大丈夫だよ…
僕が君の力になる
Act.3 一人じゃない
円堂達はカイの指示に従って、とあるホテルに宿泊していた。
仲間が集まるまでは共に行動した方が良いというカイの言葉に円堂は内心、面倒だと思いながらも文句は言わなかった。
一緒に行動した方が便利な事もあるからだ…。
「ん……ぁっ」
円堂の部屋に呼び出されていた風丸は、円堂から与えられる快楽に溺れていた。
軋むベッドの音が時折、意識を現実へと戻すがすぐに円堂によって引き戻される。
「風丸…チームワークは大事だぞ」
首筋にキスを落としながら言う円堂の言外の言葉に気付き、風丸は眉根を寄せる。
「吹雪は…嫌いだ」
「同じDFじゃないか」
「…でも、円堂が…吹雪ばかり……ぁ、んっ」
「まぁ、アイツはディフェンスだけじゃなくて点も決めてくれるしなぁ…」
「……っ、あっ…ゃ…」
黙り込む風丸の身体を撫でれば、すぐに声を上げるのにクスクスと笑い、その耳元へと唇を寄せた。
「じゃあさ…お前に頼みがあるんだけど」
「頼み…?」
「そう。お前にしか頼めない」
「俺にしか…」
その言葉は風丸にとって大切な意味を持っていた。
自分だけが円堂の力になれる…円堂は自分を頼ってくれる。
「やってくれるよな…?」
見下ろす位置にある風丸の頬を両手で包み込むようにすれば、風丸は微笑む。
「…やる」
「…聞き分けのいい子は好きだぜ」
深いキスを与えて再び風丸から思考を奪う。
風丸が円堂の言葉に逆らう事はない。そうと分かっていて円堂は楽しんでいる。
他のチームメイトはそれぞれの考えで動くが、風丸は円堂の為だけに動く。こんなに扱い易い奴はいない。
「ぁ…っ」
「今は気持ち良くしてやるから…」
「んぁっ…はっ…」
「…………」
風丸は自室へと向かっていた。
円堂の“頼み”について考えながら…、
円堂はどうして“アイツ”を…?
「あれ、風丸くん?」
「……」
吹雪に声をかけられ、今までその存在に気付かなかった事に対して腹が立ったが、表情には出さない。
「どこか行ってたの?……あ、キャプテンの所だ?」
「…お前には関係ない」
吹雪の側を通り過ぎ、そのまま振り返る事なく歩を進めた。
吹雪はその後ろ姿を見て笑みを零す。
「怖いなぁ…あんなに睨む事ないのに」
風丸が自分の事をよく思っていない事は知っている。それでも、揶揄うのが楽しくて仕方ない。
ややあって、吹雪も風丸に背を向けて自室へと戻る事にした。
部屋に入り、ベッドに座る。足元を見つめながらふと考えた。
「余計な事にまで気を回して…足手まといにならなきゃ良いけど」
軽く床を足で2、3度叩く。そして小さな声で呟いた。
「でも、それは風丸くんだけに言えないよね……アツヤ?」
「………」
「…だんまり?」
「…あのカイとか言う奴は嫌いだ」
「だから、立向居くんに余計な事言ったの?」
「兄貴は…今のままじゃ駄目だ」
「どうして?また二人でサッカーが出来るじゃない…完璧になれるよ?」
傍から見れば、一人で喋っているようにしか見えないが…吹雪は確かにアツヤと会話をしていた。
自分の中のアツヤと…
「完璧じゃなくても…サッカーは面白いだろ?」
「…どうしてそんな事言うの?」
「兄貴…」
「もう知らない!!」
無理やりアツヤの人格を心の奥へと押しやり、吹雪はバッと顔を上げた。
「やっぱり僕は、完璧に…ならなくちゃいけないんだ」