俺の恋は始まった途端に終わった…。
「はぁ…」
「ねぇ、フィディオ」
「んー?」
「ウザい」
「ちょっ…酷い!!それが落ち込んでるチームメイトに言う言葉!?」
宿舎の談話室にて。
机に突っ伏していた俺は、天使の風貌で悪魔の口を持つアンジェロの容赦ない言葉をその身に受けていた。
「だって、フィディオってば溜め息ばかり。そんなに気になるなら早く行けば良いのに。女々しい。ウザい。暗いオーラが目障り」
「アンジェロ…俺の事嫌い?」
「……」
「あ、答えないんだ」
「次、日本エリア向けのバスは10分後」
「……分かったよ」
アンジェロに追い出される形で宿舎を出た俺は、バス停で今日何度目になるか分からない溜め息をついた。
宿舎を出る直前のマルコとジャンルカの同情の視線を思い出す。
同情するくらいなら助けてくれれば良いのに…薄情な奴ら。
なんて事を考えている内にバスが来たから乗り込む。どんどん変わっていく景色。
日本エリアには彼が…佐久間くんがいる。
チームKとの試合の時にマモルと一緒に俺達イタリア代表を救ってくれた。
うん……一目惚れだったんだ。あの時は自分の事よりチームの事を優先するべきだったから、彼とはろくに話も出来ないままに別れてしまった。
好きになっても、彼は日本人だしFFIが終わったら日本に帰ってしまう。
変に仲良くなっても別れる時の辛さが大きくなるだけだし…。
「…っていうか」
俺は日本エリアに着いてから重大な事実に気が付いた。
仲良くなる以前に日本エリアに来ても、会えるかどうかなんて分からないじゃないか。
まさか佐久間くんに会いに来たとかで日本の宿舎に行く訳にもいかないし…どこのストーカーだよ。
「…いや、ここに来た時点で充分ストーカーか?」
俺は腕を組んで「う〜ん」と唸る。
まぁ、良いか。日本エリアを散歩するだけでも…建物の造りとか面白いし。
そう思ってエリア内を歩いていたら…
居たよ
え、何これ奇跡?
お菓子をたくさん売っている店で、佐久間くんが商品を見ていた。
神様ありがとう
この前は練習の為に礼拝サボってすみませんでした。次は必ず行きます。
「……あれ?お前…フィディオ、だっけ?」
何か天使が話し掛けてきたよマンマ…
買い物を終えたらしい佐久間くんが俺に気付いて近付いてくる。
こんな形で会うとは思っていなかったから、どんな話をしたら良いのか…ぅわ、どうしよう
「何でお前が日本エリアに居るんだ?」
「君に会いに来たんだよ」
「は?」
「……」
「……」
しまったぁ!!
俺の馬鹿!!つい、いつもの癖で普通に女の子を口説く感じにしてしまった…
「やっ…違っ、今のは違う!!忘れ…っ」
「…ぶはっ」
佐久間くんが吹き出して笑う。
「何だよソレ、ナンパかよ」
ケラケラ笑う佐久間くん…これは良しとして良いのか?
というか、実際ナンパみたいなもんなんだけど…、
「えっと…そ、そうだね。ナンパだよ」
「そっか、そっか…じゃあ、デートしようぜ?」
「へ?」
「今日は午前中で練習終わって暇なんだ。時間あるなら付き合えよ」
「う、うん!!」
これは夢だろうか…
俺は今、佐久間くんとデートをしている。俺の隣を佐久間くんが歩いている。会話している。笑っている。うわあぁあ…
アンジェロが俺の心の叫びを聞いたなら、確実に「黙れ」と言うだろう。
それ程までに俺は心の中でテンパっていた。
「お前、飯食った?」
「いや、まだ…」
「んじゃ、飯にしよう…壁山に美味い蕎麦屋を教えてもらったんだ」
「ソバ……ジャパニーズパスタ?」
「そうそう、ジャパニーズパスタ。何かそう言うと格好良いな」
佐久間くんは軽く笑いながらその店に案内してくれた。
初めて食べるソバは凄く美味しかった。
何かソース(つゆ?とか言うらしい)に付けて食べるのは新鮮だ。
最初からソースが絡まってる訳じゃないんだな。
「蕎麦もなかなか美味いだろ?」
「あぁ…あ、そうだ。今度は佐久間くんがイタリアエリアに遊びにおいでよ。美味しいパスタのお店に連れていってあげる」
「え、マジで?行く行く」
うわぁ…どさくさに紛れて次のデート(?)の約束まで取り付けてしまった。
凄いぞ、俺。
ご飯を食べてから暫く日本エリアを案内してもらった。
イタリアと日本では町の雰囲気が全然違うから面白い。
時間はあっという間に過ぎて俺が帰らなきゃいけない時間になった。
「じゃあな、また連絡するよ」
「うん。待ってる」
良いな、この恋人みたいな会話。
バスに乗って遠ざかる佐久間くんに手を振ると、返してくれた。
今日一日で思った事は、
やっぱり俺は彼が好きだという事…。
すぐに別れなきゃいけないのに…気持ちは膨らむばかりだ。
ゲームだけじゃなくて、この気持ちもコントロール出来たら良いのに…、