「…何してんだ?」

「んー」

縁側に座って身体をゆっくりと左右に揺らしている緑川を見つけ、晴矢は怪しい人物を見るかのような表情で声をかけた。

「別に何も…」

「…ふぅん」

数秒、背中に合わせて揺れる緑川の結われた髪を見ていたが何を思ったのか、その隣に腰掛けた。

「…何」

「べっつにー?」

「あぁ、ソウ」

馬鹿にしたような晴矢の返答にムッとしたが、争う気にもならないので一度晴矢に向けていた視線を再び庭に戻す。

「………」

「………」

緑川は相変わらず左右に揺れ、晴矢は両手を後方について天井を見上げて動かない。

先に沈黙を破ったのは緑川だった。

「父さん…」

「あ?」

晴矢は両手を床から引きはがし、重心を前に移すと興味なさげに応えた。

「父さん…いつ帰ってくるのかなぁ?」

父さん、と言えばエイリアの…おひさま園の子供達にとっては一人だ。
晴矢は反射的に眉をひそめた。
考えたくなかった…でも、それは無理な話だろう。おひさま園の子供達は皆“父さん”が好きなのだ。それは砂木沼や風介だって同じ。もちろん晴矢も。

「…さぁな、結構やらかしてるからな。俺達が中学生の内は無理じゃないか?」

「…そっか」

「でも、一生会えない訳じゃないだろ。たまに瞳子が手紙持ってきてくれるし…って、揺れるのやめ。目ぇ回すぞ」

未だに左右に揺れていた緑川が自分の方に傾いた時に肩に手を当て、動きを止める。

緑川は素直にピタッととまると、投げ出していた足を引き寄せて膝を抱えた。

そして今度はそのまま動かなくなった緑川に、晴矢は盛大に溜め息をついて立ち上がった。

「行くぞ!!」

「へ?」

突然の晴矢の言葉にキョトンとする緑川の腕を無理やり掴んで立たせた。

「痛いっ」

「良いから、来い」

立たされてしまっては、再び座り込むのも馬鹿らしくなって玄関の方へと向かう晴矢に渋々ながらもついていく。





「どこ行くの」

緑川の質問にも答えずに晴矢は黙々と歩く。
いい加減にムカついてきて帰ろうかと思っていた矢先、前を歩いていた晴矢が立ち止まる。

「?」

「ここ。夜になったら星が綺麗なんだ。夕方から夜になる瞬間の色も綺麗だ」

そこは円堂達が練習に使う河川敷のような場所で、グラウンドはなく川があるのみだが、確かにここから見る夕日や星は綺麗だろう。
だが、晴矢が自分をここに連れてきた意図が分からない…

緑川は困惑して晴矢を見る。

「今までさぁ…俺達、サッカーしかやってこなかったじゃん」

「うん」

それがどうしたのか、緑川は晴矢の続く言葉を待った。

「何か子供らしく遊んだ記憶とかあんまりないんだよなぁ」

晴矢はまた数歩歩いてクルリと振り返る。


「だからさ、これからは色んな所に行こうぜ。遊園地も動物園も映画も…今まで行ったことのない所にだって!!楽しみだな」

「…………」

「ほら、こういう時はなんて言うんだ?得意だろ?」

晴矢がニヤッと笑うのを見て、緑川はここに来て初めてふっと微笑んだ。





「そうだな。こういう時、地球にはこんな言葉がある……


“冬来たりなば、春遠からじ”ってね」












━ よし、帰るか

━ 今日は誰が食事作るんだっけ

━ あ……風介だ

━ …………胃薬あったっけ

━ つか、どっかでメシ食って帰らね?

━ 怒られるよ…



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