そして彼が怪しく笑うの続き

※微裏注意





辺見は寝不足だった。
その覇気のない顔に佐久間から「辛気臭いから近寄るな」と言われるほど。

何故、辺見がそのような自体に陥っているのかというと答えは抱きまくらにある。


以前、辺見の抱きまくら、佐久間のペンギンのぬいぐるみ、源田のクッションが無くなるという…ちょっとした事件が発生した。

しかし、ソレはすぐに解決して無くなったものは持ち主の所へ戻ってきた。


辺見の抱きまくら以外は。



「どこに行ったんだろ…」

夜、辺見はベッドの上でゴロゴロと落ち着きなく動きながら独り言を呟いていた。

「新しいの買うか…いや、でもアレも買ったばかりだったんだよな。結構気に入ってたのに」

試しに布団をギュッと抱いてみるが、やはり落ち着かない。
というか、これでは布団を被る事が出来ない。


「ん〜」


難しい顔で再びゴロゴロし始めた時、辺見の携帯が鳴る。
ベッドサイドに置いてた携帯に手を伸ばして開く。


「…成神?」

携帯のディスプレイは成神からの着信を教えている。
メールではなく、電話をかけてくるのは珍しい。何か急ぎの用事だろうか…、


「もしもし?」

『あ、こんばんはー』

俯せの状態で通話ボタンを押して、そのまま対応すると成神の呑気な声が耳に届いた。

「どうかしたのか?」

『いやぁ、辺見先輩が最近眠れてないみたいなので』

「は?」

心配してくれてるのか、それは有り難いが原因は分かっているので別に相談することでもない。

辺見がそう伝えようとした時だ、


『辺見先輩の抱きまくら、実は俺が持ってるんですよね』

「はぁっ!?」

思わず、ガバッと起き上がる。
その間にも成神からの言葉は続いていた。

『何か返しそびれちゃって』

「…何でお前が持っているかとか、そんなのはこの際どうでも良い。とりあえず今から取りに行く。ついでに殴らせろ」

辺見はそう言いながらベッドを下りて部屋の扉に手をかけた。

『その必要はありませんよ』

「は?何言っ…」

━ ガチャッ

「俺が来ちゃいましたから」

ピッと、目の前に立っていた成神が携帯を切ると、辺見の耳にはツー、ツー、という機械音だけが残った。

「お邪魔しまーす」

固まっている辺見の横を摺り抜け、成神が部屋の中に入ってきた時に初めて我に返り、成神の後を追う。

「お前来たなら何で手ぶらなんだよ。勝手に部屋に入るな。つか、ベッドに座るな」

「先輩、色々と一気に言うのやめてくださいよ」

「お前が言わせてるんだよ」

成神の前に立って怒りの表情で見下ろすが、成神はニコニコとしている。

「抱きまくら…返して欲しいですか?」

「は?ふざけんな。俺のだろうが」

「そうですね、辺見先輩のです」

「じゃあ、俺に返すのは当たりま…ぅわっ」


突然、成神が辺見の腕を掴んで引き寄せる。
気付けば辺見は成神を見上げていた。成神の後ろに天井が見える…、


「…え?」

自分が置かれている体勢を理解する前に成神の手がシャツの中に入ってきて、その肌を撫でる。

「ぅおぁっ!!」

「…ちょっと、もう少し色っぽい声出してくださいよ」

「出せるか!!どけ!!」



成神を押し退けようとした手は両方とも捕まれて頭上で固定される。

「ちょっ…ま…お前、何してるんだ」

「…辺見先輩を襲っています」

「い、意味が…」

「分かりますよね」

「…っ」

いつもと違い、真剣な表情をするから…辺見は調子を狂わされる。

成神が自分に好意を寄せているらしい事は何となく気付いていたが、いつも冗談半分だったし、こんなに真剣な瞳で見つめられた事なんてない。

今まで意識していなかった事を急に突き付けられ、辺見は混乱していた。



「俺…結構、我慢してたんですよ?…辺見先輩には分からないでしょ?俺がどれだけ辺見先輩の事が好きか、そのせいでどれだけ苦しんでるか」

「苦しい…のか?」

「苦しいです…凄く。貴方の事を考えると苦しい」

「……」

そう言う成神の表情は本当に苦しそうで、見ているこちらも何だか苦しくなってしまう。

そして、その表情ばかり気にしていた為か、いつのまにか成神が近付いてきていたのにも気付かなかった。



「……んっ」

キスをされている事に気付いて反射的に抵抗するが、そのキスがあまりにも優しいものだったから…、
つい、力を抜いてしまった。すると、成神はすぐにキスをやめる。


「だから…汚い手だって分かってても利用しちゃうんですよ」

にこっと笑う成神を睨むと成神は更にクスクスと笑う。

「抱きまくらなんて抱かなくても、俺を抱きしめてれば良いじゃないですか」

「……お前、ふわふわしてない」

「……」

辺見の答えに、成神は一瞬固まった後に吹き出した。










「ぁっ…ん」

「色っぽい声、出るじゃないですか」

「だまっ…れ、ゃ…あっ」

肌を撫でられる度に、唇を落とされる度に辺見の口からは意思とは無関係に声が上がる。


「先輩…俺、もう……我慢しなくて良いですか?先輩の事、好きでいて良いですか?」

最後の確認だというかのように成神は辺見の顔を真正面から見て問う。
その表情には期待より大きな不安が表れていて、普段の成神とはあまりにもギャップがありすぎて辺見は思わず笑ってしまった。



「お前……“待て”は苦手だろ?」










「それなのに“お預け”なんて酷いです!!」

フィールド上に響き渡る成神の悲痛な声。
先日からずっとこの調子である。


「アホか!!俺の事を好きなのは勝手だが、俺がお前の事を好きになるかどうかは別問題だろ!!」

「酷い!!弄ばれた!!」

「どうでも良いから部活に集中してくれ…」


源田の嘆きは二人には届かない…。




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