お前はいつもそう。
素直じゃなくて、天の邪鬼で、優しさを意地悪で表現するのな。
俺は知ってるよ。
何でかって?お前の事をいつも見てたから。
よく見えるよ。お前がちっちゃくても…って言ったら怒るかな?
お前のところからは俺は見えないだろうけど…
「霧野、部活始まるぞ。行かないのか?」
ホームルームが終わって、机に頬杖ついてボーッとしてた俺に倉間が話しかけてくる。
クラスメイト達はそれぞれの部活だったり、家だったりに向かうために教室から去っていく。
俺も本来ならその流れに乗ってサッカー棟に行くべきなんだけど、
「…ちょっと気分が」
乗らない。
「…具合悪いのか?変なもん食ったんじゃねぇ?浜野じゃないが」
「ちょっと何それ、どういうことー?」
席を立った直後の浜野が中途半端な体勢のままに此方を見て不満そうに声を上げた。
「そのままの意味だよ。お前その辺で釣った魚とか食うなよ?猫じゃないんだから」
「ちゅーか、失礼でしょ?そんな事しないし。たぶん」
腕を組んでまで宣言するくせに断言はしないんだな、浜野……というか、倉間の今の言葉は貶してるんじゃなくて心配してるって気付けよ。
ムカつく
「どーでも良いから部室に行って神童に俺遅れるって言っといて。霧野はもしかしたら休むって」
「人使い荒いー」
「うっせぇ、早く行け」
倉間に追い立てられるように教室を出ていった浜野を見送り、暫く扉の付近に視線を向けていると倉間が「で?」と口を開いたから視線を倉間に向けた。
「大丈夫なのか?」
「何が?」
「何がって…具合悪いんじゃないのか」
あぁ、そういう話になってたんだっけ。
「…大丈夫」
「本当か?風邪とかだったりしたら無理して部活に出ると他の部員にまで迷惑かけるんだからな」
未だに自分の席に座ったままの俺と、俺の隣に立っている倉間。
倉間は小さいから視線の高さにあまり差はない。
「聞いてるのか?」
「聞いてる…なぁ」
お前はいつもそうだよな、
素直に心配だから休んどけ、って言えば良いのに
「ん?」
お前の性格は誤解されやすい。
それで自分が損してる、なんて気付いてないだろ?
「俺なんかに目を付けられちゃってさ…」
「は?」
倉間が俺の言葉を理解し終える前にその細い腕を思いきり引いた。
「…っ!?」
倉間の見開かれた目がこんなに至近距離に見える。
至近距離すぎてぼやけてるけど…
「…っ、おまっ…」
倉間が我に返って俺から離れる。真っ赤な顔して口元をゴシゴシと擦る倉間を見ていると笑いが込み上げてきた。
「大丈夫だよ。もう誰もいないから」
そう言われて、ここが教室だと思い出したのか…「誰もいない」と言ったのに、ハッとした様子で辺りを見回す。
「お前…なに…」
教室内を見回していた視線が俺に返ってきた時に立ち上がる。
すると、面白いくらいにびくついて俺から一歩離れた。
「部活」
「え?」
「部活、行くんだろ?」
鞄を持って歩き出した俺の後を、一瞬遅れて倉間がついてくる。
「待てよ、お前具合は…」
まだソレ言ってんのかよ…
「だから、大丈夫だって…風邪なら今、お前に移したから」
「…は?……え?…ちょっ、そういう意味かよ馬鹿!ふざけんな!」
そういう意味な訳ないだろ。馬鹿はお前だ。
ふざけて男にキスとか出来るか
「お前って、いつもそう」
「何だよ!」
「鈍感」
「はぁ?馬鹿にしてんのか?」
「悲観してる」
「余計、ひでぇ…」
「……はぁ」
「溜め息つくな」