「たまには縛ってみたいと思う」

「…………は?」




ベッドに横たわる緑川は、俗に言うマウントポジションという位置から自分を見下ろすヒロトが縄をピンッとさせるのを見て冷や汗をかく。

逆光でヒロトの表情が若干暗く見えるのも恐怖を助長させていた。



「縛る…って?」

聞き間違いだろう…聞き間違いであってくれ。

縄を手にしているのだから聞き間違いの可能性は低いのだが、僅かな希望も捨てたくはない。

緑川は縋る思いでヒロトを見つめた。そんな緑川にヒロトはにっこり笑って言い放つ。


「たまには縛ってヤろうよ」



あぁ、この男は駄目だ。
緑川は悟った。

我が恋人ながら、なかなかの変態趣味である。


明日は練習が休みなので、今日は久しぶりに身体を重ねようとヒロトが緑川の部屋に来ていた。

緑川は甘い雰囲気のまま事に及ぶことが出来たら良いなと思っていたが、酷いフラグクラッシャーもいたもんだ。


ヒロトはニコニコと上機嫌に緑川の両腕を纏めると、縄で縛ってベッドの上のパイプに括り付ける。


「痛くないでしょ?」

「痛くないけど…俺は普通にやりたいなぁ、なんて」

「たまには刺激も必要だよ」


セックスそのものが刺激になるのでは?

緑川はそう思うが、どうせヒロトに言っても聞き入れてもらえないだろう。
ここはおとなしく従おうと覚悟を決めた時、視界が暗闇に包まれた。



「…え?」

「目隠し、感度が上がるらしいよ」

「ちょ、ちょっ……んぁっ」


さすがにこれは抗議しようとした声は、喘ぎに変わる。
ヒロトの手がシャツの中に潜り、肌を撫でた為だ。


「やっ…ヒロト、これ…外してよ」

「何で?いつもより感じない?」

「ひゃっ…ぁ…やだ……こわい…」


見えないからヒロトが何をしてくるか分からない。そのせいで触れられる度に身体が震えてしまう。

「大丈夫…痛い事はしないから」


首筋を耳元に向かって舐め「緑川は気持ち良いのが好きだもんね?」と囁く。


「ぅ…んっ」

視覚を奪われた事によって僅かな刺激も快感に直結しているようだ。ヒロトは、頬を赤らめながら息が上がっていく緑川を満足げに見ながらシャツを上へと上げる。

外気に触れ、冷気に声を上げる緑川を可愛く思いながら僅かに反応を示している胸の突起に触れる。


「ふぁっ…ぁん…あっ…」

「気持ち良い?」

「ん…いぃ、あっ…ヒロト…」

口では良いと言いながらも、足りないと言うように身をよじる。ヒロトは緑川が何を欲しているのか分かっていて、クスリと笑う。

親指と人差し指で摘んだり、引っ掻いたりしながらもう片方に軽く舌を這わせると緑川から高い声が上がった。

気のせいか、いつもより反応が良い。やはり、目隠しは効果的なんだな…等と考えながら噛んだり、舌で押し潰したりする度に甘い声が聞こえる。



「ぁ…あっ、ヒロトっ…もっ…そこばっか……やぁっ…」

緑川が足をもどかしげに擦り合わせると、ヒロトはズボンの上からそこに触れる。

「あっ…ぁ…」

相変わらず胸に舌を這わせながら、既に反応を示している緑川のソレを緩く扱く。


「はっ…ぁ…ひろ…ヒロトっ、ゃ…やだっ…」


嫌々と首を横に振る緑川にヒロトは笑って問う。

「何が嫌なの?俺に何してほしい?…緑川のしてほしい事をしてあげる」

そう言いながらも手は止めない。布越しにも、緑川の肉棒が段々と硬く膨張していくのが分かる。


「ぁ…さわっ…て…」

「…触ってるよ?」

自分が意地悪い笑顔を浮かべているのは自覚している。
それでも快感に喘ぎ、羞恥に堪える緑川を見るのは楽しいのだからしょうがない。


「ちがっ…も、直接…が…いぃっ……」


我慢出来ずにそう言った緑川に、褒美だといわんばかりにキスを落とし、下肢の衣服を全て脱がせる。

立派に上を向く緑川の肉棒を直接握り、強弱を付けながら上下に扱く。


「あぁっ…あっ…いい……っ…んっ」


縛られた腕を震わせ、縄がギシギシと軋んだ音を立てる。

直に触れて刺激を加えていると、そう時間も経たぬ内に達してしまった。


「はっ…は…ぁ……」

射精後のけだるさに力を抜く緑川の後孔に指を這わせると、ビクリとその身体が震えた。



「ひ…ヒロト…やっぱ…こわい…」

視覚を奪われたままなのはやはり不安なのだろう、眉根を寄せる緑川の顔にヒロトは何度もキスをする。

「大丈夫…俺を信じて」


そう言いながら、準備していたローションを垂らしてゆっくりと…まずは指を1本入れる。


「ん…」

僅かに違和感を感じて強張るが、ローションの助けもあって痛みはそれ程酷くはない。
何度か出し入れを繰り返し、入れる指の本数を増やしつつ時間をかけて解していく。



「はっ…ぁん…あっ……」

緑川の声も、堪えるものから艶のある快感を帯びたものに変わっていく。


そろそろ良いかな…と、ヒロトは指を全て引き抜くと、すっかり勃ち上がっている自身をソコに宛がう。


「ね…入れて良い?」

ヒロトの問いに緑川はコクコクと無言で頷く。緑川も早く入れてほしくて脚を広げてヒロトが入れ易いようにしてくれている。


「緑川…可愛い」

ヒロトは小さく呟きながら、腰を進める。


「んっ…」

やはり、指とは違う質量に緑川は苦しげな声を上げる。


しかし、中途半端に止まっては余計に苦しい。ヒロトは止まる事なく奧まで突き上げた。


「ふっ…あっ……っ」

「緑川…」

緑川は若干苦しいかも知れないが、両足を抱えて折り重なるように深く口付けをする。

そして、そのまま軽く腰を揺すった。


「んぐっ…んっ…ぅっ…」

合わせた口の端から唾液が溢れる。
深く繋がる体勢でヒロトが突き上げるし、視覚がないぶん感覚が研ぎ澄まされているので余計に感じてしまう。


きゅうきゅうとヒロトを締め付ける力はいつもより強い。


「ん…はっ、緑川…」

「あっ…やぁっ、ヒロト…あっ…あぁっ…」


ヒロトの動きも段々と激しくなり、それに比例して緑川の声も大きくなる。一度達したはずの緑川は既に芯を取り戻しており、先走りを溢れさせている。


「ひろっ、ヒロト…ヒロトっ…やだぁっ…」

緑川が首を左右にぶんぶんと振るのに、ヒロトは思わず動きを止めた。

「…嫌?何が嫌なの?」

「手…解いてっ……目隠しもっ…やだ…」

「あぁ…それ」

ヒロトが緑川を縛る縄にチラリと視線を向けた時に緑川が悲痛な声を上げる。



「ひろ、と…抱きしめたいっ…顔も…見えないの……やぁっ…」

「…っ」

「…んぁっ」

緑川の言葉に思わず反応してしまい、緑川は体内でソレを直に感じた。


「こ…のっ、」

危うく達する所だった。
無自覚はこれだから困る。


ヒロトは一息ついて、緑川の拘束を解いた。途端に自分にぎゅうっとしがみついてくる緑川を撫でる。


「ごめんごめん…やっぱり、いつも通りにしようね」

「ん…」


再び、挿入を繰り返し行う動きに合わせて緑川は声を上げる。
ヒロトの肩に手をかけ、快感に溺れながらもヒロトの表情を窺う。

目が合うとニコリと笑ってくれる。


「ん…ヒロト、ぁっ…キス、したい…」

「何度でもしてあげるよ」


「ふっ…ん……ぁっ、あ…もっ、イく…ヒロトっ」

「ん…俺も」


「あっ…ああぁっ、ーっ」

「…くっ」










「絶対に許さない…」

「すみませんでした」


緑川の手首にはいかにも『縛られました』というような跡が残り、ヒロトは緑川の機嫌を直すのにかなりの苦労を要する事となった…。




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