悪天候の為に東京へ向かう飛行機が欠航になってしまった。
その為、円堂達はホテルに宿泊する事になった。
それぞれに個室を与えられて身体休めていたが、風丸はベッドに腰掛けて足元の一点を見つめていた。
「俺は…間違っていない」
円堂についていくと決めた。
円堂は俺を救ってくれた…エイリア石の力に頼って闇に堕ちた俺を円堂は救ってくれたんだ。
今度は俺が…
でも…
風丸は拳をグッと握り締めて、額に当てる。その瞳は固く閉じられていて窺う事は出来ない…。
俺には…そんな力はないよ、円堂
「だから…」
スッと身体から力を抜き、立ち上がる。
窓辺に立ち、カーテンを軽く引くと外の様子が分かる。
辺りは深い闇に包まれ、強い風に微かに窓が揺れている。
「俺は…お前と一緒に堕ちるよ」
ゴメンな…
助けてあげられなくて…ゴメンな
だから、せめて一緒に
━ コンコンッ
「……」
来訪者を告げるノックの音。
風丸が扉を開けると外にいた人物、円堂が笑った。
「円堂…どこに行くんだ?」
円堂は風丸に「ついて来い」とだけ言うと、風丸がそれに従う事を拒む事などないと分かっているかのように、返事を聞く前にスタスタと歩き出した。
風丸は慌ててその後を追ったが、円堂が何処に行くのか分からない。
円堂が無言のまま風丸を連れてきたのは人気のない非常階段の裏側だった。
「円堂?どうし……痛っ!!」
突然、風丸の腕を掴んだ円堂はその腕を思い切り引いて風丸の身体を壁に叩き付けた。
「何…」
━ バンッ
風丸の言葉は円堂が風丸の顔の横に手を付いた音に掻き消された。
あまりにも強い力と音に思わずビクリと震える。
「…風丸」
「…っ」
低い…冷たい声。
円堂もそんな声音を出す事が出来たのか、
何故か、そんなどうでも良い事を考えてしまった風丸の頬を円堂が撫でる。
「円堂…?」
声は冷たいのにその手は暖かく、優しい。
風丸が困惑した表情を円堂に向けると、円堂は暗く微笑んだ。
「俺は……弱い奴はいらない」
「…っ!!」
「敵に情けをかけるな…弱い奴が強い力の餌食になるのは当たり前だろ?」
まるで子供をあやすような口調で風丸の頬や髪を撫でながら言う。
「円堂…俺は……んっ」
風丸が目を見開く。己の唇に当たっているのは間違いなく円堂のソレだ。
「なに…んぅっ…ふ…ぁ」
段々と激しくなり、口内を円堂の舌が刺激する度に強制的に快感を与えられる。
いつしか風丸の手は円堂の服を握り締めていた。更なる刺激を求めるかのようなその反応に、円堂は長いキスをやめると両手で風丸の顔をやや上向かせた。
「俺の言ってること…分かるよな?」
上気した頬に、荒くなった息。風丸はただ頷く事しか出来なかった。
「…いい子だ」
円堂はもう一度、触れるだけのキスを落とすと風丸から離れる。
「…次はないぞ」
そう言い残して、円堂は背を向けた。
離れていくその背中を見る勇気は、風丸にはなかった。