最近、部活が終わると半田は誰よりも先に帰る。

理由は分からない。
半田って、あまり自分の事を話したがらないんだ。俺と一緒にいても、いつも俺ばかり喋ってる。

それでも、邪険に扱われたりなんかしたことないから迷惑がられてる訳ではないだろうと思っていた。

でも最近は全然話す機会がない。
前は部活帰りにマックに寄ったりしてたんだけどな…とうとう嫌われたかな。残念だ。俺、半田のこと結構好きだったんだけど。


と、まぁ…そんな事を思っていた訳だけど別に俺だけを避けているという訳ではないらしい。


染岡や風丸、他の部員達も俺の所に来た。


『最近、半田は何かあったのか?』


と、聞いてくる。
そんなの、こっちが聞きたいくらいだが、どうやら周りの連中は半田と一番仲が良いのは俺だと思っているらしい。

別に仲が良い訳じゃない。
俺が半田に付きまとっているだけだ。


『そうか』



『松野なら何か知ってるかと思ったが』

豪炎寺が、円堂が、皆が口を揃えて言う。
知らないよ。俺は何も知らない。


でも、知りたい。




だから…、
こうやって今。


半田の後を付けてるのは許してほしい。


ストーカーみたいだな、等と客観的に自分を見る。



半田はコンビニで何かを買ってから、鉄塔広場へと向かった。
特訓…って訳じゃないよな?

広場というより、草木の奥の茂みに潜り込んで行った。

近付くと、半田の「ちょっ、落ち着けって」という声。
誰かいるのか?

覗いても良いだろうか、と考えていたら聞こえてきたのは猫の鳴き声。



あぁ、なるほど。


全てを理解して俺は足を一歩、踏み出した。


「猫、ここで飼ってんの?」

「!?」

半田はびっくりした顔で勢いよく振り返る。
その足元には、半田がさっきコンビニで買ったであろう牛乳を飲む子猫。


「ぁ…えっと…」


怒られる子供のように視線を泳がし始めた半田に苦笑する。


「別に、責めてる訳じゃないよ…捨て猫?」

「多分……俺の家、猫飼えないから」

「でも、ずっとこのままはダメでしょ」

「分かってる」

目を伏せる半田の足に猫が擦り寄った。
半田は微笑んで猫の身体を撫でる。

俺は暫くそれを見て、半田と同じ目線にしゃがんだ。


「…触っていい?」


半田は一瞬、目を丸くしてから笑顔で頷いた。






それから時々、俺達は猫の世話をするようになった。
もちろん里親も探さなきゃいけない。二人で色んな生徒に声をかけまくった。


そしたら、1年の女子から親に聞いて許可を貰ったら飼いたいという申し出があった。


その日。
俺達は足早に鉄塔広場へと向かっていた。


「飼い主が見付かるかも知れないって報告しなきゃ」

半田の笑顔を見て俺も笑う。

「そうだね」






いつも猫がいる場所

ダンボール箱に、ご飯や飲み物を入れる小皿

寒くないようにと、半田が持ってきたタオル

淋しくないようにと、俺が持ってきた不細工な猫のぬいぐるみ

いつも通りだったけど、いつもと違う


俺達を迎えてくれる猫の鳴き声は聞こえない。



地面に傷だらけの泥だらけで倒れる猫“だった”もの

周りにはエアガンの弾が散乱していた



小学生だろうか?中学生?それとも高校生…?



どうでも良いけど、


俺には猫を見下ろす半田の背中しか見えない。



ねぇ、今どんな顔してる?
半田が笑うなら俺も笑うよ



でも、今は…





「泣けば?」

声をかけると、その背中がピクリと震える。


思いきり泣けば良いよ



でも、俺はお前と一緒には泣かない

もしお前が悲しくて泣くのなら、俺は泣かない



声を殺そうが出そうが…どんな方法であれ、悲しくて泣くというのなら





抱きしめてやるから



だから、



「泣けばいい」





そして、


俺はその背中を抱きしめる為に、足を踏み出した。





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