そして、生徒達は寄宿舎エリアに向かい、各自の部屋を確認する事にした。
円堂は自分の部屋に入り、辺りを見渡す。当然のように窓には鉄板が打ち付けられており、監視カメラも設置されている。
ベッド脇の小さな棚の上にはメモ帳。その棚の引き出しを開けてみると未開封の工具セットが置かれていた。
部屋の隅の方には掃除用だろうか?コロコロタイプの粘着テープクリーナーがある。
部屋の中には扉が二つあり、一つは外の廊下へ出るドア。
そしてもう一つはシャワールームらしい。
どのようなものか見てみようとドアノブに手をかける。
− ガチャガチャ
「…あれ?」
ドアには鍵がかかっているのか、開きそうにない。
「うーん」
まぁ、開かないものはどうすることもできない。
ふと机の上に視線を向けると自分の名前が書かれたキーホルダーの付いた鍵が置かれている。この部屋の鍵なのだろう。円堂はそれを取るとポケットにしまった。
壁には張り紙がされている。見ると『学園長からのお知らせ』とある。
『各自の部屋の鍵にはピッキング防止加工がされています。鍵の複製は困難なので紛失には気をつけてください。部屋にはシャワールームが設置されていますが、夜時間には水は出ません。また、女子の部屋のみ、シャワールームは施錠できるようになっています。最後に、皆さんにプレゼントを用意しておきました。女子生徒の皆さんには裁縫セットを…男子生徒の皆さんには工具セットです。裁縫セットには人体の急所マップをつけてあるので女子の皆さんは其処を針で一突き、男子の皆さんは工具で頭部への殴打が効果的かと思われます』
「………」
円堂はその張り紙を剥がして丸めるとゴミ箱へと放り投げた。
「さて…」
ある程度部屋の確認は終わった。
皆はどうしているだろう…
円堂は他の生徒と合流するために部屋を出る。
扉を開けるとすぐに夏未が居た。
「あ、丁度良かったわ円堂君…貴方を呼びに来たの」
「俺を?」
「えぇ、ちょっと食堂まで来てくれない?」
夏未は頷き、説明する。
「結局、皆で別行動をとる事になったのよ。各自で校内を探索して、分かったことを皆で集まったときに報告する形になったわ…で、皆は既にちょっとだけ校内を見て回っててそれを今から報告するの」
「え、それなら言ってくれれば俺も校内回ったのに」
「まぁ、とりあえずは様子見だし…これからもその方法でいくなら円堂君にも頑張ってもらうわ」
ニコリと笑った夏未に円堂も「おう」と笑って返した。
そして夏未に連れられて食堂へと向かう。その際にチラリと部屋の扉を見ると生徒の名前が書かれたプレートがあるのが分かった。
円堂が出てきた部屋の扉にはもちろん円堂の名前が書かれている。
それに特に気に留めるでもなくすぐに視線を逸らして、夏未の後を追った。
食堂に着いたが、他の生徒達はまだ来ていないようだ。
ちょっと待つか…
「そうね、待ちましょう」
「えっ」
また、考えていたことがバレた…?
「私、エスパーだからね」
「……」
「ふふっ…冗談。ただの勘よ」
本当にただの勘か…?
しかし、確かめようもないので何も言えずにいると夏未が口を開いた。
「ところで…円堂君に確認しておきた事があるんだけど」
「ん?」
「自己紹介の時から気になってたのよ…円堂君ってもしかして雷門中じゃなかった?」
「え、そうだけど…」
円堂が頷くと夏未は笑顔になり「やっぱり!」と手を合わせる。
「私も同じ中学だったのよ。覚えてる?」
覚えてるも何も、夏未は中学の時には既に『超』のつく有名人だった。円堂が同じ中学に通う夏未を覚えていないはずがない。
それよりも寧ろ、夏未の方が円堂を覚えていたことに円堂は驚いた。
「覚えててくれたのか」
「当たり前よ。同じ中学だったんだから…それにしても、知ってる人がいて良かった。何だか円堂君と話してると楽になれるし、安心するわ」
「そ、そうか」
「あ、そうだわ。これも何かの縁だし…私、円堂君の助手になるわ」
「助手?」
「えぇ、色々と調べるの…円堂君のお手伝いするから一緒にここから出ましょうね」
にっこりと笑う夏未の笑顔に円堂も頷いて笑顔を返した。
そうだ、此処から出なくてはいけない。
その為にはこの学園の情報を集めないと…それにしても皆遅い。
円堂がそう思った時にタイミングよく食堂の扉が開かれて砂木沼が入ってきた。
「む…他の奴らはまだ来ていないのか」
「まぁ、おとなしく待とうぜ」
「あぁ」
それから暫くして徐々に生徒達が集まってきた…。