「んー?」

佐久間の発言にペンギンが可愛い子ぶるかのように首を傾げる。その様子を見ながら佐久間は呆れ顔で続けた。

「はいはい、もう十分驚いたから良い加減にネタばらししたら?」

「ネタばらし?」

続いて逆の方向に首を傾げてあくまでも佐久間の言葉を理解している素振りを見せない。若干苛立ちながら「だから…」と佐久間は腰に手を当てて言う。


「ドッキリとか何かなんだろ?」

「もう良い。どこをどけ佐久間」

ペンギンを宥めすかすような佐久間に対して、一見冷静に見えていた源田は相当怒りが溜まっていたようで、ペンギンに近づくと凄みをきかせる。


「もう謝ってすむような問題ではないぞ。お前の悪ふざけは度がすぎる」

「悪ふざけ…?君達の僕に対する態度の方が悪ふざけだと思うなぁ」

「……」

源田は無言でペンギンに近づきその身体を掴み上げる。

「あわわわっ」

ペンギンはジタバタと暴れながら「学園長への暴力は校則違反だよぉ!」と叫ぶ。

「うるさい。壊されたくなかったら今すぐ俺達をここから出せ」

「………」

源田に掴まれてさんざん暴れていたペンギンの身体が突然ピタリと止まった。

「?」

「………」

「おい…」



 − キュルルルルル…


ペンギンの身体から不自然な機械音が鳴り始めた。一瞬の間をおいて、ハッとしたように風丸が叫ぶ。


「危ない!ソレを投げろ!!」

「!?」

源田はその言葉に反射的にペンギンの身体を宙に投げた……次の瞬間、




 − ドカンッ!!



激しい爆発音と共にペンギンの身体が砕け散った。


「な…」

源田は一瞬でも遅れていれば自分も共にあのようになっていたのだと理解した瞬間に冷や汗が身体を伝うのを感じた。

「冗談じゃない…」

緑川は青ざめ、ヒロトは眉根を寄せる。円堂は目の前で起こったことが信じられなかった。一歩間違えば死人が出るところだった。冗談や悪ふざけではもはや済まされない。


「で、でも…爆発しちゃったし。あのぬいぐるみも壊れちゃったんじゃあ」

照美が困惑して呟くと「だからぬいぐるみじゃないってば!」との言葉と共に再びペンギンが現れた。

「げ…別のが出てきた」

マックスは顔を顰めて新しいペンギンに視線を向けた。源田はそのペンギンを睨みつけてゆっくりとした口調で言った。


「お前…今のは本当に俺を殺そうとしたな?」

その問いにペンギンは当たり前の話だとでも言わんばかりに「もちろん!」と答えた。

「当然でしょ?校則を破るような悪い子にはおしおきが待ってるんだよ。今回は最初だし、特別に許すけど今後は気をつけてよね!」

「ね…ねぇ、もしかして」

春奈が今の出来事を見ておそるおそるペンギンに訊ねる。


「君みたいなのってたくさんいたりするの…?」

ペンギンはくるりと春奈に身体を向けて頷く。


「僕、ペンギンくんは学園内の至る所に設置されています。更に監視カメラによって学園内は監視され、校則違反をした者を見つけた場合は今みたいにグレートなおしおきを発動しちゃうよ」

「そ、そんな…」

吹雪が今にも泣きそうな顔で俯いた。そんな吹雪には目もくれずにペンギンは明るく続けた。

「さてさて、入学祝いにオマエラにこれをあげよう」

そう言って一人一人に手帳を渡す。

「この学園の生徒手帳だよ。最新の素晴らしい技術を駆使して作られた電子手帳。この学園生活において必需品だから絶対になくさないようにね」

それぞれ複雑な思いでその手帳に目を落とす。
この手帳が自分がこの学園の生徒だという証…この学園から逃れることはできないのだと告げられているかのようだ。


「その手帳は起動時に持ち主の本名が表示されるから各自で確認しておいてね!…生徒手帳として以外の使い道もあるし、それにその手帳は完全防水!水に沈めても壊れない優れもの!耐久性もバッチリで10トンくらいまでなら耐えられるよ。凄いでしょー?詳しい校則も載ってるから死にたくなかったらちゃんとチェックしておいてね」

誰も応えはしないがペンギンは笑う。

「では、入学式はこの辺で終わりにしようか…それじゃ、学園生活を楽しんでねー」


そう言って、ペンギンは姿を消した。
残された生徒達は皆、複雑な心境でその場に居た。


「お前達…今のをどう考える?」

「どうもこうも…」

砂木沼の問いにマックスが思い切り顔を顰めて首を横に振る。

「全然意味分かんないよ」

「一生ここで暮らすとか…誰かを殺すとか…もう嫌だ」

吹雪は首を左右に振って怯えている。



「落ち着け」

風丸の言葉に皆の視線が風丸に集まった。風丸は黒い手袋に覆われた手を口元に当てて静かに話す。

「とりあえず今までの事を整理しよう…あのペンギンの話によると、俺達には二つの選択肢が与えられている。一つは全員でこの学園内で期限のない共同生活を送ること」

「もう一つが、生きて出る為に仲間の誰かを殺すってやつやな」

風丸の言葉をリカが続けて言い、風丸もそれに頷いた。


「こ、殺すなんて…そんなこと……」

照美が胸元で手をギュッと握り締めて「無理だよ…」と呟き、目金も困惑した様子で眼鏡を押し上げた。


「突然、拉致されて学園らしきところに閉じ込められて…いきなり殺し合いだなんてどうなってるんですか」

「こんな馬鹿げた話…嘘に決まっている」

砂木沼のその言葉に鬼道が反応する。

「嘘か本当かは問題ではない…問題なのはこの中にその話を本気にする人間がいるかどうかだ」


その言葉に全員がハッとしたように辺りを見渡す。誰が何を考えているかなんて分からない。本当に心の底からここに居る全員を信じる事ができるのか?



『誰かを殺せばここから出られる』



誰かが裏切るのでは…?



円堂は知らずに拳を握り締めていた。
この様な形で学園生活が始まるなんて…何が希望の学園だ。

ここは希望の学園なんかじゃない。絶望の学園だ…。









       【生存者:15人】














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