※微裏注意






「寒い」

不動はマフラーを口元まで引き上げるとイライラとした表情で言う。隣を歩いていた源田はそんな不動に眉尻を下げて困った様子で言った。


「それなら、何も今日じゃなくても…部屋の暖房も壊れ…」

「ソレは俺が決める」

「……」


言葉の途中でばっさりと切り捨てられて源田は溜め息をついた。
元より、不動が源田の言う事を聞いた事など無いのだから今更目くじらを立てる程でもないのだが…、



コイツは本当に俺の事が好きなのだろうか、



不動と源田は一応“恋人同士”という間柄である。
最初の出会いこそ最悪なものであったが、今となってはあの衝撃的な出会いも良い思い出話に……なるだろうか。



源田は不動に見えないように困惑した表情を浮かべた。


何故、バナナ…


あの時、自分は何か不動の気に障るような事をしていただろうか。
源田がそんなどうでも良い事まで考え出した時、タイミングよく源田の家に到着した。






源田は普段、帝国の寮で生活をしているのだが土日に家に帰る事もある。
そんな源田の家は今日は両親不在という話を、何だったかは忘れたが会話の端に言ったのを不動が聞き逃すはずもなく「じゃあ、今日はお前の家に行くから」となったのだ。

そろそろテストも近いし、テスト勉強も兼ねて友達の家に泊まる。
というのは不動の言である。

まぁ、不動は勉強道具を持ってきているから勉強は本当にするつもりなのだろう。
見た目に反して真面目な奴だ。何気に予習復習などもやっているのを源田は知っている。


それも付き合い始めてから知った事。不動は自分の事を多くは語らないので、こちらから様々な面を見付けていくしかない。

一つずつ不動の事を知る度に源田は嬉しさを感じていた。




「とりあえず部屋に行こう。荷物を置いてから何か飲み物を入れてくる」

「ん」


二人は部屋に着くと同時に、ノートや教科書の重みから肩を解放させる。

勉強机とは別の小さなローテーブルを引っ張り出してきて組み立てる。
不動が軽く肩を回しながら座るのを見届けてから、源田は「飲み物持ってくる」と部屋を出た。




暫くして部屋に戻ると、机の上には不動の物だけでなく源田の勉強道具まで出されているのを見て、源田は思わず笑みを浮かべた。

不動は人から誤解を招きやすいが根は優しい。
もう少し言葉でも表せば良いのに、と思う。その不器用さが不動らしさと言ってしまえばそれまでなのだが。


源田は不動の向かい側に座ると、持ってきた二人のホットココアをお互いに邪魔にならない所に置く。

不動はチラリとマグカップに視線を向けるが、すぐにノートに視線を戻してペラペラとめくった。



「飲まないのか?」

寒いと文句を言っていた不動の為に温かい飲み物にしたのに、このままでは冷めてしまう。


「湯気がすげぇ」

「………」


確かに。エアコンが故障している為に暖房が効かない部屋は寒いし、すぐには冷めないようにと熱めに作ってきたのだが…、



猫舌、というヤツだろうか。


源田はココアを一口飲む。
熱いが、自分は我慢出来ない熱さじゃない。むしろ、このくらいが丁度良い。


また一つ不動の事を知る事が出来たのは良いが、悪い事をした。


「不動…」

「さっさと始めるぞ」


謝る前に勉強の号令をかけられてしまった。


「…分かった」

どうせ謝っても「何が」と返されるに違いない。源田は大人しく従う事にした。



文系の源田と理系の不動では、お互いに分からない事を教えられるので助かる。

少し時間が経つと、ココアも“熱い”から“暖かい”になり、不動もちびちびと飲み始める。


ふと、



カラン…、


不動が持っていたシャーペンを机に転がした。


「…不動?」

「ちょっと休憩…源田、こっち来いよ」

「…っ」

不動は自分の隣をポンポンと軽く叩く。


「不動、勉強…」

「俺がそっちに行くか?」

「……」



どうせ不動には逆らえない。それは源田に刷り込みの様に刻み込まれている。
不動から視線を逸らして小さく呟いた。




「少しだけ…だからな」

「“ちょっと休憩”だって」




源田がニヤリと笑う不動の側に近付く。手が届く距離に来た途端に不動は源田の腕を掴んで引き寄せた。

「うゎっ…」

体勢を崩した源田が不動に抱き着く形になり、赤面するその頬に唇を寄せる。


「冷たく…なってるな?」

座りっぱなしで、大して動かしていない身体は冷えていて…ソレでも不動の息遣いを直に感じると、すぐに体温が上がるのが分かる。


「ふ…ど…」

「少し、暖かくなろうぜ?」

不動の冷たい手が首筋を撫でビクリとなる。
そのまま誘われる様に口づけを交わした。




「んっ…ふ…」

「……はっ」


不動の激しいキスに息が上がる。キスに夢中になっていた源田は不動の手の動きに気付くのが遅れた。


「ひゃっ…」


突然、冷たい手がシャツの中に潜り込んできて肌を撫でる。


「ちょっ…待っ、やっ…ぁ…」


不動は確実に快感を与える動きで源田を翻弄する。真っ赤になる源田に対し、余裕で笑みを浮かべている。


「ぁ…待って、ちょっと…んっ……て、言った……」

「忘れた」

「なっ…」



文句を言う前に押し倒される。
服も剥ぎ取られ、さすがに抗議しようとした口も塞がれてしまった。


「んぁ…っ…ぅ…」

「まぁまぁ…気持ち良く暖かくなろうぜ?源田チャン♪」

「〜〜〜っ!!」










「………冷たい」

「………」

源田の地を這う様な声音に、不動は視線を逸らす。


源田は冷えてしまったココアのカップを持って、不動を睨みつけた。


「……一度にホットもアイスも楽しめて良かったじゃないか」

「…………」

「…………」


すっかり機嫌を損ねて何も言わなくなった源田に、不動はどうしたもんかと考える。




「だああぁっ!!もう、分かったよ!!俺が悪かったよ!!」

結局、謝る不動を一瞥してから源田は不満げに冷たいココアを啜った。




「レンジで温め直そ………お前はそのままだからな」

「………」


一時的に身体は暖まったものの、手に入れたのは恋人からの冷たい視線と冷たいココアだった…。





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