※大学生成神、社会人下鶴。パラレル




「…可愛い」

「あ?」

レポート作成の為に図書館を訪れていた成神と辺見。
成神が発した一言に辺見はその視線の先を追った。

貸し出しや返却を行うメインカウンターとは別に、離れた隅の方にあるカウンター。
成神はそこに座っている人物を凝視していた。


「そうか…?まぁ、可愛いと言えば可愛いが、性格キツそうな顔してんぞ」

「そこが良いんじゃないですか…何であんな離れたカウンターにぼっちなんだろ?」

「さぁ?それより、お前も資料探せよ」

「ちょっとナンパしてきます」

「おい」

既に興味をなくして本棚と睨み合っていた辺見は、成神の言葉に顔を向けたが成神は既に歩きだしていた。





「こんにちわー」

「…こんにちは」

成神がにこやかに挨拶すると、相手はパソコンに向けていた視線を上げて静かに挨拶を返す。


「え〜と…しもづる、さん?」

名札に書かれている名前を読み、確認するように視線を合わせて小首を傾げる。

「はい」

「下の名前は?」

「……改です」

下鶴は僅かに訝しむような表情を見せたが、素直に答えた。

「改さんかぁ、可愛い名前だね」

「いえ…」


成神はそのカウンターに置かれているプレートを示して、再び尋ねる。

「れふぁ…レファレンス?って、何?」

「利用者が求める情報や資料を提供したり、それを探すお手伝いをするサービスの事です」

まるで台本の台詞を読んでるかのような答えに「ふ〜ん…」と、成神は頷き、ややあってニコッと笑った。

「改さんさぁ、歳いくつ?」

「はい?」

「彼女いる?好きな食べ物は何?誕生日は?」

「………」

成神はカウンターに頬杖をついて笑う。


「俺が求めてる情報」

「…個人的な事はお答え出来ません」

「え〜?つまんない」

「………」

下鶴は単なる冷やかしだろうかと、成神との会話を切り上げて再びパソコンに視線を戻した。


「あ、酷い。ねぇねぇ、ごめんって…真面目に聞くから」

その言葉に下鶴はチラリと成神を窺う。


成神は笑顔で「ホントホント」と頷いて、メモ用紙を見せる。

「大学のレポートなんだけど…教育心理学系の本ってどこ?」

下鶴はメモ用紙を受けとって、成神にいくつか質問をするとパソコンに何やら打ち込んだ後に「少々、お待ちください」とどこかへ行ってしまった。

暫くボーッとして、待っていると下鶴が数冊の本を持って戻ってきた。


「この辺りが参考になると思います」

成神はそれらの本をペラペラとめくって「おぉっ」と驚きの声を上げた。


「すっげぇコレ、分かりやすい…俺らがめっちゃ探しても、こんなの見つからなかったのに」

「探し方さえ間違えなければすぐに見つかります」

成神は「凄い」を連発し、ニコニコと礼を言うと下鶴は小さく「いえ…」と返した。


「因みにここ何時までやってる?」

「閉館時間は19時になります。毎週金曜日は21時までです」

「ふ〜ん、ありがと」


成神は本を持って「またね♪」と、空いている方の手を振った。
下鶴はそれに無言で会釈を返す。







「辺見センパ〜イ」

未だに唸りながら本を取っては戻しの作業を繰り返していた辺見は、成神の声にギリッと睨みを返す。

「お前な、少しは手伝え」

「ちゃんと本探したんですよ、ホラ」

「…………どうやって?」

受けとった本を軽く見た辺見は驚いて成神を見る。
すると成神はニヤリと笑った。


「探し方さえ間違えなければすぐに見つかりますよー」

「何だソレ」








「あ、居た居た。改さぁ〜ん♪」

「………」

閉館時間から少しして、下鶴が帰宅しようと外に出ると、成神が手をぶんぶんと振りながら近付いてきた。


「何、して…」

「改さんを待ってた」

「は?」

下鶴が首を傾げると、成神は「だって…」と至極当然のように言った。

「レファレンスって個人的な事は答えられないんでしょ?だから、レファレンスサービスしてる改さんじゃなくて、改さん個人に聞こうかと」

成神の答えに下鶴は呆れたように脱力した。

「……アホか、お前。その為にずっと待ってたのか」

「え〜?結構頭良いと思った…って、何かキャラ変わってない?敬語じゃなくなってるし」


「勤務時間外だ。何で仕事以外で年下に敬語使わないといけないんだよ」

「あぁ、コレがギャップ萌えってヤツ?」

「…お前、馬鹿だろ」

「酷い。ところで、さっきの質問に答えてよ」

冷たい視線にもめげる事なく笑顔で聞いてくる成神に、下鶴は「嫌だ」と答える。


「知り合いでもないヤツにプライベートな事は答えない」

「俺、成神健也」

「聞いてない」

さっさと歩きだした下鶴に成神は見送りながら声をかける。

「じゃあ、これから俺の事教えるから改さんの事も教えてねー」

「聞いてないって言ってるだろ」

肩越しに振り返ってそれだけ言って遠ざかる下鶴を見えなくなるまで見送って、自身も動く。
その表情は新しい玩具を与えられた子供のようだった。

「図書館通いがこんなに楽しみになるなんて…」





成神が下鶴のプライベートな事を聞き出せたのは、それから数ヶ月後の話…。



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