「…ったく、風介も照美も覚えてろよ」

ゲームに負け、罰としてお菓子や飲み物の買い出しを命じられた晴矢はコンビニの袋から自分用に買った飲み物を取り出した。

歩きながらキャップを開けて喉の奥へと流し込む。
強めの炭酸が喉に与える刺激が心地好い。




「南雲晴矢くん…」

「!」

自分の名前を呼ばれた気がして立ち止まる。
しかし、周りの喧騒は相変わらずで誰も晴矢を見てはいない。

「…?」

気のせいか、
晴矢は再び足を踏み出し、そしてすぐに止まる。


「………」

気のせいじゃない。
視線を感じる。誰かが自分を見ている。

「チッ…」

晴矢は舌打ちをして周りを見回す。
こういうネチネチとしたやり方は嫌いだ。用があるなら堂々と来い。喧嘩なら買ってやる。

瞬間、

「っ!」

バッと振り返る。
人々が行き交う通り道…数メートル程離れた場所に立つ青年。

案外近くに居たもんだ…と、晴矢はニヤリと笑う。

「何だお前?」

明らかに年上であろう者に対してこの態度。普通ならば咎めるべきだろうが青年はふわりと微笑んだ。



「サッカー……好き?」


「はぁ?……っ」



━ バシャッ!!



地面に落ちたペットボトルからはシュワシュワと音を立てながら液体が零れ、やがて止まった…。










辺見は迷っていた。

「んー、種類が増えてる」

部活で使うタオルを新調する為にスポーツショップを訪れていた。
自分のお気に入りのメーカーが出すタオルを購入するつもりで来たのだが、前回よりも種類が増えていて悩んでいた。

「こっちの青いのもいい…が、グレイも捨て難い」

変な所にこだわる辺見はかれこれ20分はウンウンと唸っていた。


「こっちの黒いのが良いよ」

「へ?」

突然、横から声が聞こえてきて驚きを隠せずに間抜けな声を出す。

声の主を確認すれば、優しげな青年が辺見に向かって微笑んでいた。


「はぁ…そうですか」

辺見が気のない返事をするのも気にせず、青年はニコニコと辺見の顔を覗き込むように身体を傾けた。

「…っ」

案外近くにまで迫ってきた整った顔に辺見は若干戸惑いながらのけ反る。

「…何ですか?」


「君、サッカー…好き?」

「………え?」



一瞬、
自分の名前を呼ぶ…あのうるさい後輩の声が聴こえた気がした…、







相変わらず日常は繰り返す。

学校に来て、授業を受けて、お昼を食べて、午後の授業は居眠りなんかして教師に怒られ、クラスメイトには笑われる。
そして部活が始まれば元気いっぱいに駆け回る。


けれど…


 “その時”は確実に近付いていた。





「円堂さん!!今日は染岡さんのシュートを止めましたよ!!」

「凄かったな立向居!!俺も負けてらんねぇな」

「いえ、俺はまだまだです。でもいつか円堂さんに追い付いてみせますから」

「頼もしいが…そこは『追い越す』くらい言ったらどうだ?」

円堂、豪炎寺、立向居は部活帰りに並んで歩いていた。円堂はいつも通りに手の中でボールを転がしている。

立向居の宣誓に豪炎寺が茶化すように言葉を投げ掛けると、立向居はぶんぶんと首を振った。

「越えるなんてそんな!!円堂さんは俺にとって、ずっと憧れの存在なんです!!」

「なはは、何か照れるなぁ」

円堂はがしがしと頭を掻き、笑う。
豪炎寺もふっ、と笑みを零し立向居もつられるように笑った…。



夕日が…

 辺りを照らし…




「………」

「………」

突然、円堂と豪炎寺から表情がなくなる。

「…どうしたんですか?」

立向居の問いに答えが返ってくる事もなく、円堂の手からボールが落ちた…、



━ トンッ……









「……っ」

「晴矢?」

「南雲くん?どうかしたの?」








「………」

「辺見先輩?」







「立向居…」

「はい?」






「風介…照美…」

「ん?」

「何だい?」







「…成神」

「何スかー?…何か先輩、変ですよ?」









  退屈な日常に…、






    「じゃあな」




   さ よ う な ら





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