円堂の気配もなくなり、暫くした頃。
風丸は壁に背を預けたままズルズルと崩れ落ちた。
頬が熱い。まだ僅かに朱を帯びているだろう事が分かる。
「ふっ…ぅっ…」
頭を抱えて立てた膝に顔を伏せる。
やる瀬ない気持ちでいっぱいだった。自分は円堂の力になれなくては存在意義がない。
円堂にとっては利用価値のないものを自分の傍に置く必要などないのだ。
俺は…なんて、
こんなにも、俺は
「君は無力だね」
「!?」
バッと顔を上げると目の前にはカイが居た。全く気配などしなかったのに…いや、これ程近くまで近付かれ事に気付かない程に周りを気にする余裕がなかったのか…、
「…可哀相な子」
カイは風丸と同じ目線になるようにしゃがむと、涙に濡れたその頬を拭う。
「可哀相で…可愛い」
「……」
カイは優しい微笑みを浮かべているが、風丸はその微笑みが怖かった。
初めて会った時からずっと…カイの深い紺碧の瞳から極力避けるようにしていた。
しかし今はカイの両手で顔を包まれていた。覗き込んでくるその視線から逃れられない。
「君は弱いよ」
「…」
優しい笑顔で、優しい手つきで、優しい声で、残酷な言葉。
それが余計に、その言葉が真実なのだと告げていた。
「俺は…弱い……?」
「そう……ね、円堂くんの力になりたくない?」
「……」
「僕に任せて…君に力をあげる。円堂くんの傍にいられるよ?」
甘い誘惑…風丸は未だに不安が残る瞳でカイを見つめた。
「俺は…」
「さぁ…僕の目を見て……円堂くんが好きだよね?ずっと一緒にサッカーを続けたいよね?」
「……ぁ」
その瞳に…飲み込まれる。
瞬間、
何処か遠くで、明るい声が響く…
『風丸っ、サッカーしようぜ!』
「えん……ど…」
やがて…その声も、
聴こえなくなった…。
北海道から吹雪を連れて東京へと戻ってきた円堂達は、カイに連れられて鉄塔広場へと向かっていた。
「鉄塔広場なんかに何しに行くんだ?まさか今更、特訓とか言わねぇよな」
円堂の言葉に吹雪がクスクスと笑う。
その瞳は暗く、馬鹿にしたその笑い方は普段の吹雪からは想像もつかない。
「キャプテンってば、まだまだなんじゃない?僕のシュートを5回に1度は取れないじゃない」
「あ?お前、あんま調子に乗んなよ」
「キャプテンこわぁい。そんなんじゃ、可愛い子ちゃんが逃げちゃうよ」
ニヤリと笑いながら視線を向けた先には、無言の風丸。
風丸はその視線を受けると吹雪を睨みつける。吹雪はその睨みにも臆する事なく相変わらずクスクスと笑う。
そんな3人に豪炎寺は溜め息をつき、知らぬふりをする。
「ちょっと、仲間割れはやめてよ…これから新しい仲間に会うんだから」
「…新しい仲間?」
カイの言葉に豪炎寺が眉をひそめる。
「そう…僕達がもっと強くなるために……ほら」
カイが頷き、示した先。
円堂が特訓に使っていたタイヤの傍に居たのは、
「鬼道…?」
円堂に名を呼ばれた鬼道は、不敵に口端を上げ…笑った。
「鬼道だけじゃないぜ」
「!」
声のした方に視線を向ければ、
「バーン…それに、辺見?」
「皆ね、サッカーが大好きなんだよ…だから皆で楽しくサッカーをやろう?」
鬼道達3人を背にして円堂達に向き合ったカイは両手を広げて微笑む。
「……仲間はまだまだ増えるし、ね」