帝国学園。

そのフィールドの芝生の上をボールが力なくコロコロと転がった。


成神はその後を追い、爪先にボールを軽く当てて少しだけ離す。

「…………」

暫く見下ろしていたがボールを拾い上げるとゆっくりと瞼を閉じた。

ふと、背後に気配を感じて瞼を開いたが振り返る事はしなかった。



「……お前に何が分かるんだ」

「?」

背を向けたままの成神が発した言葉に、背後に近付いた人物…佐久間は訝し気な表情を浮かべる。



「辺見先輩に…そう言われたんです」

「……」

「あまっちょろいお仲間サッカーはもうたくさんだって」


段々と俯き、声を震わせる成神に佐久間は何も言う事は出来なかった。



「何でかなぁ…?」

成神はボールを持つ両手に力を入れた。指先が白くなる程に、震える程に、


「俺、楽しかった…辺見先輩が大好きで、佐久間先輩も源田先輩も、鬼道さんも大好きで…っ」

「…あぁ」

「そんな、大好きな先輩達とサッカー出来て楽しかった…でも、俺だけだったのかな?辺見先輩、は…」


「成神」

佐久間は成神の肩に手を置いて言った。


「先に謝らせてくれ」

「…?」

訳が分からずに佐久間を見ると、微かに微笑まれる。


「俺は、辺見を殴るぞ」

「………」

「それから、鬼道もな」


肩に置いた手を上に移動させて成神の頭をくしゃっと撫でる。


「仲間だからな。迷惑をかけられたから全力でぶちキレる」

「………怖い」

成神は泣き笑いの顔でそう言うと、持っていたボールを地面に落として思いきり蹴った。


そのボールは綺麗な軌跡を描き、ゴールネットへと吸い込まれていった…。








「染岡!!」

染岡は名前を呼ばれて振り返る。
そこに居たのは今はアメリカに居るはずのかつてのチームメイト。


「一之瀬!?お前、いつ日本に…」

「その話は後だ。土門を知らないか?」

「土門?」

土門も日本に来ているのか、そう思いながらも「俺は知らないな」と答える。

一之瀬は「そうか…」と唸り、すぐに脱力するかのように溜め息をついた。


「いきなり姿が見えなくなって、連絡がつかなくなったんだ。俺達が日本に来る事は円堂にだけは伝えていたから、一緒かとも思ったが円堂にも連絡がつかな…」

「ちょっと待て、円堂だと?」

一之瀬の言葉を染岡が遮り、声を荒げる。
そんな染岡に一之瀬は目を丸くしながら頷いた。


「そうだけど…円堂がどうかしたのか?」

染岡は舌打ちをして悪態をつき、今までの事を説明した。




「そんな…」

全てを聞いた一之瀬は表情を一変させ、黙り込む。


「アフロディから連絡が来て、どうやら緑川も円堂の所へ行ったらしい。それでヒロトが俺達のチームへ」

「そうか…もちろん、俺もそのチームに入れてくれるんだろうな?」

一之瀬の言葉に染岡は「もちろんだ」と力強く頷いた。




 そして、二つのチームは再び対峙する事になる




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