「……………」
ペンギンが居なくなってから、重苦しい沈黙が体育館に落ちる。
全員が疑心暗鬼に駆られていた。
『誰かが自分を殺すのではないのか』
どれ程続いたか分からない沈黙を破ったのは風丸の冷静な声だった。
「それで?」
再び皆の注目が風丸に注がれる。当の本人は腕を組んで無表情に告げた。
「いつまで此処で睨み合いを続けるつもりだ?」
「確かに…その通りだな」
砂木沼と源田は重く頷き、しかし目金がオロオロと震える声で話す。
「し、しかしですね…一体これから何をすれば」
「馬鹿か、出口を探すに決まってるだろ」
マックスの呆れた口調に佐久間がイライラとした様子で続けた。
「ついでにあのペンギンの本体を捕まえて袋叩きだ」
「で、でも…その前に生徒手帳の中身を見ておこう?何が校則違反なのか分からないし…知らずに違反しちゃったら」
照美はそこまで言って、言葉を濁す。すると先をリカが引き継いで続けた。
「ルール知らずに校則違反して、いきなりドカンは嫌やろ。ウチも生徒手帳は確認すべきやと思うわ」
「それじゃあ、先に校則の確認から」
春奈も頷き、それぞれ生徒手帳を開く。
円堂も手帳を開いた。起動させると【円堂 守】という名前が表示された。ペンギンの言う通り、本人の名前が表示されるようだ。
次に表示されたアイコンの中から【校則】のアイコンを選ぶと、校則が箇条書きで表示された。
・生徒達はこの学園内で期限のない共同生活を行いましょう。
・夜10時から朝の7時までを【夜時間】とします。夜時間には立ち入り禁止の区域もあるので注意しましょう。
・就寝は寄宿舎エリアに設けられた個室でのみ可能です。個室以外での故意の就寝は居眠りと見做し、罰します。
・希望学園について調べるのは自由です。特に行動に制限はありません。
・学園長ことペンギンへの暴力を禁じます。監視カメラの破壊も禁じます。
・仲間の誰かを殺したクロは【卒業】となりますが、自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません。
・なお、校則は順次増えていく場合があります。
「……」
読み終えて顔を上げる。
他の生徒達も読み終えたようで、暗い表情だ。
「こんな馬鹿げた校則守る必要があるのか」
源田が苦々しく呟くとリカが妖しく笑った。
「ほんなら校則を気にせずに行動してみやらどうや?ウチとしても校則を破った場合にどうなるか気になるし」
「いや、しかし源田君は先程の件でライフが危うい状態…」
「……」
目金の言葉に源田は口を閉じる。そして小さく呟いた。
「男の約束は守れと兄に言い聞かせられた。そして兄と約束し…その約束をまだ果たしていない」
「つまり」
リカが面倒臭そうに「よう分からんが校則は守るってことやな?」と確認し、源田は渋々頷いた。
「ねぇ、ちょっと良いかしら」
夏未が生徒手帳に視線を落としながら言葉を発する。
「この校則の6項目だけど…どう思う?」
・仲間の誰かを殺したクロは【卒業】となりますが、自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません。
「『自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません』って所だろ?俺も気になってた」
円堂も「うーん」と首を傾げながら頷くと鬼道は溜め息を吐きながら言う。
「卒業したいなら誰にも知られずに殺せ、という事だろう」
「何で…どうして?」
吹雪が弱弱しく呟くと鬼道は吹雪を睨みつけて低く言う。
「理由などどうでも良い。決められたルールは守るもの。お前らはそれさえ頭に入れておけばいいんだ。他人に決められた事しかできないような奴らがいちいち騒ぐな」
「…っ」
鬼道の冷たい声音に吹雪はビクッと肩を震わせ俯き、黙ってしまった。
しかし…、
「……ふふっ」
俯いた吹雪は小さく笑みを溢していた…側にいたマックスだけはそれに気付いて「え」と思わず声を漏らす。
「とりあえずさ!」
気を取り直そうとするかの様に緑川が明るく声を上げた。
「殺人とかそういうのは置いといて…校則も分かったことだし、校内の探索をしようよ」
「そうだな…ここがどこなのか、出口はあるのか、食料はどうなのか…調べなければならない事はたくさんある」
砂木沼も緑川の提案に賛成しマックスも一歩、吹雪から離れながらウンウンと頷く。
「それじゃ、皆で行こうか」
「俺は一人で行くぞ」
「え?」
鬼道のセリフに春奈が少しだけ顔を顰めた。
「今の流れでそれはないんじゃ…」
「この中に他人を殺そうと考えている奴がいないとも限らん…そんな奴らと行動を共にできるか」
「ちょ、ちょっと待ってよ。そんな事」
「ないとは言い切れない」
夏未の言葉を遮るように鬼道が若干声を荒げた。
「だからこそ、お前達は【卒業】のルールを聞いて恐怖を感じた…違うか?」
「そ、それは…」
「俺は俺の思った通りに行動する」
夏未が言葉に詰まると鬼道はそう言い放ち歩き出した。
しかし、源田がその前に立ち塞がる。
「待て、今の状況で勝手な行動が許されると思うのか?」
「どけ。お前らに許しを請う必要はない」
険悪な二人の空気に円堂は間に割って入る。
「待てよお前ら、今は喧嘩なんてしている場合じゃないだろ!」
「とにかく」
静かなのによく通る風丸の声が辺りに響いた。
「いつまでもここに居る訳にはいかないというのは理解できたな?そして全員の意見もまとまらない…一度頭を冷やすべきだ」
「せやなぁ…協調性のない奴と行動してもええ事ないし」
「どうやら、俺達にはそれぞれ個室が割り当てられているらしい…まずは各自、自分の部屋の確認をして落ち着こう」
風丸のその提案には鬼道も異議がないようで「ふん…」と視線を背けるだけに止まった。