットこそあれど、得るものが何もない。
 自分 は、仁王をあそこから出す方法も、この屋敷から外へ出る方法もわからなければ、外の人間と連絡をとる手段すら持ち合わせていないのだから。
 それに、ついさっきまでまともな会話さえ成立しなかった相手が、今こんなにも条件を提示してきている。
 全てを話す、という、その言葉がたとえ嘘だとしても。
 まともな会話ができるということだけで、引き出せる情報は少なからずあるはずだ。
 逆に機嫌を損ねてしまったら、何も聞き出せない。それどころか、また気を失わせられる恐れもあれば、血を頂かれてしまう可能性すらある。
 ならば今、選ぶべきは、ここからふたりで逃げ出すための最短の道。
 仁王を救い出すための、最短の道。

「(…………………もしも、幸村君や柳くん、それに柳生君だったら…)」

 この、常識がまったく役に立たない空間において、きっと彼らなら。
 うまく立ち回り、情報を少しでも多く引き出そうとするはずだ。
 仁王を、救うために。
 仲間を、救うために。

「…………………わかった」
「ん」

 差し伸べられた手は取らず、床に張り付いてた足を、前へと踏み出す。
 すぐ後ろにあった大鏡が、少し遠くなる。
 本当は、嫌だ。でも、
 今、私にできることは、

 少しだけ後ろを、見上げる。
 鏡のガラスごしに見える仁王の顔色は、部屋が暗いせいかもはしれないがわ青ざめているように見える。目を覚ます様子は、ない。
 頑張りたいと、望むなら。
 頑張り時は、きっと今だ。
 今こそつらくても、頑張らなくちゃ、

 必ず戻ってくる、仁王。
 心の中で、呼びかける。
 一緒にここから出よう。帰ろう。
 一緒に、あの私達の居場所に。
 潮の香りと海風が心地好い、友達が待つ、あの場所へ。
 私は私で、できることをしなきゃ。
 だから、仁王、



「あ」

 口には出せない呼びかけを遮った、その抜けた一声が、積み上げた思考を突き崩す、はじまりだった。
 鏡から、たった今声を発した男の方へと首の向きを戻す。
 が、男は明後日の方向をぼんやりと見上げいるばかりで、続く言葉はなかった。
 妙な沈黙が、広がる。

「……………あの、どうか…した?」

 ひと声も発さない男に、そう問いかける。
 一瞬、なにか機嫌を損ねるようなことをしてしまったか、とも思ったが、むしろ自分は男の言葉に従おうとしていたところで、不評を買うような真似は何ひとつしていないはずだ。

「あ、あの……」
「ああ、悪い悪い。ちょお、さっきから気になっとったこと、思い出せただけじゃから」

 歳を取ると色々駄目じゃのお、と、銀髪をわしゃわしゃと片手でかきまぜる男に、どうコメントを返せばいいかと思ったものの、何も言わないことにした。
 言葉の続きを、待つ。
 そして、
 聞こえてきたのは、






「さっきの奴、『柳生』か。ようやっと思い出せた」






 誰じゃっけなぁって思っとったんじゃよなぁ、と、満足そうに頷く男の声が、遠くに聞こえる。
 さっきの奴。さっきとは、いつを指すの。自分と仁王が今日一緒にいたのは、赤也とその彼女である蓮華だ。
 柳生とは、会っていないはず。
 なら、さっきとは。
 さっきとは、いつを、
 それがわかった時途端に、音をたてて血が引いていくのが、わかった。

「………………やぎゅう、くん、に」
「ん?」
「…柳生君に、会ったの…?」

 声が震える。そして既に、責めるような語尾を強めた口調になってしまった。
 ついさっきまでの思考が、飛ぶ。
 下手に出よう、機嫌を損ねないように気をつけよう、そうして少しずつでもいいから有益な情報を引き出そう。そう思っていたのに、
 言い聞かせていたのに、

「あー…」

 あからさまにしまった、と、いった様子で目線をそらすその姿に、一気に頭に血が上るのを、抑えられなかった。

「いつ柳生君に会ったの?さっきって、いつ…?まさか……柳生君に、何かしたの…!?」
「何って…あー…なんちゅう、か…」

 男は珍しく焦りの表情を滲ませ、口ごもるばかりで何も話そうとしない。
 脳裏に、柳生の姿が浮かぶ。
 仁王の件に関して、相談に乗ってくれた時の笑顔。
 別所さん、仁王君をよろしくお願いしますね。あの優しい声が、今でも鮮明に思い出せる。
 仁王と肩を並べて話し込んでいる、その姿も幾度と見てきた。
 普段は澄まし顔の多いふたりが、くるくると表情を変えて談笑している姿を少し遠くから眺めて、ほほえましく、そして羨ましく思ってきた。
 仁王、
 柳生君、

 瞬間、ぶちんと、自分の中で何かが切れる音がした。
 柳生の事だけが原因ではない。今この現状に至るまでの全てが、ぎりぎりまで水が張っていたコップから溢れて零れ落ちるように。
 堪えるという蓋はヒビが入り、もう抑えはきかない。
 ただ、
 怒鳴り散らしたいのか、
 泣き喚きたいのか、
 それすらもう、よくわからなくなった。

「出ていって」
「え、なん、」
「出てって!!!!」

 激情にかられて、叫ぶ。
 おい、葵、と、慌てた姿を見せた男の背を押し、この物置部屋から無理矢理追い出してしまった。
 何枚も重なる扉を全て閉め、その前に机やら本やら大判の地図やら、埃が舞うのも気にせずひたすらに積み上げる。
 手近の物を狂ったように積み上げたそれは、はるか昔の学生運動バリケードのように見えた。
 そのバリケードを築くために乱雑に崩された雑多な物の山は、バランスを崩し数少なかった足場まで侵食し、葵のブーツを汚した。
 ようやく落ち着いてきたのは、しばらくたってからだった。
 きっと今自分は、涙と息切れと、もう目も当てられないような姿をしているのだろうと、泣きはらして痛む頭で思った。
 扉が元より何重にもなっていること、バリケードを築いてしまったこともあり、男が部屋の前に未だいるのかどうかは、わからなかった。
 それでも、今この狭い空間の中にあの男がおらず、自分と、そして仁王がいるというだけで、幾分救われるような気さえした。

「…………………もう、嫌だ」

 柳生君。
 仁王の、無二の親友。仁王を通して知り合った、自身の友人でもある、彼。
 柳生君。
 自身の突然の願いにも、笑顔で応えてくれた姿。仁王を頼むと、頭を下げてきた姿。仁王とふたり、言葉遊びのような会話を繰り広げている、その姿。
 柳生君。
 もう、いやだ、どうして、こんな、
 仁王の持っているものと対になっているストラップを、固く握りしめる。
 吸血鬼、遊園地、二重人格、幽霊屋敷、鏡、ミラーハウス、
 なんで、どうして、もう、嫌だ、もう嫌だ、早く醒めて、いつもの日々に帰りたい。テニスをしている仁王が見たい。教室でくだらない話をしたい。あの小さなフラワーガーデンで、少し真剣な話がしたい。海の風が強い通学路を、並んで帰りたい。
 どうすればいいの、
 ぼたぼた、涙が止まらない。
 大鏡の前に膝をつき、両手で瞼をこすっても、止まらない。
 どうしよう、仁王、
 仁王、





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