辺見は見知らぬ風景のなか、一人ポツンと佇んでいた。

「イナズマジャパンを応援する為にライオコットに来たのは良いが……ここはどこだ?」


所謂、迷子というものになっていた。
源田や成神と共に来たのだが、はぐれてしまって携帯で連絡を取ろうにも充電が切れるという徹底した迷子っぷり。


「確か、代表国ごとにエリアが別れてたはず」


キョロキョロと辺りを見渡すが、周りに居るのは金髪碧眼ばかり…明らかに日本エリアではない。

さて、どうしたものかと途方に暮れていると「辺見?」と名前を呼ばれた。
この異国の地で自分を知っている人間?…というか助かった!!

と、期待に満ちた表情で声のした方向を見てすぐに視界に映ったのは金髪に変なゴーグルの男。



「…誰?」

辺見が思わず呟いた言葉と「お前、邪魔だよ」という言葉が重なり、ゴーグル男が脇に押しのけられた。
すると、次は見知った顔が見える。


「土門!!」

「久しぶりだな、何でお前がライオコットに…つか、アメリカエリアにいるんだ?」

かつてのチームメイトである土門が笑顔を浮かべていた。

「日本エリアに行こうとしてたんだが、道に迷って…」

「アスカ、その可愛い子ちゃんをミー達に紹介しておくれよ」

「……可愛い子ちゃん?」

知り合いに会えて、助かったと笑顔で土門と話していた辺見は悍ましい物を見る目でゴーグル男を見た。
この男を見てると胸騒ぎがするのは何故だろう…。


「あー、コイツは辺見渡。日本で同じ学校に通っていた事がある…辺見、このゴーグルはディランでその隣がマーク」

「ワタル!!君ってばスッゴくキュートだね!!」

ディランはギュッと辺見を抱きしめ、そのまま背中をバンバン叩く。

「ちょっ…なっ、離せ!!」

バタバタと暴れる辺見を見て、マークがディランを辺見から引き離す。


「ディラン、怯えさせちゃ駄目だろう」

マークはにっこりと微笑んで辺見の手を取った。


「失礼、俺が代わりに詫びるよ」

そう言いながら、紳士よろしく辺見の手に軽くキスを落とす。

ピシッと音を立てて固まる辺見に土門はバシッと両手でディランとマークの頭を叩いた。


「からかうな」

「だって、日本人って少しのスキンシップで反応が面白いんだもの」

「でも、ワタルは本当に可愛いと思ってるよ」


全くフォローになってない…。
土門はディラン達を先に宿舎に帰るように追い払い、未だ放心状態の辺見をバス停まで案内する。


「次に来るバスに乗れば日本エリアに行ける。宿舎までは…まぁ、誰かに聞けば分かるさ」

「すまん…助かる」

土門が去った後、やって来たバスに乗って空いていた席に座る。
一息ついた時に「ねぇ…君、日本人?」と声をかけられた。
顔を上げると青い瞳と目が合って、言葉につまる。
にこっと笑った少年は辺見の隣に座って話し始めた。


「あ、俺はフィディオ…一応イタリア代表なんだ。君は日本代表じゃないよね、応援に来たのかな?でもアメリカエリアから乗ってきたし…もしかして日系のアメリカ人とか?あ、アメリカと言えば代表にディランとマークってのが居るんだけど…」


何だこのマシンガントークは。
辺見が呆気に取られてるのにも気にせず、フィディオは話し続ける。


「俺も今から日本エリアに行くんだけどね、佐久間って子に会いに行く…」

「佐久間?」

初めて反応を示した辺見にフィディオはピタッと止まる。

「佐久間くんの事知ってるの?」

「知ってるというか…」


日本で同じ学校に通ってる事とチームメイトだという事を話すと、フィディオは明るい表情になる。


「本当にっ?じゃあ、佐久間くんの事色々と教えて!!」

「……は?」

「佐久間くんってば、俺の顔を見るとすぐに逃げ出すんだから…話もできないよ」

「なん……だと?」

逃げ出す?
あの佐久間が…?



   そ れ は 見 た い



辺見は宿舎の場所を知ってるというフィディオと共に日本宿舎へ向かった。




「あーーーーっ!!」

宿舎の門をくぐった途端に、辺見の姿を見付けた成神が叫び声を上げる。


「辺見センパーイ!!いきなりいなくなるから、心配したじゃないですか!!」

ガバッと抱き着く成神にデジャヴュを覚える。
あー、あのディランに感じたのはコレか…何となく似ているのだ。この二人は。

辺見は成神を引きはがしながら『ディランとやらには近付かないようにしよう』と誓った。

「大丈夫だったのか?」

源田の問いに辺見は頷き、土門に会って道を教えてもらった事を話した。

成神の叫び声を聞き付けて、数名が辺見を迎えるためにやってきた。その中に佐久間の姿もある。


「何だ何だ辺見、迷子とか……ひっ」

佐久間はからかう声音で近付いてきたが、辺見の側に立つフィディオの姿を見付けた途端に表情が引き攣る。


「へ…へっ、辺見…おまっ…何てモン連れてきてんだっ」

「?」

幽霊じゃあるまいし、何をそんなに怯えているのか…辺見がそう思った時、フィディオが動いた。


「佐久間くーん!!会いたかったよ!!君と会えなかった時間は永久にも感じられたけど、そんなものは君を一目見た瞬間に吹き飛んでしまったよ。ご覧よ、俺は君のチームメイトと出会った。これは運命に違いないよ。やっぱり俺と君は繋がっているんだね、神様の祝福を受けてry」

「………」

佐久間に抱き着き、頬擦りしながら恥ずかしい口説き文句を次々と言い放つフィディオに言葉を失う。
佐久間は「離せ」だの「覚えてろよ辺見」だの喚きながらフィディオの腕の中で暴れる。


「気にするな。日常茶飯事だ」

鬼道の言葉に「ハハハ…」と、渇いた笑いが零れる。




世界って怖い…。


辺見は心の中で呟いた。




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