『好き』
こんな言葉を軽々しく言う奴は信用できない。
そう、例えば…
「好きだよ」
こんな奴
「あんたの“好き”程、信用できないものはない」
「どうして?」
ガゼル達とイナズマキャラバンの試合を見終わって、エイリアに戻ってきた。
フィールドでボールを適当に転がしてた俺の所に突然やってきたコイツが言った言葉にイラっとした。
「あんたさぁ…イナズマキャラバンのキャプテンをどう思う?」
「円堂くんの事?好きだよ」
「…あんたのチームメイトは?」
「ウルビダ達?もちろん好き」
「親父は」
「好きだよ?」
「…で、俺の事も」
「好き」
予想通りすぎる言葉にイライラが募る。
俺の機嫌が何故悪いのか分からないらしく、グランが首を傾げると私服姿のままの赤髪がサラリと流れた。
「そんな安売りの言葉は信用しない」
「安売り…?俺は好きなものは好きと言っているだけなんだけど」
本当に不思議そうな顔してやがんな。
俺はグランを一瞥して、その側を通りすぎる。
後ろでグランが振り返って俺を見た気配がしたが無視した。
自分の部屋に戻って溜め息。
俺はアイツの言葉も信用してないけど、俺自身の気持ちも信じられない。
自分でもよく分からないんだ。グランが色んな人に、物に「好きだ」と言う度に面白くないと感じる自分が分からない。
「ムカつく…」
「円堂くん達はどんどん強くなるね」
エイリアのフィールドに繋がる長い廊下。
グランが嬉しそうに話すのをガゼルが睨みつける。
「悠長に言っている場合か」
「だって、ガゼルだって円堂くん達に勝てなかったじゃない」
「…っ」
ガゼルの表情が怒りと屈辱に歪む。
どうしてコイツはわざわざ神経を逆なでするような事を言うかな。
ガゼルはもう一度、思い切りの睨みをグランに送ってからその場を離れた。
フィールドの方向に向かったからボールを蹴りにでも行ったんだろう。アイツはイライラするとボールと遊ぶから…。
「お前…わざとか?」
「何が?」
グランの胡散臭い笑顔が俺に向けられる。
「…何でもねぇ」
別に責められている訳でもないのに、居心地が悪くなってその笑顔から顔を背けた。
「ねぇ、バーン」
「…んだよ」
「好きだよ?」
…またか、
無言で睨むと、変わらずに笑顔のまま。
「お前、いい加減にソレやめろよ」
「あぁ…バーンは“好き”じゃ満足できないんだっけ」
「はぁ?」
会話が噛み合わない。何を言ってるんだコイツは。
「他の人と同じなのが嫌?それとも自覚したくないだけ?」
「…何が」
グランが一歩、俺に近付く。だから俺は一歩下がった。
背中に壁が当たるのが分かって、舌打ちする。
「じゃあさ…」
背中に意識がいった一瞬の隙にグランが耳元に唇を寄せて囁いてきた。
「愛してる」
「……っ!?」
自分でも嫌になるくらいカァッと顔が熱くなるのが分かった。
慌てて耳元をバッと抑えた俺を見て、身体を離したグランはクスクスと笑う。
「なっ…なん……あんた、何言って…」
「“好き”じゃバーンには伝わらないみたいだし?これからは“愛してる”にする」
グランは「ね?」と微笑む。
「バーンが俺の気持ちを信用してくれるまで……愛してるよ、晴矢」
「…っ」
「愛してる」
「やめろ…」
「今、何度目?何度言ったら信じてくれる?」
「………」
俺を見つめてくるグランの視線に耐えられなくて、俺の視線は足元だけを見つめる。
「これから俺は色んな“愛してる”を君にあげる…君から“もう、分かった”って言葉を聞くまで」
「………勝手にしろ」
「うん」
コイツが諦めるのが先か…俺が根負けするのが先か、
それまで、何度この言葉を聞く事になるんだろう。
「愛してるよ」