それからも円堂チームの猛攻は凄まじく、5点、10点と…雷門チームが1点も入れられないまま差は開いていくばかりだった。
「はぁ…っ、はっ…」
まだ前半だと言うのに体力の消耗も激しく、成す術もない。
鬼道が佐久間からボールを奪って上がる。すかさず成神が鬼道に付くと、鬼道は鼻で笑う。
「成神…お前ごときが俺を止められるとでも思っているのか?」
「…っ」
「イリュージョンボール!!」
鬼道は成神を難無く躱すと、センターから上がってきた晴矢にパスを回す。
飛鷹が向かってくるより早く晴矢のシュートが放たれた。
「アトミックフレア!!」
「くっ…!!」
立向居は何とか止めようとしたが、ボールはその手をすり抜けて激しくネットを揺らした。
そこで前半は終了し、得点は13対0と大きな差が付いている。
「クソッ…このままじゃ勝てねぇ」
「明らかに今までより身体能力が上がっている」
佐久間の言葉にアフロディはカイを見た。
「何か秘密があるのかもね…彼が何者か分からないのかい?」
「カイという名前以外は何も…」
立向居は首を横に振り、少し逡巡した後に「あの…」と再び口を開いた。
「吹雪さんが…」
「吹雪がどうかしたのか?」
吹雪の名前を出したが、また黙ってしまった立向居に染岡が先を促すと、視線を泳がせながら話す。
「吹雪さん…というより、アツヤさんの方なんですけど」
「あのFWの人格の事か」
「はい」
風介に頷き、先程あった事を話す。
それを聞いたメンバーは暫し黙る。
「つまり、FWの彼の方はあの青年の言いなりになっていないという事だね」
「しかし、本来の意識は吹雪士朗の方なのだろう?そちらの人格が今のままではどうにもならない」
「です…よね」
アフロディと風介の会話に立向居は俯く。
『助けてやってくれ』
と、アツヤはそう言っていた。何かしてあげられたら、助けてあげられたら…、
それが出来ない自分がもどかしい。
立向居は無意識に吹雪の方を見た。
すると、吹雪は立向居に気付いたようで目が合うとにこっと微笑まれる。
こうしていると普段の吹雪と変わらないのに…、
「どうかしたの?」
カイが吹雪に声をかける。吹雪は立向居から視線をカイに移すと小さく首を左右に振る。
「可愛いなぁ…って思って」
「可愛い?」
何の事を言っているのか分からずに首を傾げると、吹雪は暗い笑顔でクスクスと笑う。
「どうにもならない事なのに…どうにかしようと必死なのが、哀れで可愛い」
「…性格悪いね」
「君に言われたくないなぁ」
あくまでも穏やかに会話する二人に円堂は「どっちもどっちだろ」と、溜め息をついた。
「それより…どうせこの試合も勝つだろ?何かつまんないな」
円堂がぼやく様に言うと、カイは苦笑して前髪を軽くかき上げつつ言った。
「まだまだこれからなのに…ちゃんと人数を揃えてさ。色んなチームと、ずっとサッカーを続けるんだ……ずっと、ね」
「この…チームで」
辺見の呟きが聞こえたのか、カイは頷く。
「そう…僕達はずっと一緒だ。離れる事はない……ずっと仲間だ」
「…仲間、か」
円堂が『仲間』という言葉に僅かに反応を見せると、カイは円堂の顔を覗き込む。
「円堂くん……僕達が、君の“仲間”だよ」
いつ見ても深いカイの瞳を円堂はただ見つめる。
まるで、心の奥まで見透かされている様な気持ちになるので、円堂はカイの瞳があまり好きではなかった。
だが、引き付けられる何かがその瞳には宿っている。
やがて、
「あぁ……分かってる」
と、その“何か”から逃げる様に無理やり視線を逸らした。