さぁ、こうやって役者は揃った。
 奇異な能力を持つゆえ内向的になった面倒くさがりのクリスティーヌ。人々から崇め奉られるファントム。他人を、更には自分をも騙し現実から逃げ続けるラウル。皆現実という世の常に傷つけられ、殻に閉じこもった哀れな舞台俳優達だ。
 この三人が出会ってしまったことで、これから多くの人間の人生が変わっていくことになった。人生、というには少し大袈裟過ぎるかもしれないが、人の生き筋を決定するのはいつだって当人の主観、すなわち価値観だ。つまり、この三人が引き起こした事象が、彼らを取り巻く登場人物達の価値観を変えることとなった。こう言うのが正しいかな?
 さあ、話を進めよう。どこまで話したかな?ああ、彼女の奇異な能力を彼が知ってしまったところまでだったね。
 だが話はすぐには動かない。現実なんてそんなものさ、都合のいいように立て続けに事件など起きやしない。彼と彼女の話はひとまず、舞台はまた神奈川のあの伝統ある海辺の学校へと移り戻ることとなる。そう、彼女や彼女の親友達、それに銀髪の彼のいるあの狭く閉ざされた空間へと。時は秋だ。舞踏会を気取った祭が開かれる季節じゃないか。
 でも話はまだまだ続くさ。信じてほしかったあの子と、信じたいと願い続けたあの方と、あの時まで信じることをやめていたあの男の話は、まだほんの序章なのだから。
 ああ、そうだ、肝心のことを尋ね忘れていたね。

 お名前を、伺っても、よろしいかな?




 そう問われた男は、人形の頭に積もったホコリを払い、自らの腕の中へと引き入れる。
 暗い部屋の中、床に散らばるガラスの破片だけが万華鏡のようにゆらめく蝋燭の炎を反射し光る。
 天窓から光は差し込まない。

「………お前も、もう、先の時間へと進む事はないのか」

 声が狭い空間の中で響く。
 人形の背中のぜんまいをひねる。巻く。それでも、人形があの美しい旋律を奏でることは、もうない。
 頭から埃を被り、幾多のほつれをその身に抱える人形は、その男の言葉に、かくんと首を傾げた。

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