「おーい、一之瀬…これは買い過ぎじゃないのか?」

「何言ってんの?日本人たる者、日本製品が一番合うんだよ」

「そりゃそうだけど」



一之瀬と土門は日本に帰国してから「まずは買い物だ」と街へと繰り出していた。
文房具など、アメリカの物と違って日本の物の方が使いやすい。

その他、向こうでは手に入らない日用品等を買い込む。
土門はすっかり一之瀬の荷物持ちにされ、既に両手は紙袋で塞がれている。


「あ、今度はこっちのお店」

「俺は疲れた…ここで待ってるからお前一人で行け」

そう言って土門は店先のベンチに腰を下ろして、荷物を足元に置いた。完全に休む態勢に入ってしまっている。
そんな様子を見ていた一之瀬は「全く…」と、腰に手を当てて呆れた表情を浮かべる。


「これくらいでへばってたら彼女が出来た時に買い物に付き合うなんて出来ないよ?女の子の買い物なんて、これの比じゃないんだから」

「買い物嫌いな女探すから良いわ」

「やだわやだわ、女心の分からない男ね!!」

「気持ち悪い裏声使うな。早く行け」

手で追い払う仕種をすると一之瀬は苦笑して「分かったよ、じゃあ待ってて」と店の中に入っていく。

土門はため息をついて空を見上げた。



「すげぇ晴れてるなぁ…」


何となく呟いた一言。
すると、それに返事が返ってきた…懐かしい声で、



「やっぱりアメリカの空とは違うか?」

「!?」

驚いて空から視線を移す。
そこには笑顔の風丸が立っていた。


「風丸!!久しぶりだなぁ」

「日本に帰ってきたなら連絡くれれば良かったのに…円堂から聞いて驚いたぞ」

ゆっくりと土門の前まで歩いてきた風丸の笑顔に土門は、ふと違和感を覚える。

風丸はこんな風に笑う奴だっただろうか…?


何を考えているか分からない…裏に何かを隠しているかのような笑顔。


「あ、あぁ…皆を驚かそうと思ったんだけど円堂にだけは連絡をな。誰にも言うなって言ったのに、早速チクったのかアイツは」

「…その円堂がお前を呼んでるんだ」

「…?」

風丸の言っている事が理解出来ずに首を傾げる。

「お前を連れてくるように…円堂に言われた」

「何で…?」

「来れば分かる」

「それなら一之瀬も。今呼んでく…」


「駄目だ!!」

「…!」

風丸がこんな風に声を荒げるのは珍しい。
一之瀬を呼びに行こうと立ち上がった土門は目を丸くして風丸を見つめる。

道を歩く数人の通行人も突然、怒鳴った風丸に視線を向けた。


「風丸…?どうかしたのか?お前、何かおかしいぞ」

土門が心配して風丸の表情を窺う。
風丸は土門の腕を掴んで軽く引く。


「頼む…何も言わずに付いてきてくれないか?そうじゃないと…俺」

「……」

風丸の必死な言動に土門は一度、一之瀬がいるはずの店内へと目を向けた。


「…分かった」

ややあって土門が頷くと、風丸はあからさまにホッとした表情になり「その前に会わせたい人がいる」と言った。

「会わせたい人…?」



「初めまして…土門飛鳥くん」

「…っ」

いつの間にか、風丸の後ろには青年が立っていて土門に笑顔を向けていた。

「僕の名前はカイ…少しだけ、お話出来るかな?」









それから暫くして、一之瀬が店から出てきた。

「土門、待たせてごめ…あれ?」

土門がいるはずのベンチには誰も居なかった。
ただ、土門が置いた荷物はそのままで…土門だけが初めからいなかったかのようだ。


「土門…?」

一之瀬は辺りをキョロキョロて見回した後に軽く顔を顰る。

「荷物を放り出して何も言わずに勝手にいなくなるなんて…」


とりあえず下手に動き回らない方が良いだろうと、一之瀬は土門が座っていたベンチに座って土門を待つ事にした。


しかし、



土門がその場所に戻ってくる事はなかった…。




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