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〇月×日 晴れ、所により雷
今日は佐久間先輩の機嫌が悪
い。
その被害を被るのはやっぱり
辺見先輩で…あぁっ、もう先
輩可愛いなぁ。そのデコを殴
りたくなるくらい可愛い…。
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「雷門とか爆発しろ」
「行きなり不穏な発言するなよ」
ベンチに座って、某燃え尽きたボクサーの様な態勢で低く唸る佐久間先輩に辺見先輩は律儀に言葉を返す。
そこで無視すれば被害を抑えられるのに、馬鹿だなぁ。
「何で鬼道さんが雷門に転校しなきゃいけなかったんだよおぉっ!!お前か!!お前のせいか!!」
「な訳あるか!!しいて言うなら世宇子のせいだな」
「…ちょっと神ぶっ殺してくる」
「その神にフルボッコされたの誰だよ」
「そうか、まずはお前からだな?」
「ごめんなさい」
持ち込んだおやつをもぐもぐ食べながら、二人を見る。
あー。ブラックサンダーうめぇ…
辺見先輩も佐久間先輩の言葉にいちいち反応するから、虐められるって何で気付かないかなぁ…Mなのかなぁ。
あー、たけのこの里うめぇ…
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〇月×日 雨、所により曇り
今日は辺見先輩がお気に入り
の新しいタオルを泥水に落と
して駄目にしてしまったらし
く、源田先輩に慰められてい
た。
雨の日に持ち歩かなければ良
いのに。
あぁ、雨だから持つのか…変
な所で乙女だなぁ。
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「そんなに落ち込むなよ…新しいの買えば良いだろ?」
「買ったばかりだったのに…気持ち良い生地だったのに」
寮の食堂で机にへばり付く辺見先輩に、源田先輩は困った様子で言う。
「元気出せよ。何か奢ってやるから」
餌付けはやめてください。
「…杏仁豆腐」
顔を上げないまま辺見先輩が答えると、源田先輩は「お前、それ好きだな」と苦笑しながら食券を買いに行く。
ふーん、杏仁豆腐が好きなのか。
源田先輩が離れると、辺見先輩は顔を上げて若干期待した表情で源田先輩の姿を追った。
…そんな眼で他の奴見ないでください。
あー、杏仁豆腐ぶっかけたい。
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〇月×日 晴れ、所により霧
今日の部活は午前中だけ。
休日だし、どこか出かけよう
かと自室から出たら寮内のロ
ビー兼談話スペースで辺見先
輩が読書しているのを発見。
何の本を読んでるのかと近付
いたら、普通にサッカー雑誌
だった。
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「………」
コーヒーはミルクたっぷりの奴だ…苦いの嫌いだっけ。
俺は先輩の向かいに座って、観察を続ける。先輩は俺に気付いているのかいないのか分からないけど、難しい表情で雑誌のページをめくっている。
あの雑誌、そんなに興味深いのだろうか…。
自販機で買ったオレンジジュースを飲みながら、ふと考える。
好きなものを知るのも良いけど、先輩が嫌いなものってなんだろう?
苦手なものとか見せるとやっぱり嫌がるんだろうなぁ…可愛いなぁ、
「何してるんだ?」
「え?」
突然話し掛けられて、不覚にもびっくりしてシャーペン落とした。
「お前…最近よくノートに何か書き込んでるな?」
「実はこれ、デスノートなんです」
「お前は今までどれだけの人間をそんな笑顔で殺してきたんだ」
「え、俺…今笑ってました?」
先輩の言葉に少し驚いた。
やだわー、恥ずかしい。
「好物を目の前にした子供みたいだったぞ」
「あながち間違ってないですねー、これは観察日記です」
落としたシャーペンを拾って、ノートを閉じる。
「観察日記?ペットか?」
「ペット…まぁ、ペットみたいなものです」
「寮は基本的にペット禁止だろう」
「まだ飼ってないですよ、今から飼うんです」
「はぁ?」
先輩は理解不能と顔に書いてあるかのように首を傾げる。
「実際に飼う前に観察をですね…」
「あぁ、確かにペットを飼う時はちゃんと考えて飼わないとな」
「そうですね」
いずれ貴方は俺のものになるから…、
「…覚悟しててくださいね?」
「え、俺に迷惑かける前提のペットなの?」
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〇月×日 桜前線、未だ来ず
辺見先輩は今日も佐久間先輩
にどつかれ、源田先輩に慰め
られ、時々サッカーの勉強を
しては鬼道さんに連絡して情
報交換してるみたい。
そろそろ、この観察日記にも
春が来ていい頃。
春が来たら観察日記も終わる
のだけど…春は鈍感すぎて気
付きません。
あぁ…ノートの残りページも
少なくなってきたので桜前線
には強制的においで願おうか
な。
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「辺見センパーイ」
「ん?」
「この前言ったペットなんですけど、やっと飼う事にしました♪」