「はぁっ…はっ…」

多くの選手がその表情に絶望の色を滲ませていた。

負傷した函田に代わり、白恋のGKには炭谷が入っているがその瞳には恐怖が浮かび、身体もガタガタと震えている。

対する円堂は本当にゴールを守る気持ちがあるのか、ゴールポストにもたれかかって腕を組み、退屈そうにしている。


15対0


開始から5分程しか経っていないのに、力の差は歴然だった。


「……っ」

「喜多海、もう一度だ!!」

FWの喜多海と氷上はボールを蹴り、円堂の居るゴールを目指す。
豪炎寺は動く事なく二人を通し、その馬鹿にしたような態度に氷上が舌打ちする。


「喜多海!!」

回ってきたボール。

決めなくちゃ…、

喜多海がボールを蹴ろうと足を振り上げた時、


「!?」

いつの間にか目の前には風丸が。

「…遅い」

風丸は難無くボールを奪い取り、そのまま上がる。


珠香や紺子が上がろうとするのを視界の端に捉えた吹雪が叫ぶ。

「駄目だ!!下がって!!」



「神風!!」

「きゃああああっ!!」


風神の舞よりも更に強い突風が風丸とその周囲に吹きすさぶ。

強風に吹き飛ばされた二人には目もくれず、風丸は真っ直ぐにゴールを目指す。

そんな風丸に吹雪は我が目を疑った。

「なんてこと…女の子なんだよ…っ!?」

「関係ない…フィールドに上がればただの選手だ」

「…っ!!スノーエンジェ…っ」

そして、風丸は吹雪のディフェンス技も凄まじい速さで躱わし、逆サイドから上がってきた豪炎寺へとパスを回す。


炭谷がハッとして構える。

だが、構えようが何をしようが豪炎寺には何の意味もない。まるでキーパーの存在など無いかのように平然とシュートを放つ。


「爆熱スクリュー!!」

「うわあぁっ!!」

ボールと共にネットに叩き付けられ、そのまま崩れ落ちた。


「16点目だなー」

逆のゴールポジションから円堂が呑気に声をかけてきた。
吹雪はそれに視線をやり、そしてゆっくりと周りを見る。



白恋の生徒達はボロボロだった。

傷だらけで、身体も震え、息も荒く、恐怖に怯えている。


「もう…やめて…」

吹雪は呟く。

「あー?何だって?聞こえないぞ」

円堂が馬鹿にしたように笑いながら言えば、吹雪は力一杯に叫んだ。


「もうやめてよ!!3人共おかしいよ!!どうしちゃったの!?どうしてこんな事するの!?」



「…君が欲しいからだよ」

「!?」

吹雪の問い掛けに答えたのは円堂でも豪炎寺でも風丸でもなく、カイだった。

カイはフィールドの中に入ってくると吹雪の前に立ち、穏やかな笑みを浮かべる。

「君の力が欲しいんだ」

「僕の…力?」


カイは両手で吹雪の頬を包み、その顔を覗き込む。

「サッカー…好きだよね?」

「……っ」

その紺碧の瞳に捕らえ、吹雪は言葉を無くす。

「僕…ぁ…れ……は」

「僕達と一緒に、堕ちよう?……“完璧に”さ」

「…!?」




 深い、深い…闇の底へ




「…………」




吹雪の瞳孔が一度、大きく開き…そして、その瞳からは光が消えた。




「…堕ちたな」

「あぁ」

「………」

円堂はニヤリと笑って言うのに対し、豪炎寺は頷いて返したが風丸だけは吹雪とカイから視線を逸らす。


チラリと視線を送った先には珠香と紺子。
喜多海と礼文の肩を借りて辛うじて立っているのがやっとのようだ。


「……」

円堂は風丸の視線の先に気付くと無言で風丸を見つめた。
その視線に気付いたのか、風丸がハッとして円堂を見る。


「…何だ」

「お前…」



「円堂くん、行こう」

何か言いかけた時、カイに呼ばれたために円堂は口を閉じた。


「…行くぞ」


風丸は黙って頷いた。





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