「よし、全員揃ったな。では話し合いを再開しよう」

砂木沼の言葉に源田が頷く。

「あぁ、それぞれが集めた情報を提示して何かここから出るヒントになるものを探そう」


それに皆が頷いたとき、


「ちょっと待って」


春奈が声を上げて皆の注目を集める。「どうした」と砂木沼が問えば「えーっと…」と軽く小首を傾げた。


「名前なんだっけ…あの、水色の髪を一つに結った美人な、あ……そう!風丸さん!いないけど」

「え?」

春奈に言われて全員が辺りを見渡す。確かに風丸の姿はここにはなかった。


「え…だ、誰か風丸と一緒とかじゃなかったの?」

緑川の不安気な声に数名は首を横に振り、残りは何の反応もしない。「そんな…」と、照美が眉尻を下げた。


「誰も風丸くんを見てないの…?」


その言葉に円堂は先程の入学式でのペンギンの言葉を思い出した。



『殺害方法は問わない。仲間の誰かを殺した者だけがここから出られる』


まさか…そんな、
心配しすぎだ。あれで本当に殺人が起こるなんて…


「とにかく」

砂木沼は不機嫌そうに腕を組んでこの場にはいない風丸のことを言う。

「大方、遅刻しているのだろう。しかし団体行動というものは一人の怠慢によって乱されていいものではない。よって、風丸はいないが、話し合いは始めることとする」


そう言われて反論する者はおらず、結局風丸不在のまま話し合いが行われることとなった。



「ね、円堂くん」

「ん?」

夏未に名を呼ばれて見れば夏未は微笑んで提案する。

「まずは、皆の報告を聞くことからね」

「あぁ、そうだな」

「…ふふっ」

「?」

何故、夏未が笑ったのか分からなかった円堂が首を傾げると夏未は嬉しそうに手を合わせて円堂の目を見つめた。

「今、私本当に円堂君の助手みたいじゃなかった?」

「ははっ、そうだな」

「頼りない助手だけど、これからよろしくね?」

「いや、夏未はこれ以上ない助手だよ」

円堂のその言葉に夏未は本当に嬉しそうに笑って「うん」と頷いた。直後に「ま、円堂くんの方が私の足を引っ張らないようにしてね」などとツンデレアイドルらしさも忘れない。
それに苦笑しながら、さて…、と円堂は他のメンバーに目をやる。


始めるか…



円堂のその気持ちを察したかのように夏未が口を開いた。


「じゃあ、まず…円堂くんが部屋にいて分からなかった情報からね。皆で手分けして校内を探索することにしたの。その時に鬼道くんと砂木沼くんは別行動……あと、風丸くんも」


ふと、円堂の頭に風丸の顔が浮かび、再び不安やら心配やらで思考が混乱しそうになった時に自分の名前を呼ばれた鬼道が探索結果を話始めたので、意識を無理やり戻す。


「俺が調べていたのは俺達をここに閉じ込めた犯人についての手がかりだ…あのペンギンの本体のことだが」

皆の期待の視線が鬼道に向かっている事が分かる。
鬼道はそれに大して反応することなく続けた。


「分かったことは特にない。以上だ」

「そ、それだけか…?」

砂木沼が拍子抜けしたようにそう訊ねれば、鬼道はチラリと砂木沼の視線をやり「何を分かりきった事を…」とでも言うように嘆息した。

「何か分かった事があれば報告している。以上だ。と言えばそれで終わりだ」


「む…そうか」

至極当たり前の事を言われ、砂木沼も返す言葉が見つからずそれ以上鬼道に追求することはなかった。


「では、次は私から報告しよう」

そして、そのまま自分の報告に入る。
皆の視線は鬼道から砂木沼へと移り、砂木沼は軽く頷いて探索結果の報告を始めた。


「私は寄宿舎エリアを調べていた。まぁ、そこには皆も分かる通りにそれぞれの個室があったな」

「ドアにネームプレートが貼ってあって、それぞれの部屋を指定されてたね」

「ご丁寧に名前付きの鍵まで用意してね」

緑川の言葉にヒロトが肩をすくめながら補足する。


「それと、あの部屋は完全防音みたい。私と照美ちゃんで確認したの」

春奈が「ね?」と照美に笑いければ、照美は「うん…」と頷く。

「隣の部屋で大声出しても全然聞こえなかったよ」

「それに綺麗なシャワールームまで付いとって贅沢やなぁ。しかも鍵付きやで」

リカが満足そうにウンウンと頷けば、春奈は「うーん」と軽く唸る。


「でも、シャワールームに鍵がかかるのは女子の部屋だけみたいだけど…」




春奈のその言葉に円堂は内心で首を傾げた。

おかしいな…自分の部屋のシャワールームには鍵がかかっていたような。

後でもう一度調べてみる必要があるようだ。


再び円堂の思考が別の方向へ飛びかけた時、源田が「というより、個室まで用意されていて泊まる方向に持っていかれているな」と唸った。
それに砂木沼が「ないよりはマシだ。今日中にここから出られるとは考えにくい」と返し、源田は溜め息を吐いて頷いた。


「それよりさ。君の報告はそれだけなのかなぁ?」

吹雪が悪気なく発したその一言に砂木沼が「う…」と言葉に詰まる。


「い…以上だ。次の報告に移ろう」

「あ…なんか、ごめん」

吹雪は萎縮したように一歩後ろへと下がる。

夏未は「ふぅ…」と小さく溜め息をついて「それで」と話を続けた。



「松野くんと佐久間くん、あと春奈さんと照美さんは一緒に行動してたのよね?」


「うん。私達は廊下や教室の窓に貼り付けられてる鉄板を調べて回ったの。どこか外れるところはないかなって」

「で、結果は?」

円堂の問いに佐久間はぶすっとした様子で答えた。

「全滅だよ。あの鉄板ビクリともしねぇ」

「どこにも逃げ道はなくて…この学校、本当に封鎖されちゃってるみたいなんだ」

照美は今にも泣き出しそうな表情で俯き、春奈はそれを見て顔を顰める。

「本当にやばいかも…」

「ちょっとやめてよ。俺まで不安になってくるじゃん」

女子の落ち込み具合にマックスも顔色が悪くなる。夏未はチラリと円堂の顔を見て「とにかく続けましょう」と出来るだけ明るい声を出して皆を励まそうとしていた。


「基山くんと緑川くん、源田くんは一緒だったわよね?」

「うん。俺達は学校エリアの方を調べてたんだ。外との連絡手段はないかなぁって…」

緑川が頷けば緑のポニーテールがゆらりと揺れ、「でも…」と俯けばそれに合わせて項垂れているように見えた。

「何も分からなかった…ごめん」

「玄関ホールの鉄の扉もどうにかならないかと調べてみたんだが」

源田とヒロトは困ったような表情で首を横に振った。
聞かなくても結果は分かっていたが、やはり改めて現実を突きつけられると辛いものがある。


「俺とヒロトが何をしても傷一つ付かない。机や椅子。何をぶつけても駄目だった」

「大抵の扉なら壊せる自信があったんだけど、さすがにあれ程の大きさの鉄の扉は無理だったな」

「…なんか泣きたくなってきた」

緑川が更に落ち込み視線が完全に床に移ると、ヒロトがその肩を軽く叩いて励ます。


「じゃあ、続きは俺から話すね」


ヒロトは緑川を安心させようとするかのように、緑川の前に出て、皆の注目を自分に集めて報告を続けた。


「外との連絡手段とは直接の関係はないけど、ちょっと気になるものを見つけたよ」

「気になるもの?」

円堂が首を傾げれば、ヒロトは軽く頷いて白くて細い指を口元へと当てた。

「学校エリアと寄宿舎エリアには2階へ続く階段があったんだ」

「でもね、シャッターが下りてて上れなかったんだ。スイッチらしいものも見つからなかったし」

ヒロトの背後からひょこっと顔を出した緑川がヒロトの言葉を続ければ、ヒロトはそれに微笑んで「そうだったね」と頷いた。


「つまり、現時点ではこの建物の1階部分しか調べる事はできないという訳だけど…それってつまり、2階部分にはここから出られるヒントが隠されてる可能性が残ってるって事……脱出口がある可能性もね」







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