「「わあー!」」

 葵と赤也の彼女である蓮夏の感嘆は、園内を流れる愉快な音楽と周囲の人混みにいとも簡単にかき消された。
 天気は、快晴。
 週に一度の日曜日、気温はひと桁と吐息が白く染まるような寒気だが、ここ数日太陽の出ない日々が続いていたせいか、空が明るいだけでどこか暖かさが感じられる。
 そんな快晴のお陰か、普段以上に賑わう遊園地の入口に葵達四人は立っていた。

「葵先輩、今日は一日よろしくお願いしますね」
「私こそ誘ってくれて本当にありがとう、蓮夏ちゃん」

 葵と蓮夏がそんな会話をしている脇で、

「おまえさん何着飾っとるんじゃ」
「ちょ、俺だってデートなんスから当然っしょ!」
「別所の前でふざけんな」
「…別所センパーイ、今にお先輩が…っていでででで!!」
「あれ、どうかしたの?」
「結構混んでるのうって話しとっただけじゃよ」
「まあ日曜だからね、それはある程度しょーがないよ」

 どことなく不服そうな顔をしている赤也に蓮夏がいち早く気づき、ほら赤也、と赤也のパーカーを引っ張っていった。
 彼女の手にかかれば、赤也の機嫌の良し悪しなど彼女の思うがままなのなのは仁王は勿論葵もよく知っているので、今日は安心して彼女に赤也を任せられる。
 葵の問題は、今他にあるのだ。

「(そもそも切原君と蓮夏ちゃんのデートなんだから、ふたりの邪魔にならないように、あと不自然じゃないようにどうやって抜け出せるかなー…)」
「(赤也の企画でこそあるが、あのワカメに冷やかされたり邪魔さんと、んでもって別所があんふたり達を気にかけないようにうまく誘導しながら、いかに自然にふたりきりになれるかのう…)」

 そう悩んでいると、ふと葵の横にいる仁王も何か考え込んでいるような表情をしてるのに気がついた。
 たぶん仁王も抜け出す方法を考えてるんだよね、と、ひとり深々と頷いてみる。仁王は確かに抜け出す方法を考えてはいるのだが、自分とはまた別の理由だということには気づかない。

「んじゃ、行きますか!」

 いつの間に、どういう手を使われたのかはわからないが、機嫌の良さを取り戻した赤也が、にこにこと笑う蓮夏の手を引きながら意気揚々と先陣を取り進んでいく。
 そんなふたりの様子を見て、思考に耽ることをやめた。これは、中に入ってから場の空気を、タイミングを読み考えればいいことなのだ。
 どうやら仁王も考え事を一時中断したらしく、んじゃ俺達も行くかの、と、笑いながら声をかけてきてくれた。
 まずは、素直にこれから今日一日の遊園地で過ごす時間を楽しむべきだよね、と、葵は頷き仁王と肩を並べ、赤也と蓮夏を追い歩き出した。


□□□□


 遊園地とは、広大な敷地を現実社会から切り取り、その中に限定して、一時的に現実から少し離れた夢見心地な気分を味わせてくれる娯楽の空間だ。
 建ち並ぶ建物も、風景も、流れる音楽も、はたまた空気すら、どこか浮世離れしていて、そこにいる間は普段自分が過ごす『毎日』を忘れさせてくれる。
 観覧車より高い位置を、高らかな悲鳴をあげる客を乗せ颯爽と駆け抜けるジェットコースター。
 円状に広がる屋根の下、ぎりぎりの距離を取りながらくるくると回るコーヒーカップ。
 人がハムスターサイズになったような体験できる、部屋全体が回転したりよじ登らなければ登れないほど大きな階段などが内部にある、絡繰りハウス。
 次々現れるガンマンの姿をした張りぼての的を狙い得点を競う、シューティングゲーム。
 やはり休日なので混んでこそいたが、四人ではしゃいぎ騒いで、本当に楽しい時間が流れていた。
 小さなショップで肉まんと暖かいドリンクを買って、それを食べながらボックス席になったテーブルつきのベンチで、赤也と蓮夏が地図を広げる。
 もう制覇したものから順に赤丸をつけていると、赤也がにやにやと笑いながら、

「先輩達、次これ入りましょ!」

 と、まだ印のつけられてないアトラクションのひとつを指差した。

「お化け屋敷?」
「『本当に怖くて足が震えると名高い、客が明かりを持ちながら進むウォーキング式のお化け屋敷』じゃ、そうだ」

 説明文をつらつらと読む仁王の後ろで、蓮夏が一瞬顔を曇らせるのが葵のいる位置から見えた。
 もしかしたら蓮夏ちゃんはこういうの苦手なのかな、と、赤也を止めようかと思ったが、どうも今目の前で繰り広げられている赤也と蓮夏の会話を聞く限り、赤也は蓮夏がお化け関係が苦手なのをわかっていて提案したようだ。
 どうやら以前何かの賭けをして蓮夏が負けた時、お化け屋敷に入ることを赤也に約束させられたらしい。
 ベンチから立ち上がりぎゃいぎゃい騒いでるふたりをほほえましい気分で眺めていたら、肉まんを片頬に頬張った仁王が、ふたりに気をつかったのか机を挟んだ向かい側から葵の隣のベンチに移動してきた。

「まったく、どこであっても騒がしいバカップルじゃの」
「仁王はお化け屋敷、怖くないの?」
「柳生じゃったら、前に文化祭程度のお化け屋敷でも気絶してたのう」
「ということは、仁王は大丈夫なわけね」
「俺が作りもんのお化けにびびりまくっとるとこ、想像つくか?」

 白い息を吐きながらはふはふと肉まんを食べる仁王を眺めながら、考えてみた。

「…………うーん…」
「真面目に想像せんでよか」
「せんぱーい!行きますよー!」

 明らかにふて腐れた蓮夏の腕を引き、いつの間にか歩き出していた赤也のもじゃもじゃ頭が、少し先の人混みにちらつく。
 んじゃ俺らも行くか、と、肉まんの包み紙をぽんとごみ箱に放り込み、仁王も腰をあげ、葵もそれに続いた。
 が、仁王はすぐ赤也達と距離を縮めず、歩くテンポを落としたまま葵の肩を叩いてきた。

「そうじゃ、」
「ん?」
「これは絶好のチャンスナリ。中であいつらと距離とって、抜け出すぜよ」
「あ、そっか」
「別所先輩ー?仁王先輩ー?どうかしましたかー?」
「早くしないと置いてっちゃいますよ!」

 好都合ナリ、と、仁王がぼそりと呟いたのが聞こえ、思わず笑ってしまうと、先を歩くふたりが揃って首を傾げる。
 そして四人でお化け屋敷に向かうと、その前には多いとも少ないともいえない人の列。
 列に並ぶ待ち時間は雑談に費やせば、すぐに時間が過ぎていく。
 順番が回ってくれば、それではお気をつけてくださいね、と、係員に人数分の懐中電灯を手渡され、葵達は暗い屋敷内に足を踏み入れた。


□□□□


「ぎゃあああああああ!!」
「いやぁぁぁああああ!!」

 いくら暗闇でも本当にふたりを撒けるのか、という葵の心配は杞憂に終わった。
 ひと足先に出口にたどり着いた葵は、黙って今自分達が歩いてきた暗闇を見つめてみた。仁王は隣で心底呆れ果てた表情を浮かべているが、これには葵も同意する他ない。

「……まだ奥の方にいるはずなのに、ここまで悲鳴聞こえるね」
「……ほんに、騒がしいバカップルじゃのう…」
「というか切原君、自分も苦手なのに何であんなに乗り気だったんだろう…」
「たぶん自分の彼女虐めるんに躍起になって、忘れとったんじゃろ」

 まあ此処の売上には貢献しとるのう、という仁王の皮肉にも苦笑いしか返せなかった。
 実際外にまで響き渡る悲鳴を聞き、お化け屋敷の前を通る人々がお化け屋敷を話題にあげていくのを見ているので、仁王のいうこともあながち間違いではないだろう。

「でも、よかった…無事にひっそりと抜け出せて」
「そうじゃな、ほんに無事に抜け出せてよかったナリ」

 ひと仕事終えたかのように安心した顔でふう、と、大きく息を吐き出した葵の横で、自分の体を影にこっそり小さくガッツポーズをする仁王の姿を見て、近くを通った親子が微笑ましい視線を向けたのだが、ふたりは気づかない。

「んじゃ、とりあえずあいつらにメールいれとくか」
「そうだね、いなくなっちゃったってふたりに探させちゃっても悪いし」
「(知っとるから探さんとは思うけどな)ちゃんと俺らがどれだけあのバカップルに気をつかったか書かんとのう」
「恩着せがましく書いちゃ駄目だからね」
「ピヨッ」

 そして仁王は、赤也に『おまえさんから貰ったチャンス、有効に使わせてもらうぜよ』とメールを入れる。
 葵は蓮夏に『ふたりのせっかくのデートの邪魔しちゃ悪いから、仁王と抜けるね!ふたりでゆっくり楽しんで』とメールを入れる。
 お化け屋敷から脱出後、そのメールを同時に開いた涙目の赤也と蓮夏がお互いの画面を見せ合って、あのふたりが全く違う意図でいなくなったことに道のど真ん中で腹を抱えて笑い、人からの注目を集めたのだが、やはりいなくなったふたりが知るよしもない。

「じゃあ、どこ行く?」
「とりあえず、あいつらのおるゾーンから離れたとこじゃな」

 んじゃ逸れるんじゃなかよ、と、仁王が少し距離を詰め、人混みの中をふたりで歩き出した。
 園内に設置されていた、少し料金の高めな数々の色のランプが瞬くゲームセンター。
 水の上をボートに備えられた操縦桿やボタンを駆使し進んでいく、搭乗者を冒険者に見立てたライディングコースター。
 道端でアコーディオンを奏でるピエロ。
 エジプトの古代人により呪われた遺跡の中を、知恵を振り絞り脱出するという、室内迷路。
 園内の高い位置に、園内をぐるりと囲むようにレールが備えられた園内機関車。
 仁王が時間や人を読み、効率よく園内を歩く順序を決めてくれたおかげで、思っていたよりハイペースに沢山のアトラクションを回ることができた。
 まだ午後を少し回った程度だというのに、入園した時から持っている園内地図は制覇のマーク、仁王が描いたので円ではなくヒヨコマークなのだが、とにかく地図は半分近くマークで埋まっている。
 んじゃ一旦休憩するか、と、いう話になり、遅めの昼をとり、それから葵達は園内の右サイドにある土産品を売る店が沢山あるショッピング街へとやってきた。
 その中でも商品がひとつの傾向に寄らず総合的に品を揃えた、数ある店の中でも最大の敷地面積を誇る店へと入ってみた。

「土産、誰かに買うん?」

 店に入ってすぐ、仁王がそう尋ねてきた。

「今ちょっと金欠だから、家族にお菓子の缶ひとつだけ買おうかなって思ってる。仁王は?」
「…家族ひとりひとりに、これ買えあれ買えって指図されてるナリ」

 ため息と一緒に、仁王がジャケットの右ポケットから取り出したメモ用紙を覗き込んだ。
 縦横無尽に何人分かの筆跡で文字が書き込まれているそのメモには、なんだか仁王家の仲の良さを感じさせる暖かみがある。
 じゃあちょっと書いてあるもん調達してくるわ、と、ぶすっと珍しい表情を見せながら背を丸め店内を進んでいく仁王の背中を見送ってから、葵も店内の物色を始めた。

「(せっかく来たんだから、何かしらお土産買いたいなぁ)」

 遊園地のキャラクターが入った可愛らしい商品や土産品、菓子が陳列され、楽しげな音楽に楽しげな会話が飛び交う店内は、見ているだけでも気分が浮き立つ。
 店内の中央にレジがあるので、入口から右回りにぐるりと歩いている中で、あるひとつの物に目が止まった。
 ちょうど目線の高さほどに陳列された、商品のひとつ。
 金具の部分から細長い輪を作る銀色のチェーンが、二重に重なり揺れる度にしゃらんしゃらんと耳障りの良い音をたてている。
 チェーンの金具側に近いところには、小さな王冠と薔薇のチャームがバランスよくついていた。王冠のチャームにはところどころ色つきの石が埋め込まれていて色合いがよく、薔薇のチャームは銀製だが花びらの部分に色のコーティングがされている。
 細長かったりするところを見る限り、これはどうやら携帯ストラップのようだ。
 青い薔薇と赤い薔薇の色違いのふたつセットで売られているところを見ると、いわゆるカップル用のものなのだろう。
 じっとそれを眺めていると、横からひょい、と、家族用のお土産を腕に抱えた仁王が覗き込んできた。

「それ、気になるん?」
「うん、綺麗だなって思って。でもやっぱりちょっと値段高めだからなぁ」

 ストラップの紐部分が通された横に長い台紙を手に取り裏返せば、やはり普段ストラップにかける金額よりやや高めだ。
 財布と相談するか、と、鞄から財布を取り出していたら、ふと気がつつくと隣から仁王の姿が消えていた。
 あれ、と、周囲を見渡しても仁王は見つからない。
 慌てて店内を歩き回り仁王を探していると、こっちじゃこっち、と、声が聞こえ、声のする方向を見ると店の出入口付近でひらひらと手を振る仁王の姿があった。葵が慌てて駆け寄ると、仁王は何故か機嫌よくにこにこ笑っている。

「びっくりしたよ、話してる最中にいきなりいなくなっちゃうんだもん」
「すまんすまん。心配かけた代わりといっちゃなんだが、ほれ」
「え?」

 葵の目線の高さに、先ほどまで仁王の手にはなかった小さな土産袋がかかげられる。

「え、これどうしたの?」
「昨日電話でいったお揃いじゃ」
「え?え?」
「中、見てみんしゃい」

 店ん中で開けるのもなんじゃから、と、仁王に腕を掴まれ店を連れ出された。
 偶然店先のベンチが空いていて、ん、と、を仁王にやんわり肩を押され強制的にベンチに座らされてしまった。隣が空いているのに仁王は座るつもりがないらしく、葵の前に立っている。
 仁王の珍しく強引な様子に目を白黒させている葵に、仁王は笑顔で袋を手渡してきた。
 まるで赤也のように無邪気な笑顔を浮かべる仁王に寒気がしなかったといえば嘘になるが、とりあえず受け取った袋を開いてみれば、

「これって…!」

 ついさっき、店内にいる時葵が手に取っていたあのペアのストラップが、袋の中には入っていた。
 ぽかんと呆ける葵の手から、ひょい、と仁王の腕が伸びてきて、それはすぐ仁王の手の中へと戻った。

「え、な、なんでこれ…あ、仁王もこれ欲しかったの?」
「だから、昨日電話でいったお揃い、じゃ」
「え?」
「だから、片方はおまえさんの分ナリ」
「で、でも、」
「俺のわがままだから俺が全額持つ、ていいたいがの、それじゃおまえさん納得せんじゃろ?だから、きっちり半額。セットの金額だと手が伸ばしづらくても、これならおまえさんの常にピンチな財布でも大丈夫じゃろ?」
「つ、常にピンチな財布って!」
「さっき昼飯買う時、財布ん中見えたからの。葵の今日の手持ち残額はばっちり把握済みじゃ」
「な…!」

 べえっと舌を出しストラップの入った袋を、目線の高さまで持ち上げぶらぶらさせる仁王に、葵はもうぐうの音も出なかった。
 ほら、と、袋から出された赤い薔薇の方のストラップを手に握らされ、仁王ももう片方の青い薔薇のストラップを自分の手にちらつかせる。
 仁王が明らかに自分に気を使い、これを選んで買ってきてくれたことは流石にわかる。でも、こういう時仁王は明らかに嘘くさいとわかる口調で自分の気遣いを否定し、決してそれを認めないだろう。
 そして仁王が一度こういいだしてこう笑い出したら、もう梃子でも曲げないことは、よくわかってる。むしろ、このままごね続ければじゃあ全額負担するといいだしかねない。

「……わかった、ありがと」
「プピーナ」

 今日一番の笑顔でにっこりと笑う仁王を見ると、なんだか肩からがっくり力が抜けてしまった。
 実際魅力的な提案でもあったし、葵は素直にありがとうということにした。
 仁王の善意は、善意や善行を素直に口にすることを気恥ずかしく思うのか、いつも彼の手により偶然にすり替えられてしまう。
 そしていつもこうやって自分から折れてしまうことが殆どで、いつか自分は仁王に出し抜かれず、折れることなく仁王の善意に対して直接感謝を伝えることができるんだろうか、と、自分の手の中で光るストラップを見ながら、ちょっとだけ思った。
 ただ、今仁王が自分に求めているのは、ありがとう、のひと言だけだというのも痛いほどわかっていたから、それ以上は何もいわなかった。
 そのかわり、

「でもよかった、今日仁王楽しそう」

 と、ストラップを握り締め、少し俯いてそういった。
 雰囲気からも仁王が唐突な話題にきょとんとしたのがわかったので、そのまま顔を見ないまま、自分の隣のスペースをぽんぽんと叩いた。
 よくわからないが、と、いった様子だったが、仁王も葵にいわれるままベンチに腰を降ろしてくれる。

「最近ちょっと不安になること、多かったの」

 仁王は何もいわなかった。
 おそらく葵のいわんとすることをすぐに悟ったのだろう。少し驚いたようにこちらを向き目をしばたかしたが、ただ黙ってまた前を向いていてくれた。
 遊園地の愉快な音楽。楽しげな会話。自分達が静かになった途端、それらが耳をつくような感覚に陥る。

「前はああ言ったけど、やっぱり仁王ってそう簡単に相談とかしてくれないからね」

 正直にいえば、そういった時から、仁王が本当に困ったことがあった時自分に相談するだろうか、とは思ってはいた。
 さっきと、同じなのだ。
 仁王は自分の感情や思いを殆ど口にしない。
 困っていることだって、葵に話さなくてもいいのだ。仁王が信頼している、例えるならばテニス部の仲間達にでもちゃんと相談できているのなら。付き合いが長く仁王のことをよくわかっている彼らの方が的確なアドバイスを出すことだってできる。葵も彼らなら仁王に全力を尽くすだろうと思うし、むしろテニス部の絆には葵が踏み込むことはできない。テニス部に相談できているならば、葵の心配事は何もないのだ。
 だから、葵が心配なのは、仁王が誰にも何も打ち明けず、抱え込んでしまっているのではないか、ということなのだ。
 解決したなら、きっと教えてくれる。
 あれ以来何も話にあがらないということは、きっと解決していないということだから。

「話聞かせてってごねたりしないよ。相談も、仁王がしたい時にしてくれればいい。愚痴じゃなくて相談なら私よりテニス部のみんなの方がいいと思うけど、私だっていつでも待ってるから」

 知り合った日は浅くても、異性でも、クラスメートであること以外に接点がなくとも、仁王を大切な友人として思ってることや、心配する思いだけは、負けてないと信じているから。

「仁王が病気でも、何か辛いことがあって荒んでても、ちょっと暴論だけどいきなり真顔で俺は宇宙人だっていいだしたって、私は味方だよ」

 それまで黙っていた仁王も、宇宙人ってな、と、流石に呆れた声で口を挟んできた。
 言葉に嘘はないが、遊園地に似つかわしくない重い空気は少し払拭されたようだ。
 そして、仁王が少し笑ったのを見て、

「だから、絶対忘れないでね。私はどんな時でも仁王の味方だよ」

 最後にそう、付け加えた。
 いいながらも、恥ずかしい台詞だ、とは思った。
 それでも、自分の感情や思いを必要最低限でしか口にしない仁王には、真っ直ぐした思いをぶつけるしかない。自分なりに考えた結果、そう思ったのだ。
 そこまで話して、ようやく隣に座る仁王の反応を見ようと首を横に向けた。
 が、

「…………仁王?」
「…………………」

 仁王は小さく青くさ、と、だけ呟くと、ぷいとそっぽを向いてしまった。
 もしかしたら怒らせてしまっただろうか、という心配が、一瞬頭を過ぎる。
 でも、この気温でも赤らむことのなかった耳が、少し赤く染まっているのが見えたから。もしかしたら照れてるのかも、ということに気づき、思わずちょっとだけ笑ってしまった。

「……おまえさんは、俺を照れさせて、変な顔して赤くなっとんの見んのが、そんな楽しいんか」

 じとり、と、赤がさした頬を少しだけ見せながら、仁王の咎めの視線が飛んでくる。
 今まで全く見せてくれたことのないそんな表情をしている仁王の姿を見ていたらなんだか嬉しくなってしまい、うん、嬉しい、と、満面の笑みで答えてしまった。
 あーかっこわる、なんてうなりながら、両手で顔を覆いうなだれる仁王のその姿は、葵は初めて見る仁王の新しい一面であり、その姿は確かにどこにでもいるひとりの男子高校生だった。





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