「真田、おは……」
「何だ真雛。おなごが阿呆のように口を開けるものではないぞ」
「…え、いや、あの…ちょ、え?え?………真田サトシ?」
「?何を言っている」
「おはようございます真雛さん」
「あ、お、おはようやぎゅー…今日も素敵な笑顔だね(やぎゅー、あれどうなってるの)」
「ありがとうございます(私にもわかりません。朝練の時には既にあれでした)」
「(…部活のみんなの反応は)」
「(定期検診を受けるため幸村君は欠席だったのが幸いでしたが、当然混乱が広がりました。柳君も開眼していました)」
「(…………)」
「(真雛さん、そんなに凝視してはいけませんよ。真田君が気づいてしまいます)」
「(でも、このまま恥を晒し続けさせるより、教えてあげた方がいいような気もするんだけど…)」
「(それもそうなんですが…)」
「(クラスのみんなもいたたまれない空気発してるし、このまま放課後もあのまま部活を続けるのはどう考えてもよろしくないでしょうに!)」
「(…では真雛さん、貴方、言えるんですか)」
「(…………うっ)」
「(真田、今日いつもの黒帽子じゃなくてポケモンのサトシの初代の帽子なんだ!すごいね、レアものじゃん!とか、貴方笑って言えるんですか)」
「(うううう…っ!)」
「(……私には無理です)」
「(……私にも無理だよ)」
「(普段のようにからかえる物事のレベルを遙かに超越してますよね)」
「(この件でからかったらきっと明日から口きいてくれないよね、真田)」
「(…はあ。一体何をどう間違えてこのようなことになったんでしょうか)
「(寝ぼけてコレクション品といつもの黒帽子を間違えたんでしょ、たぶん)」
「(まず、この場であの帽子が真田君の所有物だと知れるわけにはいきませんね。真田君の名誉のために)」
「(いっそみんな親しみ湧いたりしないかな、真田君もポケモン好きなんだ!みたいな)」
「(ワンピースやスラダンが好きとかいうならば親しみも湧くかもしれませんが、ポケモンですよ?)」
「(うっ)」
「(高校生でポケモン好きは親しみの対象にはならないでしょう。しかも好きレベルならまだしも真田君はポケモン通レベルです)」
「(…たしかに)」
「(しかもポケモン通でサトシの帽子をかぶって学校に来たなんて知れ渡ったら、真田君のメンツどころかテニス部のメンツまで潰れます。それだけは避けたいので)」
「(否定できないところが何とも…でも、じゃあ何か穏便に事を片づけられる策、浮かんだ?)」
「(………よし、ここは仁王君の悪戯ということにしてしまいましょう)」
「(え)」
「(この悪役は他の部員には務まりません。真田君に怒られてもひょろりと逃げられるのは彼だけです。大きな声で仁王君に悪戯されてますよと言えば、クラスの皆さんもまさかあのサトシ帽が真田君の所持品とは思わないでしょう。よし、そうしましょう)あの、真田君、実はぼ…もごごごっ!」
「?何だ?」
「ななななな、何でもないよ真田!ちょ、やぎゅー部室に忘れ物しちゃったんだって!私もトイレいってくる!」
「もごごもご!」
「う、うむ…SHRが始まるまでに帰ってくるのだぞ」


□□□□


「何をするんですか真雛さん!」
「いや、だってそれはさすがに仁王君がかわいそ過ぎるでしょう!ていうかせめて本人に了解とりなよ!?紳士でしょ!?」
「う……っ!」
「まず、いくら私達が周りに仁王君の悪戯だってごまかしても、あんな公衆の面前で真田に現実を伝えたらキェェェェ!ってなっちゃうでしょ!」
「そ、それは確かに…」
「でも、真田を教室から連れ出して事情を説明して帽子を脱がせたとしても…それで教室に帰ったらもっと真田恥ずかしいよね…想像するだけでいたたまれない気分になるよ」
「…朝練からこの件に関し頭を使い過ぎたのか、もう疲れました」
「…おつかれ」
「今日一日この件に悩み続けることになりますよね…私達」
「しかも、真田がもし私達以外から現状を知ったら、何故言わなかった!?って絶対怒られるよね」
「…………」
「…………」
「…………はあ」
「もうこの件考えるのやめない?めんどくなってきた」
「そうですね、なるようにしかなりません。できる限り真田君の頭は見ない方向で今日一日を過ごしましょう」


□□□□


「動くこと雷霆の如しィィィィィィィ!」
「(ピカチュウだ…)」
「(10万ボルトだ…)」
「(…おい、結局今日一日誰も真田の帽子ツッコミ入れなかったのかよぃ)」
「(じゃあまる先輩言えるんスか)」
「(ジャッカルどうにかしろ)」
「(俺かよ!?無茶振りすんなよ!…柳、お前なら真田に意見しても大丈夫だろ?)」
「(別に弦一郎の帽子がアレでも部活になんら支障はあるまい)」
「(…柳先輩、楽しんでますよね)」
「(でも皆さん見てください。久々に仁王君がお腹を抱えて笑い転げてますよ!真田君のおかげです!)」
「(いや、でもよぉ…って、比呂士お前堂々と携帯出すなって!怒られんぞ!?)」
「(真田サトシの写メ、一枚500円で売りますよ。テニスボールをモンスターボールに合成したら完成ですね)」
「「「(………うわあ)」」」
「やあみんな、おはよう」
「「「「!!」」」」
「ゆゆゆゆ、幸村、部長…!?今日は一日定期検診じゃ…」
「いつもより少し早く終わったから部活だけでも顔出しにきたんだ。それよりみんな揃って神妙な顔をして、一体どうしたんだい?」
「えー…と、その…」
「む、幸村ではないか!検診は無事終わったのか?」
「ああ真田、心配か…け……」
「む?」
「……………(ちらっ)」
「(ひい!)おおお俺!柳生先輩と試合してきまーす!ほら行きましょ柳生先輩!」
「そ、そうですね」
「ジャ、ジャッカル!俺らも柳と仁王相手にダブルスやろーぜ!ほ、ほら、行くぜい!」
「そ、そうだな!ほら、柳も仁王呼びに行こうぜ!」
「ふむ、そうするとしよう」
「?…皆どうしたというんだ」
「真田」
「何だ幸村」
「何の冗談かは知らないけど、君はテニス部副部長という立場にありながら今日一日その恥を晒しながら過ごしていたのかい?いい度胸をしてるじゃないか」
「な…な、何の話だ!?」
「ゆっくり話がしたいな、ちょっと部室まで来てくれるかい?」
「おい幸村!部活はどうす「いいから来いよ」
「…ゆき「来い」
「(真田副部長、ご愁傷様っス…!)」
「(冥福を祈るぜぃ)」


□□□□


「(…………うわあ)えっと…おはよ、真田とやぎゅー」
「おはようございます」
「……………」
「(……え、何?何が起きて今日はマリオなの?)」
「(実は昨日の放課後、幸村君が部活に顔を出したんですよ。その時に…まあ)」
「(…考えられる中でも最悪のパターンだったねぇ…それは。で、何故にマリオ)」
「(テニス部のメンツ潰しの罰だそうです。言うまでもありませんが、幸村君が)」
「(………真田、ご愁傷様)」
「(ちなみに背中に『罰ゲーム執行中by幸村』の貼り紙つきです。これで昨日の件もうやむやになるでしょう)」
「(ある意味一件落着かぁ…真田が今日一日ちゃんと我慢できれば)」
「……………(ちらっ)」
「……………(ちらっ)」
「……くっ…………ぐすっ」
「さ、真田、泣いちゃダメだよ!頑張って!ファイト!」
「大丈夫です、似合ってますよ!まさに配管工そのものです!」
「余計な励ましはいらんわァァァァァ!!」


※結局、昨日の真田は誰かに悪戯されたのだろうという噂が流れました。誰もあれが真田の所持品とは思うまい。

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