愛こそが故に。 



 「 ティキ、別れてさ 」


唐突に述べられたソレにティキは目を見開いた。


どうして?


先程から此方を見向きもせず、本の世界へと意識をトリップさせていた彼は今も尚、此方に視線を寄越さないまま本の活字へと目を滑らせる。
急に何なんだと眉を寄せながらティキは一言返す。


  「 何で 」


自分でも驚く程落ち着いた声が出る。
まるで最初からこうなることが分かっていた様_。


ティキは一瞬足りとも本から目を離さず、此方を見ようとはしないラビに少々不機嫌に成りつつも先程から蒸かしていた煙草を片手に白い煙を吐いては、気長に返事を待つ。


正直言ってしまえば自分達が別れる理由だなんて幾らでも在る。そりゃ殴る、蹴るの暴力(主にラビだが、)は日常茶飯事だし、こうして沈黙が続く事も何時ものことだ。
それでも気まずいとか、話題を無理に作らなくても良いと思えるのはラビだからこそのこと。
其れに、何にしろ自分達は敵同士。分かり合えない無いことの一つや二つは在る。
その事で思い悩んだり、衝突しあったりする事も合った。
だが、其れすらも乗り越え、今が在るのは二人だからこそ、だと思っていたのだがどうやら目の前の彼は違うらしい。
彼はぺらり、と新たなページを捲りながら静かに返した。


「 …もう、疲れたんさ。こうしてアンタと会うのも。 」


疲れた…、とは?

知らぬ内に負担を掛けていたのかとティキは黙り込む。が、その考えを見透かした様に彼は続けて言葉を紡いだ。


「 違う、アンタの重りになることに疲れたんさ。 」


その瞳は、何時もキラキラとしてまるで宝石を埋め込んだように綺麗だった碧では無くなっていて、変わりに憂いを帯び、濁った碧へと変わっていた。

ティキは"重り"と言う言葉に眉を寄せる。
自分は今まで彼を重りだなんて思ったことも無いし、考えた事もない。
逆に彼と出会えた事によって今まで見えなかった物が見え始めて、モノクロの世界だったこの景色に色をつけてくれた。
彼と出会えて本当に良かったと思っているのだがこの子は何を勘違いしているのだろうか。


「 重り?誰がそんなこと言った?ラビ、お前は俺に出会えて本当に感謝してるよ、君を重りだなんて思ったこと一度も無い。君は俺の"希望"なんだよ。 」

「 今は…、今はそう言いきれるかも知れないさ。でも次は違う。近いうち俺はアンタの重りになる。 」


きっとアンタは俺のせいで苦しむ事になるんさ_。
一方的な決め付け。何の抑揚も無く、只淡々と述べられたそんな理不尽な言葉にティキは ふざけるな…。と溢す。
小さな声で発せられたその言葉はこの静かな空間の中、彼へと聞こえるのは容易で、彼は ふざけてないさ。と返すだけ。

其れに更なる苛立ちを覚えたのかゆらり、と静かにティキは立ち上がれば、ラビの本を取り上げ、強引に此方を向かせた。
ラビは、ほら、ソレだ。と呟く。何時もは触ってこない頬に手を当てればラビは少しだけ悲しそうな顔で述べる。


「…。ほら、ね?今、感情を昂らせた。其れと同じ事さあ。其れを例えば深い悲しみとして考えて見る。ティキ、アンタは今、怒りによって本を取り上げ、此方を向かせた、其れがもし、悲しみだったらどうする?」


__悲しみだったら?

泣く。顔を歪める。いかないでと引き留める。



「 俺達は敵同士さ。 」



嗚呼、そういうことか…。



俺には大分本来ならいらないはずの感情が入り込んでさまっていた。

その感情は敵、と言う判断を鈍くさせる。


きっと俺はもう、お前を殺せなくなっているだろう。
幾ら此方は此方、あっちはあっち、と割り切ったとしてもきっとその時にはもうお前を殺せなくなっている。


ましてやお前の悲しい姿を見たくないからといってお前の仲間さえ殺せなくなって仕舞うかも知れない…。



それはノアとして重大な過失だ。
幾ら家族とは言え、俺達は千年公によって作られたシナリオの一部、この事がバレれば千年公に記憶を消去されかねない。


其れはあっちにとっても変わりやしない。
あっちはあっちでエクソシストとしてAKUMAを倒しながらも裏でブックマンとして記録を取ると言う大事な大役をこなしているのだからこの感情は邪魔以外の何でもないのだろう。


常に傍観者なれ。

ブックマンに心はいらない。


ブックマンの教えの障害物。
此れがあるから傍観者でいられない。


とんだものを背負ってしまったと内心苦笑した。




ラビは悲しげに笑っては側に合った本を引き抜くとぱらぱらとページを捲る。


そんな彼を静かに見詰めた。まるで此の仕草、顔付き、行動、言動、全てを焼き付けるかの様に。
返す言葉なんて見つかりゃしなかった。

其れは本当のことだから。御互いにこの関係はいずれかは重りとなり、己を縛る鎖となるだろう。

そして、誰かの死は枷となり、その足元を掬う。



ははっ、と嘲笑の声を洩らした。
確かにそろそろ潮時かもしれない。
此の不毛な関係を終わらせるのは、

でもちょっと惜しい。
此の時間が、
君と過ごす時間がとても心地好かったから。
暖かったから。

好き、だったから__。



 「 _…愛こそが最高の不幸であり、最高の幸である。だから、愛こそがあなたを縛り付け、離さないだろう。
嗚呼、何て可哀想な君、私はあなたを助けに行く。沢山の赤い薔薇と共に。 」


静かに述べられた詩に、歪な詩だろ?とラビは笑った。


「 だけど、此の詩は素敵だと思う。
愛こそが鎖。愛こそが鍵。閉じ込めるも開けるも縛るのも愛こそが故。愛が全てを引き起こすんさ。 」


がたり、と音を立て、ラビが椅子から立ち上がった。
すっと、ティキの目の前に立てばその手を取り、自らの頬へとやる。何時もなら絶対にしない行動にティキは驚く。


「ねぇ、其れでも__、」


酷く綺麗な笑顔を浮かべたラビにぞくり、と肌が栗立つ。

なんだか聞いてはいけない気がした。
やめろ、と言ってやりたいが、言葉が出ない。
何故かひゅっと喉がなっては、じり…、と近付いてきた相手に反射的に後ろへ一歩後退する。


「 ねえ、其れでも_…。 」


やめて、やめてくれ…。
らしくもなくぎゅっと目を瞑る。
そんな彼の様子にくす、とラビは笑えば酷く冷たい手でティキの目元を撫でた。
そしてとどめかと言わんばかりに言葉を発した。


「 俺と一緒にいてくれる? 」


「 御意…。 」



嗚呼、俺はいつの間にか愛と言う名の鎖に繋がれていたようだ__…。



( そう、此れは彼等の歪な噺。 )



end..


_____

酷いですね、なんですかこれ。
確かもうどうにでもなれっー!って荒れていた時に殴り書きした奴だと思います。

嗚呼、ティキたん弱気ヘタレ…。
ラビたん魔性の誘い受け…。

と、言うか、別れて?って言ったラビがどうして一緒にいてくれる?とか言ってるんでしょうね、

駄文また追加だ…。

お目汚しすみませんでした。



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