「たまには裸の付き合いも必要だと思う」
「‥誰か警察呼んで」
「ちょ、やめろよ風丸!!変な意味じゃねぇって!!」
冷めた表情の風丸に“裸の付き合い”宣言をした綱海が慌てて弁解する。
「ほらっ、俺達ってあまり全員が集まってワイワイした事ないだろ?やっぱり仲間なら一度は風呂でも一緒に入って親睦を深めるべきだと思うんだ」
「楽しそうですねぇ、皆でお風呂」
「キャラバンにいた時に皆で入った事あるな」
「凄く楽しかったッス」
「ケッ‥何でお前らと親睦を深めなきゃなんねぇんだよ」
立向居、円堂、壁山などが乗り気なのに対して不動が心底嫌そうな顔をすると土方はニヤニヤと笑う。
「まぁまぁ、粗末なモン見られるのが嫌なのは分かるが」
「……あ?」
「…下品な」
鬼道が眉をひそめる側で吹雪が苦笑して不動を宥める。
「まぁまぁ…そんなに立派なモノをお持ちなら恥ずかしくないでしょ?」
「吹雪さん…」
「何のフォローにもなってないでヤンス」
虎丸と栗松が遠い目をしていると、円堂が「よし!!」と声を上げた。
「今日は皆で銭湯に行くぞ!!」
「忘れ物は…ないよな?」
自室に戻った緑川は準備した荷物を何度も見返す。自分でも顔が緩んでるのが分かるくらい楽しみだ。
「皆でお風呂…うんうん、楽しそう」
元より、友達と騒ぐのが好きな性格だ。
今は日本代表としての自覚を第一にと考えてきた為に、皆との交流は控えめにしてきたつもりだ。
「それでなくても、元レーゼだしなぁ…」
己の意思でなかったとはいえ、敵だった自分を迎え入れてくれただけでも緑川は円堂達に感謝していた。
「へへ…」
おひさま園以外で出来た新しい友達の事を考えていた時、扉がノックされる音に現実に戻される。
「はぁい……ヒロト?」
扉を開けると、ヒロトがニコッと微笑む。
「準備出来た?円堂くんがそろそろ行こうって」
「うん」
「………」
「…?何?」
ジッと自分を見つめてくるヒロトに緑川が首を傾げれば、ヒロトはクスッと笑う。
「嬉しそうだね」
「え…あっ、べ、別に楽しみにしてる訳じゃ…」
何だか子供っぽいと馬鹿にされたようで、緑川が言い訳の様に慌てて言うとヒロトは更に笑う。
「俺は楽しみだよ」
「え、そうなの?」
意外だというように目を丸くして、間抜けた声を出してしまう。
ヒロトは頷き「でも…」と、部屋の中に入り扉を閉めると妖しく笑う。
「それと同じくらい心配」
「何が?」
「誰かが緑川の裸を見て欲情なんてしないかなぁ…と」
「なっ…ばっ、馬鹿!!するわけないだろ!!」
「俺はするけど」
「…っ」
顔を赤くして警戒心を露に思わず後ずさる緑川に、離れた分だけ近付く。
「ふ…風呂場で変な事したら嫌いになるからな」
「それは困る…じゃあ、ここでさせて?」
「は?何……んっ」
腕を引かれ、キスをされると緑川は一瞬呆けた後にヒロトを殴りつけた。
「痛いよ」
「うるさい!!」
「…お風呂の前にのぼせちゃったね?」
「〜〜〜っ!!」
「ヒロトっ!!緑川っ!!遅い!!!」
緑川が言葉に詰まっている所に、二人が来ない事に痺れを切らした円堂が乱入してきた。
「ごめんごめん、今行くよ」
ヒロトがにこやかに言うのを、ギリッと睨みつけて緑川は荷物を乱暴に取る。
「ほらっ、行くよ!!」
「緑川、何か怒ってんのか?」
「照れてるんだよ」
「?」
「うわぁ、広いですねー」
「滑って転んで恥ずかしい思いしないようにね…うっしっしっしっ」
「…ここで悪戯はやめろよ」
「うっ…わ、分かってるよ」
何か企んでいたであろう小暮は、飛鷹に静かに釘をさされて逃げるように壁山の所へと向かった。
「おやぁ、誰かと思えば鬼道クン…ゴーグルじゃないから誰か分からなかったぜ」
「お前はいちいちうるさい」
「因みに不動くん、どれほどのモノをお持ちなの?」
「なっ…おまっ、馬鹿かっ!!」
「おっ、何だ何だ?」
「不動が拝ませてくれるってか?」
吹雪の黒い笑顔にからかわれ、面白がった土方や綱海までやってきた。
「…子供だな」
「他人の振りだ、他人の振り」
鬼道と豪炎寺は顔を背けて、身体を洗い始める。
「なぁ、風丸…」
「ん?」
「ちょっと斜め向こう向いて」
「は?」
先に身体を洗い終わって、お湯に浸かっていた円堂と風丸。
風丸は訝しがりながらも、円堂の言う通りに身体を傾けた。
「あー、良い…OK。イケる」
「 な に が ? 」
「ちょっ…水跳ねるッス!!」
「うっしっしっしっ」
「やっ、やめるでヤンス〜」
「小暮さんっ、おとなしくしてくださいっ」
「楽しそうだねぇ」
「良いなぁ、こんな感じ好きだ」
「背中、流すよ」
「あ、ありがとう」
おとなしくヒロトに背中を向けた緑川だったが「変な事したら二度と口きかない」と言うのも忘れなかった。
ヒロトは「分かってるって」と、苦笑で返して真面目に緑川の背中を洗い流す。
「今度さぁ…砂木沼達も誘おうか」
「え?」
「俺達もさ、仲間だったけど…上下関係あったし、サッカーばかりの毎日だったし」
「…うん」
「晴矢と風介も…今度はおひさま園の皆と来よう」
「うん」
背中を優しく撫でるヒロトの温もりを感じながら、緑川は笑う。
もう無理する必要はない。仲間なのだから。
チームは違うし学校も違う。育った環境も違う。
それでも仲間なのだから…綱海ではないが、裸の付き合いというのもたまには良い。
「あぁ、でも…」
ヒロトは緑川の背中にお湯を流して小さく囁く。
「ベッドの上での裸のお付き合いは俺だけにしてね?」