「風丸、ちゃんと俺の言う通りに出来たな?」

円堂の問いに頷く。

「大丈夫だ…一之瀬には見られていない」

「ふっ…本当にお前はいい子だ。お前は俺の言う通りに動いていれば良い」

「分かってる…俺は、お前の為だけに動くから」




   だから、捨てないで





風丸の言いたい事が分かり、円堂は喉の奥で笑う。


「大丈夫だ…言っただろ?いい子は好きだぜ?」

「ん…」


円堂からキスを受けられる内は大丈夫だ。
風丸は頷いて、円堂の部屋を出た。


そして、
また吹雪と出会う。円堂と吹雪の部屋は近い場所にある為に仕方ない事なのだが、やはり良い気はしない。


吹雪は壁にもたれて休んでいたのか、風丸を待っていたのか…クスクスと笑って見る。


「人を連れてくるくらいしか出来ないんだね?」

「……何だと?」

「だってそうじゃない…風丸くんって試合で何が出来るの?点を決めた?ディフェンスだって僕だけでも出来るのに…」


 ダンッ!!



「…………」

「…黙れ」

吹雪の顔の真横に拳を叩き付け、風丸は低く言う。


「お前は…“一人”じゃ何も出来ない半端者だろ」

「…!?」

吹雪の表情がサッと変わる。風丸はそれを見て鼻で笑うと、吹雪に背を向けた。




「…………っ」


ギリッと歯を食いしばり、風丸の背中を睨みつける。



僕は半端者なんかじゃない。
アツヤと一緒なら完璧になれる……アツヤと一緒なら、




「…辛くない?」

「!?」


突然、声をかけられた。
気付かなかった。いつの間に近付いていたのか、すぐ側に緑川が立っている。


「…どういう事?」


一度、大きく息をついて気持ちを落ち着けてから緑川に問う。

緑川は感情というものがあるのか、全くの無表情だ。


「吹雪…凄く辛そう」

「別に…大丈夫だよ」


以前ならまだしも、今の緑川は苦手だ。何を考えているのか全く分からない。


「そう…」

緑川は瞳を伏せ、吹雪の側を通りすぎた。



「ちょっと待て」

その背中に“アツヤ”が声をかける。

肩越しに振り返った緑川にアツヤは一瞬、迷ってから問いかけた。



「お前……このままで良いと思ってるのか?お前、もしかして…」

「…どうでも良い」

「……」


緑川は呟くように答えると、話は終わったといわんばかりにアツヤが何か言う前に歩きだした。





「勝手な事しないで…っ」

「……」

吹雪がアツヤを押し込め、軽く頭を振る。



「アツヤ…お願いだからおとなしくしてよ」




僕達、二人なら完璧になれるよ。

ねぇ、アツヤ…そうでしょ?





緑川は廊下を歩いて自室へと向かっていた。先程アツヤに言われた言葉を思い出す。


『このままで良いのか?』



そんな事はどうでも良い。
世の中にはどうにもならない事なんてたくさんある。自分に親がいないのと同じだ。


努力しても無駄な事はあるのだ。
それなら最初から流れに身を任せれば良い。




「その方が……ずっと楽だ」




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