呆然とする立向居達は暫く言葉を発する事が出来なかった。
「どういう…事だよ」
やっと、染岡がそれだけ言うと立向居は少しだけ泣きそうな顔を伏せた。
「円堂さん…どうしちゃったんだろう」
「円堂くんは大好きなサッカーを続けたいだけなんだよ」
「!?」
返ってくる事はないと思っていた疑問に返答する者…立向居達が驚きを隠せずにいると、いつの間にそこに居たのか…見覚えのない青年が立っていた。
「貴方は…?」
「初めまして、僕はカイ…そうだなぁ、円堂くんのチームのマネージャーみたいなものかな?」
「!」
「どういう事だ…一体どうなってるんだ?円堂も吹雪もまるで人が変わったようだったぞ!!」
思わず染岡は一歩前に踏み出して、詰問するかのようにカイを睨みつけた。
飛鷹も何かを言う訳ではないが、カイを敵とみなしたのか鋭い視線を向ける。
「僕はただ円堂くん達の背中を押してあげただけ…ずっとサッカーを続けるんだ。負ける事もなく、仲間が離れていく事もない。ずっと一緒にいられるんだよ?素敵な事じゃない」
「………」
カイは自分が言っている事に何の疑いも持っていない様子で、まるで『空は青い』と当たり前の事を言う口調だ。
自分は正論を言っている。反論できるはずがない…という絶対の自信に満ち溢れていた。
「…おかしい、です」
「なに…?」
立向居が呟いた一言にカイの表情が僅かに変わる。
「負けたって、全力でやればそれは最高の試合です!!離れてたって、仲間である事には変わりません!!」
「…見解の相違だね」
カイは溜め息をつきながら軽く首を左右に振る。
「今は分かってもらわなくて良いよ…明日になれば分かるさ」
カイは今まで浮かべていた優しい笑みを暗いものへと一変させた。
「自分達がどれだけ無力かという事を…ね」
翌日。
雷門には立向居、染岡、飛鷹、成神、佐久間が居た。
「辺見が…そう言ったのか?」
染岡の問いに答えたのは成神ではなく、佐久間だった。
「成神が言うにはな。円堂がお前達に言った事を考えると、どうやら円堂と辺見は手を組んでいるらしいな」
「裏にはあのカイとかいう訳分からん奴が絡んでるはずだ」
「カイ……そいつが、辺見先輩を…」
成神は震える程強く拳を握り締めて搾り出すように吐き出した。
「絶対、許さない」
「成神…」
成神が人一倍辺見に懐いていたのが分かる佐久間は、何とも言い難い表情で成神を見つめる。
「おっ、ちゃんと居るじゃん」
「!!」
円堂の声に反応した面々。
円堂はその視線を受けるとニヤリと笑った。
「逃げ出さなかったんだなぁ…感心感心」
「…円堂さん」
「ふふっ…楽しみだなぁ」
「吹雪…」
円堂の傍に居る吹雪は本当に楽しそうにニコニコと笑っている。
一見すると、いつもの吹雪のようだが雰囲気はどこか暗い。
「辺見先輩…」
吹雪から少し離れた位置にいた辺見に気付いた成神がその名を呼ぶが、辺見がそれに反応する事はなかった。
「…!」
飛鷹が円堂の後方に注意を向ける。
「あぁ、そうだ…俺のチームを紹介しないとな」
円堂がそう言うと姿を表すメンバー達。
「!?」
鬼道、豪炎寺、風丸、晴矢…そしてカイ、
立向居達はそのメンバー達の顔を見て一瞬、言葉をなくした。
「鬼道…お前まで」
まさか鬼道まで居るとは思っていなかった佐久間が目を見開くと、鬼道は「ふっ…」と笑う。
「元々、俺はサッカーの頂点を目指していた…その俺がこのチームにいてもおかしくないだろう」
「なんせ俺達は最強のチームだからな」
晴矢が立向居達に見下した笑みを向けて言う。
「……ん?」
何かに気付いたらしい円堂が間延びした声を出す。
「お〜い、人数足りなくね?」
「え?」
吹雪は立向居達を1人ずつ指差しながら「1、2、3…」と数え、「本当だ」と不満げに言った。
「じゃあ、僕達から2人抜かなきゃ駄目?」
「俺は絶対出る」
「俺は…円堂の指示に従う」
「あはっ、じゃあ1人は風丸くんで良いね。もう1人は…」
「その必要はない」
「!?」
突然、この場に居た誰のものでもない声が発せられた。
「僕達がこちらのチームに入るよ」
全員の視線を受けたのは…、
「アフロディ!!それにガゼル!?」
染岡が二人の名を叫ぶと、二人は軽く頷く。
「力を貸すよ」
「どうやらウチのバカが迷惑をかけているらしいからな」
そう言った二人の視線は不敵な笑みを浮かべた晴矢へと向けられている。
晴矢は「面白ぇ…」と、更に笑みを深くした…。