その日の勝敗指示は雷門の負けだった。


冷たい雨に打たれながら、ただ立ち尽くす。
俺の側を相手チームのFWがすり抜けた…下手くそ。その程度のドリブルなら必殺技を使うまでもなく奪う事が出来る。

でも、俺はそうしなかった…そういう指示だったから。


その間も身体を打ち続ける雨はとても…








「南沢さん!」

「っ」

ハッと目を開くと、目の前には倉間の顔………目を開くと?
ややあって、頭が覚醒してきた。そうだ…ここは俺の部屋で、昨日は倉間が泊まりに来ていたのだ。


“あの日”は過去の出来事…


俺が起き上がる素振りを見せると、倉間はおとなしく身体を引いた。上半身だけ起き上がる。部屋はまだ暗く、朝日が昇るにはまだ早い時間だと告げている。
もっとも、窓を打つ雨の音から察するに朝日が昇ったところで大した明るさは望めないだろうが…


「南沢さん…」

カーテンに覆われた窓に視線を向けていると、倉間が戸惑いがちに俺の名前を呼んだ。

視線を倉間に向けると倉間は一瞬だけ目を泳がせてから着ていた長袖を軽く引っ張って袖口を掴むと、そのまま俺の頬を撫でた。

そこで初めて気付いた己の頬を伝うもの。


「雨が」

無意識に言葉を紡ぐ。


「雨が…冷たかったんだ」

「はい」

今度は反対側の頬も撫でられる。

「でも、頬に流れた雨は熱かった」

「はい」

抱き締められて、倉間の胸に頭を預けた。
相変わらず窓を打つ雨の音の中に、倉間の心音が足される。


「誰にも気付かれなかった…と、思う」

「……」

今度は返事が返ってこなかった。
代わりに、抱き締める腕に力がこもる。


「くらま…痛い」

「じゃあ、泣いたらどうですか?痛いって」

「倉間が力を入れるから」

「そうです。南沢さんは俺のせいで泣くんです」

「…そっか」

「はい」




あぁ、
これは雨なんかじゃない。







シャッ、と小気味良い音を立ててカーテンが引かれた。
途端に目を刺すような光の強さに思いきり顔をしかめた。


「南沢さん!朝です!すっげぇ良い天気!」

「うるさい。言われなくても分かる」


窓辺に立ち、昨夜の雨が嘘のように晴れ渡る空を目を細めて見上げた。

ずっと降り続けると思ったんだけどな…

昨夜の雨も、
あの日の雨も…、


「南沢さん」

呼ばれて振り返ると、目の前に迫ったボール。反射的に受け止めた。

「…顔目掛けて投げるか、普通」

「ちゃんと取れたから良いじゃないですか。それよりサッカーやりましょう」

「はぁ?」

起きたばかりだというのに、何を言ってるんだ。

「だって、晴れたから」

倉間は普段からは想像もつかない程の優しい笑顔で言う。


「晴れたから…サッカー出来ます。もう、雨はやんだんですよ」

「……」

その言葉を聞いて、俺はもう一度外を見る。
青空が広がり、太陽の光が降り注いでいる。木々の葉っぱや、窓は水滴に濡れていて…雨は確かに降っていたのだと教えている。

それでも…


「雨は、やんだんです」


背後から聞こえた声に、笑みが溢れる。

「そう…だな」


手に持っていたボールを倉間に投げ返して、扉に向かって歩き出した。


「朝メシの時間までだからな」

ボールを受け止めた倉間の横を通り過ぎるときにその頭をポンッと叩く。
直後に「はいっ」という返事と共に倉間が付いてくる気配が伝わってきた。




雨はもうやんだ。
だから、思いきりサッカーをやろう。









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るり様
ありがとうございます。
シリアス甘な倉南……でしたでしょうか?
期待に添えているかは分かりませんが、こんなものでよろしければ、もらってやってください。
リクエストありがとうございました。


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