帝国学園。そのフィールドで成神はひたすらボールをゴールに向けて蹴っていた。

「はぁ…はっ……クソッ!!」

思い切り蹴ったボールは大きく逸れてネットを揺らす事はなかった。
ギリッと奥歯を噛み締め、足元を見つめる。


「何で…追いかけなかったんだろう」

あの時、確かに辺見の様子がおかしい事には気付いていたはずなのに…

成神と別れてから辺見が姿を消した。
佐久間や源田も心当たりがないらしく、連絡もつかない。

最後に一緒に居たのが自分なのに、どうして…、

成神は力無く足を踏み出し、フィールドを後にする。ここに居ると、余計に考え込んでしまいそうだ。

寮に戻ってきた成神が自室に向かって歩いていると、向かい側からこちらに誰かが歩いてくる。

ふと、その人物の顔を見た成神はハッと息をのんだ。


「辺見先輩!!」

成神が辺見に駆け寄ると辺見は足を止めたが、成神を見るその目は暗く冷たい。

「先輩どこに行ってたんですか…っ?俺達みんな心配して…」

「お前らには関係ない」

「先輩…?」

辺見は成神の側を通りすぎ、そのまま立ち去ろうとする。成神は慌ててその腕を掴んだ。

「待っ…」

成神が制止の言葉を言うよりも早く辺見が腕を振り払った。

「…お前に何が分かる?」

「え?」

「俺はお前達とは違って、日本代表どころかネオジャパンにも選ばれなかった」

「……」

「何が俺達の…何が帝国サッカーだ!!あまっちょろいお仲間サッカーなんかもうたくさんなんだよ!!負ける事のない強いチームでい続ける事に意味があるんだ!!」

辺見は成神を睨みつけてそう怒鳴ると、背を向けて歩いていく。
成神は何も言えずにその背中を見つめる事しか出来ない。


何か言わなくちゃ…
先輩を止めなくちゃ…


そう思っていても、拒絶されるのが怖い。
どんどん離れていく背中。しかし、その背中がピタリと止まった。

「あぁ、そうだ…」

辺見が肩越しに振り返る。そして、見下すような笑みを浮かべて言う。

「明日…雷門に来いよ。本当に存在する価値のあるチームがどんなものか教えてやる」



「先輩…」

小さく…本当に小さく呟いた成神の声が辺見に届く事はなかった…。










同時刻、雷門のグラウンドにて。
立向居はボールを手に立ち尽くしていた。

「円堂さん…豪炎寺さん…」


あの日。
円堂と豪炎寺に別れを告げられた時。立向居は特に気にとめる事もなく二人を見送った。

何か急な用事を思い出したのだろう…その程度にしか考えていなかった。



『…あ、円堂さん!ボール…』

円堂の手からこぼれ落ちたボールを拾って円堂に声をかけたが、振り返る事もなく行ってしまった。

それが、立向居が見た二人の最後だった。
あれから二人は学校に来ていない。もちろん部活にも、




「何処に…行っちゃったんですか?」

「立向居」

呼ばれて振り返ると、染岡と飛鷹が立っていた。


「円堂達…どこに行ったのかまだ分からないのか?」

「…はい」



頷く立向居に飛鷹は俯き加減に話す。


「俺も…知り合いに当たってるんだが、何の手掛かりもない」

「そう…ですか」

「クソッ、アイツら一体何処に…」

「染岡さん!!」

「!!?」

立向居の叫びと共に、染岡は後ろからの気配に気付いて飛びのく。

直後に染岡の側を猛スピードですり抜けた何かが立向居へと向かってきた。
反射的に持っていたボールを落とし、ソレを受け止めるとそのまま数センチ程後ろに押しやられた。

ビリビリと震える腕で受け止めたのはサッカーボール。

そして、ソレを放ったのは、


「円堂さん!!」

「円堂!?」

「キャプテン…」


3人がそれぞれの呼び名で円堂を呼ぶと円堂は「ふっ…」と笑った。

「なぁ、サッカーやろうぜ?」

「おまっ…いきなり居なくなったと思ったら、戻ってきた途端に何言ってやがんだ!!」

染岡が怒りに任せて円堂に詰め寄ろうとした時、その場に合わない明るい声が響いた。


「あ、染岡くんもいたんだね!!」

「……吹雪?」

円堂の後方から現れたのは北海道に居るはずの吹雪。
無邪気に笑っているが、雰囲気がおかしい…それは円堂にも言える事だった。

いつもの円堂の明るさはなく、ただただ暗い笑顔だ。
吹雪は軽く小首を傾げながら笑みを深くする。


「楽しみだなぁ、また染岡くんとサッカーできるね?それで…」

吹雪はそこまで言うと一旦黙り、堪えきれないという風にクスクスと笑い出した。

「それで染岡くんが僕達との力の差に絶望する表情が見られるんだよね?」

「何…言ってるんだ?」

吹雪の言葉に染岡達は混乱し、円堂は「クックッ…」と笑う。

「駄目だろ吹雪、あまり虐めるなよ…勝負はサッカーで付けるもんだぜ」

「おい…円堂?どういう意味だ」

「円堂さん?」

円堂は立向居に向けて指を突き付けて宣言する。


「明日、俺のチームを連れてくる…まぁ、まだ人数が足りないからちゃんとした試合は出来ねぇけどお前らと遊んでやる」

「…?」


未だに理解出来ない様子の立向居達に説明するのも面倒臭くなったのか「とにかく明日。ゲームしようぜ」と言い残し円堂は立ち去る。
吹雪は「キャプテンの面倒臭がりやー」と、揶揄い気味に言った後、染岡達に「ばいばい。また明日ね」と笑顔で手を振って円堂の後を追った。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -