犬の洗い方

 「シャワー浴びてきたら?」彼女が言った。
 「嫌だ」シリウスは頑なだった。ハリーの名付け親はきっと、外出を禁じられているから、意地になっているのだろう。外に出かける予定がないのだから、小綺麗にする必要がない、と。しかし、同居している仲間には困った問題だった。シリウスが纏い、部屋の外に出てくるたびに残していく耐え難い獣臭は、彼自身のものか、バッグビーグのものかわからないけれど。

 「さっぱりするよ」
 「別にしたくない」
 「ふうん」と彼女は言った。「じゃあ、私と一緒ならどう?」

 シリウスの眉がぴくっと反応したのを、ハリーは見逃さなかった。きっと動揺を悟られたくなくて、とっさに表情をつくったのだ。が、シリウスが放つ緊張感とは裏腹に、部屋の中がさっきより明るくなった気がする。彼がなんて答えるのか、ハリーも固唾を飲んで待った。シリウスはそんなハリーの視線を避けたいかのように、壁のほうへ少し顔を逸らしてから、「そこまで言うなら」とぼそりと言った。「入る」

 「嘘は言ってないでしょ」扉の向こうから、シャワーの音と彼女の声が聞こえる。それから、抗議するかのように吠えたてる犬の鳴き声がした。それはもう猛抗議にちがいなかった。
 「服は脱がないし、犬の姿を解いたら怒るよ。でも身体は洗ってあげるから、じっとしててね」
 扉の外にいるハリーでさえ、耳を塞ぎたくなるくらいシリウスは吠えて訴えていたが、やがて命乞いするような切ない鳴き声に変わっていった。おじさんに同情するべきなんだろうな、とハリーは思った。


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