げに恐ろしきはイタリア男…


「おはよう、ハニー。今日もすっごく可愛いね!!見る度に俺はその可憐さに驚かされるよ。ほら、ご覧。君の可愛さに太陽も負けを認めて雲に隠れてしまったよ。でも、この曇り空でさえ君の魅力を隠す事は出来なかったみたいだね。だって、俺はどんな場所に居たって君を見付けられるんだもの」


信じられるか…?
これ、一息で言うんだぜ?


しかも…、



「やぁ、初めましてかな?君と出会えたこの瞬間、俺は今日一日の幸運を使い果たしてしまったに違いない。でも良いんだよ、むしろ嬉しいな。この奇跡に感謝して、俺は明日の練習試合では絶対にシュートを決めてみせるよ。そのシュートは君に捧げても良いかい?」


恋人でも何でもない、不特定多数の女相手にな!!








「お前…よくもそんなに口が回るな。っていうか、話し掛けてきた女全員にソレやってんのか?」

「え、普通じゃないかなぁ?可愛い女の子を褒めないのは失礼だよ」

「…そうか」



フィディオとイタリアエリア内を歩いていると、よく声をかけられる。

大抵は女の子で、憧れの白い流星と少しでもお近づきになりたいかららしい。


フィディオがその女の子達に口説き文句みたいなのを言う度に、複雑な気持ちになる。

だって、俺達って一応付き合ってる…んだよな?
フィディオは俺に「好きだ」と言ってくれるし、その…キス、だってしてくれる。


でも、あんな風にベタ褒めみたいに口説かれた事はない。いや、口説いてほしい訳じゃないけど…もう惚れてるし。

でも…何だかなぁ、


フィディオに声をかけてくる女全員に「コイツは俺のだから話しかけんな」と言ってやりたい。



「佐久間くん…どうかしたの?」

「え?」

「難しい顔して黙ってるから」

「あぁ、いや…ちょっとサッカーの事を考えてて」

そう言うと、フィディオはホッとした様に微笑んだ。

「良かった…俺と一緒にいるのがつまらないのかと思った」

「そんな事…ない」

つまらないとは思わない…ただ、嫉妬してしまうから、それが嫌なだけだ。


並んで歩いていた足を止める。数歩先に行ったフィディオが気付いて振り返る。


「どうかした?」

「………帰る」

「え?」

フィディオが何か言いかけたが、その前に背を向けて走った。

後ろから俺の名前を呼ぶのが聞こえたが無視。
もう、自分が何をしてるのかも分からない。






バスで日本エリアに着いて、宿舎まで全力で走った。

俺…何してるんだろう?
知らない。こんな感情知らない…知りたくない。



「…佐久間?」

宿舎の門に着いたのは良いけど、中に入らずに立ち尽くしてたら声をかけられた。
視線を向けると鬼道が眉根を寄せてこちらを見ていた。


「どうしたんだ?今日はイタリアエリアに遊びに行くと言っていたが…帰ってくるのが早いな」

「ぉ…れ、分からない」

「…?」

鬼道は首を傾げたが「とりあえず、中に入ろう」と促す。
それに頷いて、鬼道に続いた。




「ほら」

俺の部屋に来て、鬼道は一度部屋を出たが暫くして飲み物を持って持ってきた。
走ってきたから、喉が渇いていた事に今更気付く。


冷たいお茶を一気に飲み干す。
張り付いていたかのような喉が潤い、息をつくと無言だった鬼道が静かに言った。

「話して楽になるような事なら、聞くが?」


無理強いする訳でもないその口調に、俺は何もかもをぶちまけたくて…今までの事を全部話した。

フィディオとの事を人に話すのは初めてだ。



「そうか…」

鬼道は一言そう言って頷くと、苦笑する。


「フィディオは…恐らくこれからもお前に対する美辞麗句は言えないと思うぞ」

「何で?俺に…魅力がないから?」

「違う……そうだな、例えば俺ならお前を褒めちぎる事ができる」

「へ?」

「佐久間。お前は見た目はそれはもう綺麗な部類に入るのは間違いない。そのサラサラな髪質も羨ましいくらいだな。それにサッカーをしてる時のお前の笑顔は本当に楽しそうで、見ているこちらが楽しくなる。それから…」

「ちょっ、ストップストップ!!恥ずかしいからやめろ!!」

慌てて鬼道を止めると、鬼道は「ふっ…」と笑う。

「そうか……だが、俺は恥ずかしくない」

「…?」

「フィディオに自分の事をどう思ってるか聞いてみろ。そしたら分かる」

「?」


結局、鬼道はそれだけ言うと部屋を出ていってしまった。
フィディオに俺の事をどう思ってるか聞くって…、

その時、突然鳴り出した携帯にビクリと震える。フィディオからの着信だった。

気まずい…けど、取らなかったらこのまま終わってしまいそうな気がして、


「……はい」

『佐久間くんっ?今どこ?』

「…日本宿舎」

『すぐ行く』

返事する前に切れた。どうしよう…。
逃げたら…駄目だよな、やっぱり。




暫くしてフィディオが来た。
部屋に通したが、お互いに無言。どうしよ、俺が悪いんだけど何て言ったら良いか分からない。
すると、フィディオの方が先に口を開いた。


「佐久間くん…あの、俺…何かしたかな?」

「…してない」

そう…何もしてないんだ。

「俺…フィディオに女の子みたいに扱ってほしいとか思った事ない」

「うん…?」

フィディオがよく分からない、という感じな表情を浮かべる。
でも、俺はそのまま続けた。

「でも…フィディオが色々な女の子を褒めまくるのが悔しい」

「……え?」

「俺の事は……あんなに言ってくれないのに」

「佐久間くん?それって…」


あぁ、嫉妬だよ!!
悪いか!!


「俺の事どう思ってるの?」

鬼道に言われた通りに聞いてみた。そしたら何故かフィディオが真っ赤になる……何で?


「え?えっと…もちろん好きだよ!!でも、この気持ちをどう表したら良いか……女の子相手だと、在り来りな褒め言葉もすぐに浮かぶし、普通に言えるけど…佐久間くんは…その」

必死に言葉を探すフィディオを見て鬼道の言った言葉を思い出す。



「もしかして……俺が相手だと恥ずかしい?」


ボンッ、
って音が聞こえた気がした。茹蛸のような…ってこんな時に使うんだな。


「そっ…な……えっと、照れる…というか、何と言うか」

「一緒じゃん」

「…っ」


何だこれ。俺が馬鹿みたいじゃん。

ただ、単にフィディオは俺にめちゃくちゃ惚れてるってだけじゃないか。
うわぁ、どこのバカップルだよ…恥ずかしい。



「フィディオ…」

「な、何…?」







「俺、そんなお前が大好きだ」

「!!?」



口説き上手なイタリア男も、

本命相手には口が回らないようです…。



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